長野県における福祉教育の取り組み―資料紹介(1)― 

いわゆる「3号雑誌」にも至らず、創刊から2号で廃刊になった、福祉教育に関する幻の雑誌に『ボランティア・福祉教育研究』がある。編集・発行は全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センターである。創刊号は1982年3月(実際は同年8月。B5判、117ページ)、第2号は翌1983年9月(159ページ)にそれぞれ発行されている。
その第2号に筆者(阪野)の拙稿「福祉教育の最近の動向―『福祉教育手引書』をめぐって―」が掲載されている。それは、神奈川県、長野県、佐賀県、それに山口県における福祉教育(事業)の取り組みの概説と、各県で発行されている福祉教育手引書の内容紹介と分析・評価を通して、福祉教育が抱える課題について言及したものである。
いま、筆者は、手元にある福祉教育関連資料の整理を行っているが、長野県の福祉教育の取り組みに関する資料(史料)が見つかった。(1)「福祉教育」取組み内容と経過(B4・1枚、2段)、(2)長野県福祉教育の推進(B4・1枚)、(3)福祉教育事業実施計画(B4・1枚)、(4)長野県福祉教育の推進(B4・1枚)、(5)長野県福祉教育の推進((案)と加筆されている)(B4・1枚)、(6)福祉教育第3次推進計画(案)について(B4・2枚)、がそれである。(1)の資料の片隅に「93年3月9日 17時27分;長野県社会福祉協議会」と記されていることから、これらの資料はファクス受信したものであろう。20年も前のことである。
ここでは、上記の拙稿のうちから長野県に関する記述部分を再掲し、それに併せて6点のうちから(1)(2)の資料を紹介する。それによって、汗顔の至りである拙稿の論述に抜け落ちていた部分をうめることにしたい。以下の2点の資料からは、1950年度から全国に先駆けて取り組まれた神奈川県における福祉教育事業とともに、長野県(社協)におけるそれが、1977年度の「学童・生徒のボランティア活動普及事業」の創設に影響を及ぼしたであろうことが分かる。併せて、長野県の福祉教育事業の取り組みの内容や成果が、その後の全国の福祉教育事業の展開に反映、具現化されたであろうことも推察するに難くない。
周知の通り、長野県には、ペスタロッチ主義教育を内実とする開発主義教育(その対極に注入主義教育がある。)を提唱、導入し、「信州教育」の礎を築いたとされる能勢栄(1852年~1895年。明治前期の教育学者)の教育実践の歴史がある。また、その信州教育の運動を支えた「信濃教育会」(教員の職能団体)がある。それらは、かつて長野県が全国でも有数の「教育県」と呼ばれた所以のひとつでもある。とはいえ、長野県の福祉教育の取り組みが、後発の1967年度の静岡県、1971年度の宮城県(社協)、1972年度の山形県(社協)をはじめとする他県のそれに比して、より積極的・計画的かつ総合的であったのは何故か。例えば、1980年9月の第29回県社会福祉大会で「長野県福祉教育大綱」が採択され、翌年9月の第30回県社会福祉大会では「福祉教育」の推進宣言がなされている。また、1982年5月に教師のための福祉教育手引書『ともに生きる』や、1983年8月に小学校低学年生、翌年9月に小学校高学年生のための福祉教育読本『思いやる心』などを発行する。さらには、1982年8月に文部大臣、1984年6月に自由民主党文教制度調査会会長に対して福祉教育の推進について陳情までしている。1983年4月に始まる福祉学習モデル公民館の指定事業(公民館8館を期間2年、補助1館5万円で指定)も特筆される。こうした長野県での取り組みは、(学校)福祉教育の嚆矢とされる神奈川県における取り組みから13年後のことであるが、それは何故か。言い換えれば、神奈川県のそれが早期に他県に波及あるいは普及しなかったのは何故か。福祉教育についての歴史研究の課題は多い。
以下にまず、「福祉教育の最近の動向―『福祉教育手引書』をめぐって―」(『ボランティア・福祉教育研究』第2号、1983年、102~110ページ)を再掲する。

