21世紀はガバナンスの時代と言われ、いかに自治体主導から住民主体のまちづくりへ転換していくかが問われている。そのような時代の中で、「市民福祉教育」を通して主体的・自律的・能動的な実践主体としての住民形成を図ることの必要性を説いたのが本書である。本書は、福祉教育の実践と研究に長年携わってきた著者が、学校福祉教育と地域福祉教育を融合する「市民福祉教育」について追究し、その構築を図りたいという想いのもとに編み上げた集大成とも言える書である。
著者は、「市民福祉教育」を追求するにあたって、「歴史」「理論」「実践」という3つの要素が相互に関係していることを重要視している。第1章から第3章では「歴史」、第4章から第9章では「理論」、第10章から第13章では「実践」についてそれぞれ論述されている。「歴史」については、明治40年代以降の「地方改良運動」の取り組みにまで遡り、その後の福祉改革や教育改革に着目しながら「日本福祉教育・ボランティア学習学会」設立までの福祉教育の形成・展開過程などをわかりやすく解説している。「理論」については、特に第4章の「市民福祉教育の理念と構造」において、「市民」の育成や「住民自治」の実現を目的とした「市民福祉教育」の概念の説明、基本的な考え方が提示されている。「実践」については、狛江市社会福祉協議会の“あいとぴあカレッジ”の取り組みや高岡市社会福祉協議会の「ジュニア福祉活動員」育成事業などを取り上げ、実践事例の検証を行っている。
本書は、「歴史」「理論」「実践」の3つの側面から「市民福祉教育」の意義や今後のあり方について必要な視点・視座を示唆しており、福祉教育に従事する人をはじめ、1人でも多くの方々に読んでいただきたい一冊である。
(「ブックガイド」『社会福祉研究』第108号、鉄道弘済会、2010年7月、48ページ)