1982年3月、文部省認可の社団法人・日本青年奉仕協会(JYVA)との連携・協働のもとに、「全国ボランティア学習指導者連絡協議会」が設立された。以下に、その設立の経緯と、代表者である臼井孝先生についての新聞記事を紹介する。阪野文庫に収録されている「日本青年奉仕協会に関する資料」を整理している際に見つけたものである。
周知の通り、全国レベルで「福祉教育」について最初に研究協議されたのは、1970年11月に東京で開催された「昭和45年全国社会福祉会議」の第3専門委員会(「社会福祉の理解を高めるために―教育と社会福祉―」)においてである。その後、1977年2月、厚生省社会局長・児童家庭局長から文部省初等中等局長に対して「福祉教育のあり方について(要望)」が提出された。それに次いで、1977年4月から、厚生省と全国社会福祉協議会は、国庫補助事業としての「学童・生徒のボランティア活動普及事業」(通称「社会福祉協力校」事業)を始める。
「福祉教育」と「ボランティア学習」の固有性と関連性、それぞれの実践と研究、そして1995年10月に設立された「日本福祉教育・ボランティア学習学会」と1998年6月に設立された「日本ボランティア学習協会」、等々について考える際のひとつの参考資料になれば幸いである。
全国ボランティア学習指導者連絡協議会設立の経緯
1981年12月12日
●「活動文化祭’81」の指導者懇談会などで意見として出された指導者の全国的な連絡組織設立の実現をめざして、東京近辺の4人指導者とJYVAスタッフとで第1回設立準備委員会を開催 ①設立に向けての基本的な考え方 ②設立準備作業の内容と日程を検討
1982年1月23日
●第2回設立準備委員会 ①活動文化祭’81の参加者・協力者を中心に、地域や活動分野のバランスを考えながら世話人を推せん ②第1回全国世話人委員会の日程を確認
2月中旬
●連絡協議会の規約、事業計画などのたたき台を作成
2月下旬
全国世話人の依頼を電話などではじめる
3月6日
●第3回設立準備委員会 ①規約および事業計画のたたき台をもとに検討 ②全国世話人の確認
3月12日
●全国世話人依頼の公文書を発送
3月20~21日
●第1回全国世話人委員会開催 ①事務局案の説明にもとづいて各プログラム、参加者の費用負担、運営方法などについて検討。②連絡協議会設立について、準備委員から出された規約などを検討して設立を承認。世話人幹事、事務局体制を決定
(JYVA教育研究部編『活動文化祭’82』社団法人日本青年奉仕協会、1983年3月、実施1~2ページ)
毎日新聞/1982年8月20日
ひと/十代にボランティアを/臼井孝(うすいたかし)
この夏、全国ボランティア学習指導者連絡協議会が発足した。ボランティアの指導者の、唯一の全国組織といってよい。臼井さんはその代表である。
荒れる十代―非行が社会問題になってきているが、ボランティアに関心を持つ十代も気速にふえてきているという。しかも、この二つは、互いに関係しあっている。
「突っぱっている少年に、ボランティア活動をやってみろとすすめる。熱心に打ちこんでリーダーになったりする」。身障者の施設に就職したケースもある。
「学校教育が知識を教えるだけではどうにもならないところにきています。自分をどう生かすか―生きる力を与えるのが教育である。そう考えると中学や高校でボランティア活動を体験するのはもっとも効果があります。」
ボランティアは奉仕ではない。自分自身の問題なんだという。自分をどう生かすか、それを発見する学習なんだと説く。協議会の大半は、全国の中、高校で生徒たちを指導している先生。自身も神奈川県立五領ケ台高校教諭。中学の先生をしているとき、脳性マヒの生徒が学力がありながら、身体の障害で高校に入れなかったのを知って関心を持った。いま、社会福祉人形劇クラブの顧問。
「進学が影響してくるのは事実です。しかし、ボランティアへのエネルギーは、勉強のエネルギーにもなる。実際、見事に両立させた生徒もいます」。臼井さんは、エネルギー無限論をいう。若いエネルギーは、出す機会が多いほど多く出てくる。
