お隣さんの足になる

お隣さんが ピンポンを押した
画面越しに 苦しそうに訴えた
すぐに車を出して 病院に運んだ

容体は治まり 連れて帰った
お隣さんの娘が出迎え お礼された
独り暮らしの老婦人だった

何かあったら いつでも声をかけてください
リップサービスに 深い意味はなかった
その後から お隣さんのお願いが始まった

病院への送迎
買物への送迎
まるでタクシー代わりに 電話がかかってきた

このままでは ストレスが溜まる一方だった
どこかで ケジメをつけねばならなかった
善意では済まされない 苦痛となった

声をかけてと言った手前 反故するには心が痛んだ
断りをしない限り 当たり前のようにふるまった 
善意が重荷となり 苦役となった

つけあがってくるのを 抑えたかった
どう切り出そうかと 悩んだ
いい人ぶるのは辞めようと ようやく決めた

緊急の時には 手を貸すことを伝えた
通院や買物は 娘さんにとお願いした
タクシーを 利用することも薦めた

その後 お隣さんの攻勢が始まった
身勝手な隣人は 被害者になりすました
あることないこと 近所に吹聴された
世間に肩身の狭いおもいで 暮らさざるを得なかった

付き合いの限度のバリアが外された瞬間
要求はエスカレートして 断り切れぬ事態に陥る
関係の破綻は 我欲が支配する結末であった

お一人様がどんどん増える
支える善意の人は減る一方
隣人とのちょうどいい関係づくりこそ
求められるきずなづくり そのものか
そこに挑む人たちがいることだけが 
いまの世の救いかも知れない

〔2021年4月18日書き下ろし。「時々入院ほぼ在宅」を支え合う隣人たちの善意に頼る自助と互助はすでに限界は見えている。そこに挑む社協や民生委員にエールを贈りたい〕