(2)長野県
①社会福祉普及校事業
長野県では、昭和38年度から「社会福祉普及校事業」を実施している。神奈川県につぐ先駆的なこころみである。その「設置要綱」によると、普及校事業は「児童・生徒が体験を通じて社会福祉への理解と関心を高め、日常生活の中に相互扶助、社会連帯の思想を浸透させる」ことを目的とする。
事業の実施主体は県社協である。当初は県社協が高等学校1校を指定し、生徒の活動のひとつとして社会福祉や社会保障制度についての調査・研究がおこなわれた。昭和41年度には「社会福祉普及協力高等学校設置要綱」が定められた。普及校事業の制度的確立とともに、指定校の拡大(8校)、活動内容の充実がはかられている。ついで昭和45年度からは、その名称が「社会福祉普及協力校」と改められ、協力校の指定枠も専門学校・短期大学に拡大された(専門学校・短期大学の指定は昭和53年度で中止されている)。
さらに、昭和50年度からは中学校、54年度からは小学校の指定が開始された。翌55年度には普及校の指定方法が改められ、市町村社協との連携のうえに指定されることになった。また、社会福祉普及協力校が「社会福祉普及校」と改称された。昭和57年度においては、41市町村社協が普及校事業に取り組み、小学校29校、中学校36校、高等学校38校の計103校が1カ年の指定をうけている。
昭和55年9月、第29回長野県社会福祉大会において「長野県福祉教育大綱」が決議・採択された。大綱では、「人間がお互いに人間らしく生きるため、自分の生命や生活ばかりでなく、他人の生命や生活を尊重し、より住みよい福祉社会の実現をめざして、行動や体験を通して実践していく方向」が示された。それをうけて、県社協はさっそく、同年11月と翌56年6月、教師、児童・生徒、それに保護者を対象に福祉教育についての意識調査を実施した。その調査結果は、昭和57年2月、『学校教育、家庭・地域づくりのための意識調査』として報告されている。
②『ともに生きる』
長野県社協は、昭和57年5月、『ともに生きる―教師のための福祉教育手引書』を刊行した。これは、上述の長野県福祉教育大綱が示す「学校(含幼稚園・保育所)における福祉教育」の方向と、福祉教育についての意識調査結果をうけて作成されたものである。編集は信濃教育会、編集委員はそのほとんどが学校教育現場の教師である。
手引書は、「Ⅰ 福祉教育の必要性およびねらい」「Ⅱ 指導計画および教育課程への位置づけ」「Ⅲ 関係資料」の3部構成となっている。Ⅱの「指導計画および教育課程への位置づけ」では、福祉教育の現状と課題、福祉教育のねらい、福祉教育の内容、福祉教育の機会と方法、福祉教育の具体例などの枠組のもとに、幼稚園・保育園、小学校、中学校、高等学校における福祉教育について説いている。そのうち福祉教育のねらいについては、その重点が学校段階別に、すなわち幼稚園・保育園は「思いやりの心を育てるために」、小学校は「実践活動を通して福祉の心を」、中学校は「実践活動を通しての社会参加」、高等学校は「自主的活動としての社会参加」におかれている。児童・生徒の発達段階や学校段階に応じた福祉教育を考え、しかも学校における福祉教育を一貫性のあるものにし、その構造化をはかろうとしている点はこの手引書の大きな特色となっている。