ボランティアに入ってくる少年たちに三つのタイプがある。「当たり前のことだと考える」層、「友だちに誘われた」層、そして「なにかやりたい」グループ。会では全国のグループの情報交換を行い、ニュースを発行する。四十九歳。(四方 洋)
教育家庭新聞/1982年9月4日
この人に聞く/全国ボランティア学習指導者連絡協議会/代表 臼井孝さん
初の全国連絡組織/若者のエネルギー吸収へ
日本にもボランティア活動が静かな高まりを見せようとしている。昨年夏、第一回の「十代のボランティア文化創造交流集会」を成功させた(社)日本青年奉仕協会に集う若者の熱意と第一回、そして今夏の第二回集会に参加した先生方の熱意が一つに解け合い、参加した先生方を中心に「全国ボランティア学習指導者連絡協議会」が発足。ボランティア指導者の全国的な連絡会が初めて誕生。
「地域でボランティア活動を地道に指導していたがマンネリに陥っていた先生、意欲的にあらゆることを吸収しようとしていた先生の間で、交流集会まで一年間分散していたのではもったいない、という気運が盛りあがったのです。全国のパイプ役として生の声を出し合い、互いに吸収できるものは吸収しあい、刺激を与えあおう、と」
公式には今年の第二回同集会でスタート。活動は①「ボランティア学習」と題する指導者のニュース紙の発行②若者が作った八ミリ、スライドなど活動記録作品の貸し出し③事例研究集の作成④地方に埋もれている活動の調査研究⑤指導者自身の研修。構成員は中学・高校の教師、地域のボランティア指導者、等。まだ、産声をあげたばかりだが、弾力的な活動をめざしている。
代表の臼井孝先生は神奈川県五領ケ台高校の理科の先生。生活指導部主任で社会福祉人形劇クラブの顧問。無気力、無感動などと言われる現代の青少年とボランティア活動についていう。
「自分の持っているエネルギーをどう生かして行けばよいかわからない生徒が多いんですよね。だから、本能におもむくままに、オートバイに乗ってみたり、シンナーを吸ったりする。ボランティア活動はこのエネルギーを発散できるもの。学校がチャンスを与えてやれば、それにより“目を輝かせる”生徒が必ずいる」
「老人ホームでは若者との一回限りではない、深い交流を求めています。参加した若者は初めて、『こういう世界があったのか』と、老人問題を真剣に考えるようになる。道に落ちている缶を拾うという空き缶公害追放運動でも、地域の人たちとの対話が生まれてくる」
オートバイにしか生の発散方を見い出せなかったものが、ボランティア活動でいままでとは違った外の世界を知る。地域の人達との交流で高校生でも社会に貢献できる、という実感を持つ。実際に、学校から「どうしようもない」と烙印を押された生徒が立ち直った例もある。
しかし、一般の生徒の見る目は、とかく“えらいわねえ”“よくやるなあ”で、“してあげる”という意識が抜けきれない。教師でも「自分自身ができてもいないのに、他人様の手助けをするなどおこがましい」というとらえ方をするのが案外多い。しかし、臼井先生は言う。
「私の学校は新設校ですが、甲子園の地区予選で四回戦にまで進みます。するとお母さん方が『どうして、学校全体で応援に行かないのか』と言ってくる。しかし野球に情熱を燃やすのも、老人ホームで働くのも、空き缶を拾うのも、同じ一つの甲子園の道、なんです。ボランティア活動の本質は、その中で自分自身をどう生かすか、ということ。
多感な青年期に一度経験したことは、受験などでボランティア活動から離れてしまっても、必ず後になって生きてくる。高校時代にいろんな生き方があるんだ、と実感したこと、ぶつかり、泥をかぶってした経験は大きな肥やしとなる」
中学・高校生の非行化が社会問題化している。しかし、その中で、ともすれば、目立たない存在として見落とされがちだが、自分の生き方を真剣に考えている生徒たちも確実に増えているという。二度の交流集会に参加してみて、そう断言だけるという。自分なりに生きたい、と思う心は今も昔もかわりないだろう。自分の道を見い出しにくい現代、同連絡協議会の発足は教育の中に大きな一つの道を提示している。
連絡先は(社)日本青年奉仕協会(〒151東京都渋谷区代々木神園町三―一NYC内電03-460-0211) (良)
(JYVA教育研究部編『活動文化祭’82』社団法人日本青年奉仕協会、1983年3月、付録65、67ページ)