筆者(阪野)はいま、セカンドライフを楽しんでいる。人生設計通りの定年退職を機に、無為徒食や晴耕雨読といった暮らし方ではなく、これまでとは違った人生はないものかと考えた。不遜ながら、これまで“一所懸命”に取り組んできた「市民福祉教育」に関しては今後も若干の意見提示は続けるとしても、である。
そこで、4月早々にスイミングスクールに入り、いまでは新しい仲間もでき、週2~3回、スイミングを楽しんでいる。以下は、その仲間たちとの会話の一コマである。いろいろな暮らしと人生が見えてくる。
「俺は何もすることがなく、ここに来るのが仕事のようなもの。毎日2~3時間近くプールで泳いだり、みんなと話したりしている。月6万円ほどの年金で、会社勤めの40歳代の息子と、二人で細々と暮らしているのだが、ここが楽しい。」(70代後半・男性)
「大病を患ったこともあり、健康維持のために午前中は市立体育館でストレッチや筋力トレーニングを行い、午後はプールに来ている。実は『馬に人参』で、俺にとっての人参は晩酌だよ。」(70代前半・男性)
「数年前に夫を亡くしたが、一人暮らしのことを考えるとき、健康への投資だと思って入会した。1日500メートルを目標に、頑張って泳いでいる。来月はこのスクールで知り合った友だちと東京見物に行きます。」(70代後半・女性)
「マスターズ水泳大会での上位入賞をめざして、ほぼ毎日3000メートル泳いでいる。この前、初孫が生まれ、私もおばあちゃんになった。」(60代前半・女性)
このような会話を思い出したのは、今朝(10月14日)の地元新聞の「スポーツクラブ/70代、4割所属」という二段抜き主見出しと、「体力づくりに有効」という袖見出しの、次のような記事が目にとまったからでもある。
「地域のスポーツ同好会やフィットネスジムなどのスポーツクラブに所属している成人の割合は年齢が上がるほど増え、70代で40%前後となることが13日、文部科学省が体育の日を前に公表した2012年度体力・運動能力調査で分かった。時間に余裕のある高齢者層が積極的に運動に取り組んでいるためとみられる。」
「調査によると、スポーツクラブに所属する割合が最も高い年齢層は70代前半女性の44%。男性は70代後半の41%が最高(以下、略)」。
筆者は、自分のこととしても、こうした高齢者のスポーツ活動が人と人との新しいつながりを生み、それがまた次のつながりを呼び、その人の暮らしや人生を豊かなものにするという連鎖が起きることを期待している。これまでの福祉活動が、高齢者や障がい者などのスポーツ活動や学習・文化活動の振興とそれに基づくライフの質的向上について十分に取り組んできたかといえば、必ずしもそうはいえない。その際の、ライフの“質”とは、「生命の尊厳」(Sanctity of Life)と「生活の質」(Quality of Life )、併せて「人生の豊かさ」(Abundance of Life)をいう。
高齢者分野で始まった生活支援サービス活動のひとつに、「ふれあい・いきいきサロン」活動がある。全国社会福祉協議会が1994(平成6)年に提唱した活動である。「ふれあい・いきいきサロン」は、高齢者だけでなく、障がい者や子育て家庭など、誰もが楽しく気軽に参加できる「地域住民によるつながりづくりのきっかけの場」「地域の居場所」として、全国に5万2000か所を超え大きな広がりを見せている。
全国社会福祉協議会発行の『ふれあい・いきいきサロン』(生活支援サービス立ち上げマニュアル第4巻、2012年)には、「サロンは多種多様ですが、『自分の気の合う人たちだけで行う活動』ではなく、『地域の誰もが参加できる活動』でなければなりません。『地域の人たちに親しまれる場をつくる』という原則がサロンではとても大切です」(26ページ)と記されている。筆者を含め、上述のスイミング仲間にとって、スイミングスクールは心地よい「居場所」である。仲間たちは、「気軽に」「無理なく」「楽しく」「自由に」(44ページ)、そして「健康維持」のために泳いでいる。プールに出かけて行くこと自体が「心のハリ」(20ページ)をもたらしてくれる。ときには普段の生活の困りごとについて話し合う。そこはまさに「サロン」である。この小さなサロンを、全国社会福祉協議会がいう生活支援サービス活動のサロンのひとつとして、あるいはそのサロンを「立ち上げ」るためのひとつとして考えることは無理であろうか。筆者は、今後の自分自身の暮らしと地域における生活文化や福祉文化を醸成するひとつのプラットホームとして位置づけたいのだが。