また、手引書は、多くの実践的具体例や指導案を収録している。具体的な実践活動をとおして「福祉の心」をはぐくみ、「人間性豊かな児童・生徒の育成」をはからんとするのである。(104~105ページ)(中略)
長野県社協発行の『ともに生きる』にはつぎのような記述がある。
「福祉とは、みんなが幸せに暮らすことができるようにするための願いや事業及び活動のことであるが、人々が幸せな生活を送るには、物の豊かさだけでなく、心の豊かさが必要である。福祉の根底となるものは、人々の心の問題であり、愛と奉仕の精神に支えられた社会連帯の精神、いわゆる『思いやりの心』である。また、さらにともに生きる喜びをもつための活動である。」
ここでは、「福祉」ということばが抽象的な目的概念として規定され、その精神性が強調されている。したがって、そこから、福祉教育のねらいは、思いやりの心、助けあいの心、奉仕の精神、社会連帯の精神などのいわゆる「福祉の心」を育成し、それを実践する態度を養うことにおかれる。こういった点は、長野県社協のそれだけではない。本稿でとりあげた福祉教育手引書に共通してみられる。
福祉教育には、「福祉の心」の昂揚をはかる領域とともに、歴史的社会的形成体としての社会「福祉のしくみ」について理解・認識させる領域がある。福祉教育のカリキュラムは、大きくはこの二つの領域によって編成される。それにもとづいた福祉教育の具体的展開は、児童・生徒自らが、まず地域社会の社会福祉問題に直面することからはじまる。そのうえで、その問題について考え、理解し、問題解決のための方法を見出し、そのための活動をおこなう。そして、その活動について評価する。しかも、これらの実践過程をとおして、児童・生徒の自己変革をうながすのである。また、こういった福祉教育実践の前提には、科学的社会認識と人権視点を基調にした民主主義的社会福祉観が据えられるべきことはいうまでもない。
ところが、前述した既刊の福祉教育手引書にはいずれも、人権視点や歴史的社会的視点が欠落している。しかも、そこでは、福祉教育実践のためのいわゆる“How  to”に重点がおかれ、具体的方策についての解説がその大部分を占めている。それは、学校教育でいうところの「各科教育法」のひとつ―「(実践)福祉教育法」といったところである。
福祉教育は、学校教育のみならず家庭教育や社会教育の領域においても、すなわちすべての生涯教育のプロセスを通じて展開される必要がある。しかも、その活動は、地域社会に根ざした住民運動とつながり、地域「福祉」教育運動に成長することが期待される。福祉教育実践が単に福祉サービス活動の一環としてのみ位置づけられ展開されるならば、それは、福祉行政の肩代わり、もしくは下請けの活動にとどまることになる。そして、いわれるところの「安上がり福祉」「福祉切捨て」推進の一翼をになうことにもなりかねない。こんにち、経済不況と財政危機を背景に自助と相互扶助の強化が叫ばれるなかで、その危険性は大きいといえる。
これらの点にも目配りした福祉教育手引書が望まれる。(107~108ページ)

次に、前述した長野県の福祉教育関連資料の(1)(2)を紹介する。

(1)「福祉教育」取組み内容と経過
昭和38年12月
社会福祉普及協力事業スタート
長野高校社会科学研究班に調査研究活動を指定(毎年1校指定)
41年度 「社会福祉普及協力高等学校設置要綱」
43年度 「社会福祉普及協力高等学校設置運営要綱」
45年度 「社会福祉普及協力校設置運営要綱」
50年度 「社会福祉普及協力校設置補助要綱」
52年度 「社会福祉協力校」併設(Ⅰ~Ⅳ期指定 昭和63年度まで6校ずつ3か年指定)
昭和47年7月
県社協会長、県教委委員長、教育長と第1回会談し、「福祉教育」について初の提案
昭和47年9月
第21回県社会福祉大会処理委員会決定事項として県議会議長に「福祉教育の充実強化」について請願
昭和50年8月
黒田県社協会長 県教育長室で関係者と第2回会談
昭和53年10月
第27回県社会福祉大会で「県民に福祉の心を育てる福祉教育」が必要。との提案が信濃教育会から出され採択される
昭和54年1月
福祉教育大綱作成委員会発足
委員長・県社協会長 副委員長・信濃教育会長 21委員で構成
昭和55年9月
第29回県社会福祉大会で「長野県福祉教育大綱」採択
昭和55年11月
教師を対象に「福祉教育に対する調査」実施
小学校(436校)、中学校(198校)、高等学校(104校)の各校、男女教師各1名1,424名を対象
昭和56年1月
「福祉教育に関する調査」集計
1,265名から回収(回収率・88.8%)
その結果 現在の学校教育で「徳育が一番欠けている」55.3% 欠けている理由として、「自己中心的」70.1% 「価値観が物質的」69.2% 「思いやりが欠けている」41.9% 福祉教育を取り入れることについて は、 「取り入れる方がよい」76.5%
昭和56年5月
教師のための福祉教手引書の編集を信濃教育会に委託
昭和56年6月
小・中・高校生とその保護者を対象に「社会福祉についての意識調査」を実施
昭和56年7月
同上調査集計
抽出校143校中139校(児童生徒4,630枚 回収率・97.2%、保護者4,556名)
「思いやり」については学校・家庭共に協力して74.8%
昭和56年4月
社会福祉普及校事業 県社協から市町村社協指定に
昭和57年5月
教師のための福祉教育手引書「ともに生きる」発刊配布
県下の小・中・高等学校全教師,幼保育所に各2部配布 30,000部
昭和57年6月
親と子の福祉教育読本の編集を信濃教育会に委託
昭和57年7月
福祉教育を進める県民会議開催 1,200人参加
昭和57年8月
上記県民会議における宣言決議に基づき小川文部大臣に「福祉教育」を陳情
昭和57年11月
手引書「ともに生きる」活用状況アンケート調査
714校中521校(回収率73.0%) 「特活」で活用235校ついで「社会」「道徳」
学校における福祉教育について「積極的に取り組むべき」小40.9% 中47.1%
高校64.2%
昭和58年8月
親と子の福祉教育読本「思いやる心」発刊(低学年用)
県下の小学校1年生全員に配布 34,000部
昭和58年8月
親と子の福祉教育読本「思いやる心」(高学年用)編集を信濃教育会へ委託
昭和58年8月
福祉教育推進指導教諭研究協議会(60年 福祉教育推進研究協議会に改名)
昭和59年4月
福祉学習モデル公民館の推進 8ブロック1館指定
昭和59年4月
親と子の福祉教育読本「思いやる心」発刊(高学年用)
県下の小学校4年生全員に配布 37,500部
昭和59年4月
親と子の福祉教育読本「思いやる心」(中学生用)編集を信濃教育会へ委託
昭和59年4月
福祉教育読本「明るい家庭づくりのためのハンドブック」編集作業に入る 家庭部会
昭和60年11月
親と子の福祉教育読本「思いやる心」発刊(中学生用)
県下の中学校1年生全員に配布 37,500部
昭和62年2月
家庭向け福祉教育読本「あたらしい家庭づくり入門」
県下の新婚家庭に配布 30,000部
昭和62年12月
福祉教育推進セミナー開催(福祉教育推進権〈ママ/研:阪野〉協議会改め)
昭和63年4月
福祉教育推進地区指定事業開始
県内8ブロック1か所2か年指定 視聴覚教材16mm映画フィルムの長期貸出し
昭和63年4月
福祉教育啓発パンフレット「みんな仲良くなるために」作成配布 2,000部
平成元年4月
社会福祉協力校32校3か年指定
平成3年4月
社会福祉協力校93校 社会福祉普及校348校
平成3年9月
福祉教育ハンドブック「福祉の心を広めるために」作成配布2,000部
平成4年4月
社会福祉普及校事業廃止
平成4年4月
社会福祉協力校80校指定
平成4年4月
「ともに生きる」教師のための福祉教育手引書全面改訂を(社)信濃教育会へ編集委託
平成5年2月
福祉教育推進セミナー開催

(2)長野県福祉教育の推進
福祉教育大綱の作成(55年)
(人間がお互いに人間らしく生きるため、自分の生命や生活ばかりでなく、他人の生命や 生活を尊重し、より住みよい福祉社会の実現をめざして、行動や体験を通して実践していく方向を示したものである。)

意識調査(56年)

第1次推進計画(57年度~61年度)
県民運動の展開
萌芽期
福祉教育推進県民会議の開催(57年度)
(児童、生徒、親に重点を置いた活動の展開)
福祉教育副読本等の作成(57年度~61年度)
社会福祉協力校・普及校事業(ボラ金(ママ/協?:阪野)事業、57年度~)

第2次推進計画(63年度~4年度)
実践活動・啓蒙活動
発展期
(地域・家庭に重点を置いた活動の支援)
教師のための福祉教育手引書の作成(4年度)
社会福祉協力校・普及校事業(ボラ金事業、57年度~)(4年度からは普及校事業廃止)
福祉教推進地区助成事業 視聴覚教材の整備 福祉教育推進小冊子の作成(63年度~4年度)

第3次推進計画(案)(5年度~8年度)
実践活動・啓蒙活動
充実期
(学校、地域、家庭での福祉教育の総合的基盤整備)
視聴覚教材の製作・配布(5年度~8年度)
社会福祉協力校・普及校事業(ボラ金事業、57年度~)(4年度からは普及校事業廃止)
視聴覚教材の整備 福祉教育推進小冊子の作成(5年度~8年度)

付記
以上に加えて、「長野県福祉教育大綱」と、文部大臣と自由民主党文教制度調査会会長に提出された「陳情書」を紹介しておくことにする。福祉教育史研究の一助にでもなれば幸いである。

資料(1)「長野県福祉教育大綱」
(長野県福祉教育大綱作成委員会が作成し、1980年9月、第29回県社会福祉大会で採択された。)

はじめに
この福祉教育大綱は、人間がお互いに人間らしく生きるため、自分の生命と生活ばかりでなく、他人の生命や生活を尊重し、より住みよい福祉社会の実現をめざして、行動や体験を通して実践していく方向を示したものである。
ところで、日本社会の現状はどうであろうか。産業経済の高度成長が今日の日本を築いてきたことは否定できないが、反面、余りにも急激な変化、発展は人間社会にひずみをもたらし、人間が人間らしく生きる根源としての人間愛、ひいては人間社会の連帯感をも失わしめ、時には豊かな自然を破壊し、さまざまな公害を生んできたことも事実である。
わが郷土信州も、こうした社会風潮のらち外ではない。物にかたよった家庭生活、青少年非行の増加、老人問題、障害者の置かれている状況、環境、公害問題等、いくたの課題が山積している。
こうした中で、この大綱のねらいは、県民ひとりひとりが、個人または集団として福祉社会の実現を自分のこととしてとらえ、その解決に向かって継続的に努力し、共に育つ豊かな郷土信州を築くにある。
したがって、この大綱はいかなる思想、信条、宗教、政治、職業等と対立するものではなく、また、居住する地域差、年齢差にかかわることなく、人間本来の善意志に根ざしたものである。
ここでは、一応、家庭、学校、社会の三分野に分けて考えるが、この三分野が相互に関連しあって目的が達せられることはいうまでもない。
なお、この大綱の実践的な活動は、各家庭や地域、各団体や機関、各施設や職場等に任せられているので、それぞれが積極的な活動を展開することを期待するものである。
1 家庭における福祉教育―思いやりの心を家庭の中に―
(1)愛情と信頼に満ちた家庭生活が営まれているか、家族みんなで見直してみよう。
親はたしかに子どもを養育し、子どもは親に孝養をつくす、相互扶助の心を育てる。
(2)人間づくりの土台である家庭教育機能の回復をはかり、いっそうの充実をめざそう。
よき人柄を育てることに家庭の重要な役割があることを認識する。
(3)隣人や地域社会とのかかわりを深め、共に育つ連帯の輪を広げよう。
自分の家庭ばかりでなく、近隣との心のふり合いのある生活を実現する。
(4)親子(わが家)でできるボランティア活動を心がけ、体験をとおして福祉の心を育てよう。
思いやりの心を身近な所から実現する。
2 学校(含幼稚園、保育所)における福祉教育―福祉の理解、実践を教育課程に―
(1)福祉教育を教育内容に位置づけよう。
現行の教育内容を福祉という角度から見直し、指導内容、方法、時間等を明確にした福祉教育計画を立案、実践する。
(2)児童・生徒等の社会参加による福祉教育をすすめよう。
社会参加による奉仕の実践活動をとおして、福祉の心を育てる。
(3)心身に障害をもつ人々との交流を深めよう。
心身に障害をもつ人々との交流をとおして、お互いの理解と心のふれ合いを深める。
3 社会における福祉教育―地域の課題をみずからの手で―
(1)学校教育、社会教育、社会福祉の関係者が話し合い、福祉の地域づくりについて
協力体制 をつくろう。
福祉社会実現への地域体制の基盤づくりをする。
(2)公民館の各種学級には、必ず福祉の意義、福祉活動のすすめなどをとり入れよう。
福祉の心とは何かを学ぶため、意図的、計画的な学習活動を展開する。
(3)自治会、公民館等が中心になり、福祉の地域づくりのための話し合いを進めよう。
住民が地域の課題を解決するため、行動や体験をとおして学ぶ。
(4)地域における各種団体(市民団体、企業、労働組合)は、地域福祉に対して何ができるかを見つめ、個性ある活動を展開しよう。
各種団体はその目的遂行とともに、福祉社会実現への積極的な活動をする。

資料(2)「陳情書」
(1982年8月23日、福祉教育を進める県民会議実行委員会代表/社会福祉法人長野県社会福祉協議会会長・湯本安正、社団法人信濃教育会会長・太田美明、長野県PTA連合会会長・鷲沢正一の連名で、文部大臣・小川平二に陳情した。)

昭和57年7月6日松本市において本県59団体の関係者が相寄り、「思いやりの心を育てる教育の実践」を総合テーマに「福祉教育を進める県民会議」を開催、別添報告書の通り決議しました。
つきましては、この宣言にもとづいて次の事項の推進を図られるよう陳情いたします。
1. 次代な担う児童・青少年に思いやりの心を育てることは、わが国の未来にかかわる緊急の 課題であると考える。このため家庭教育、学校教育、社会教育、の関連において福祉教育が推進されるよう、特に学校において別記「全国小・中・高の児童・生徒に「福祉教育」の確立を提言する件」について早急に配慮されたい。
1. 当面においては、地方自治体及び社会福祉協議会等が教師及び児童・生徒を対象に作成する福祉教育のための手引書、副読本について、これが学校教育現場で積極的に活用するよう配慮されたい。
〈別記〉
全国小・中・高の児童・生徒に「福祉教育」の確立を提言する件
さきに行われた国の小学校・中学校・高等学校の教育課程の第一のねらいは「児童・生徒の豊かな人間性を育てる」ことである。そのためには、「社会福祉の実践体験を得させる」教育が有力な手がかりの一つである。
また福祉教育については、小・中・高の学習指導要領の各教科および領域のなかで発達的・系統的に要求されているところである。
しかし独立した教科目をもたないため、その指導が不徹底に陥っていることも事実である。
本県の意識調査(別冊参照)によれば、学校・家庭・社会・地域住民があげて、福祉教育の実践を希求しており、これが徹底すれば、青少年の非行も減少すると考えられている。
よって速やかに全教育活動の中で、この教育がどの教師にも実践できるための、福祉カリキュラムあるいは指導書を作成することを提言します。

資料(3)「陳情書」
(1984年6月26日、社会福祉法人長野県社会福祉協議会会長・湯本安正、社団法人信濃教育会会長・太田美明の連名で、自由民主党文教制度調査会会長・海部俊樹に陳情した。)

日本国憲法に示されている社会福祉の推進につきましては、日頃格別の御高配を賜り、心から感謝申し上げます。
さて、本会におきましては、思いやりの心を育む福祉教育の重要性に鑑み、昭和55年長野県福祉教育大綱(別紙)を策定し、じ来この大綱に基づき、福祉教育を家庭、学校、地域社会に向けて進め、潤いのある地域社会づくりに努めているところであります。
つきましては、次に掲げる事項は、福祉社会実現のため極めて重要な事項でありますので、近く取り組まれる「教育臨調」においても、思いやりの心を育てる福祉教育の実現について、格別の御理解とこれが推進を賜りたく陳情いたします。

1 次代な担う児童・青少年に思いやりの心を育てることは、わが国の未来にかかわる緊急の課題であると考える。このため家庭教育、学校教育、社会教育の関連において福祉教育が推進されるよう、特に学校において別記「全国小・中・高の児童・生徒に「福祉教育」の確立を提言する件」について早急に配慮されたい。
2 地方自治体及び社会福祉協議会等が教師及び児童・生徒を対象に作成する福祉教育のための手引書、副読本について、これが学校教育現場で積極的に活用されるよう配慮されたい。

(『昭和59年度  福祉教育を進める懇談会―思いやりの心を育てる教育の実践―』長野県
社会福祉協議会、1985年、19~21、40~41、63~64ページ)