まちづくりと市民活動を推進する組織・機関―自治基本条例と市民福祉教育(第2報)―

筆者(阪野)がその末席を汚した「関市自治基本条例策定審議会」が、去る2月4日、市長に対して「関市自治基本条例に関する答申書」を提出した。それを受けて市では、3月1日から31日の期間、「関市自治基本条例素案」(以下、「素案」と略す。)についてのパブリックコメントの募集を行っている。本稿では、素案における若干の条文内容の紹介とそれに関する一隅の管見を述べることにする。
先ず、地元新聞の2紙が報じた素案答申の記事を紹介する。

岐阜新聞/2014年2月6日(朝刊)
関市の自治基本条例/審議会が素案答申
関市の市自治基本条例策定審議会(会長・鈴木誠愛知大学地域政策学部教授)は4日、条例の素案を尾関健治市長に答申した。
市では市民主権・市民自治のまちづくりを目指そうと、条例制定を進め、2012年に審議会が発足。公募委員や団体代表ら28人が今年1月まで計13回の審議を行った。
素案は、▽子どもやお年寄り、障害者もまちづくりに参画できる権利を明記▽地域委員会、まちづくり市民会議、満足度調査、住民投票の実施を規定▽条例の進ちょく評価や見直しを市長に提言する推進委員会の設置―などを盛り込んだのが特徴。また、策定には広く市民の意見を求める―などの付帯意見も付けた。
市役所で行われた答申では、鈴木会長が尾関市長に答申書を手渡した後、尾関市長が審議会委員に「住民自治の理念を市民に理解してもらうことが大切。今後も見守ってほしい」とあいさつ。同席した委員からは、「将来地域を担う子どもたちに、まちづくりに参加してもらうための工夫が必要」などの意見が出された。
答申を受け市では3月に市民の意見を募集。また、住民説明会も開催し、市議会6月定例会への提出を目指す。

中日新聞/2014年2月8日(朝刊)
「市民が主役」前面に/関市の審議会 自治基本条例素案を答申
関市自治基本条例策定審議会は、市民自治の実現に向けた条例の素案を尾関健治市長に答申した。市民や議会、行政の役割や責務を明確にし「市のまちづくりに関して最も大切な理念」と定めた。
素案では、市民全員がまちづくりに参画できるよう子どもやお年寄り、障害者の役割を明記。議員や行政には市民の意見を反映するよう盛り込み「市民が主役のまちづくり」を前面に出した。
市長は市民が政策を提言する会議を開いたり、まちづくりの満足度調査を実施、公表したりする独自の参画案も採用。市民の意見を募るパブリックコメントや住民投票の手続きも記した。
審議会は学識経験者や公募の市民ら28人で構成。市は2012年末に諮問し、今年1月まで13回の審議を重ねた。
答申は市役所であり、審議会長で愛知大地域政策学部の鈴木誠会長尾関市長に答申書を手渡した。鈴木会長は「条例を平易な文にしたり、解説書を作成したりして市民に周知する必要がある」と強調した。
市は3月ごろにパブリックコメントを実施し、6月定例市議会に条例制定案を提出する予定。

以上からも分かるように、素案で注目されるのは、「地域委員会」「市民活動センター」「まちづくり市民会議」「まちづくりに関する満足度調査」についての条文である。この条文は、市民と行政が連携・協働してまちづくりを進めるための “仕組み” について明記した重要な規定であり、高く評価される。この仕組みについて、市のホームページにアップされている「関市自治基本条例素案の概要について」では、「関市の独自施策」であることが朱書きされている。以下がそれぞれの条文案である。

9 参画及び協働
(4)地域委員会
1 市民は、地域の課題を解決するため、小学校区を基本として、自治会、各種団体、事業者等の多様な団体及び個人で構成される地域委員会の設立に努めます。
2 市民は、誰もが参加できる地域委員会の運営に努めます。
3 市民は、地域委員会が取り組む活動方針及び事業を定める地域振興計画の策定に努めます。
4 行政は、地域委員会の設立及び活動を支援します。
5 地域委員会の支援に関し必要な事項は、別に定めます。
(5)市民活動及び市民活動センター
1 市民は、まちづくりに関する市民活動の意義を理解し、その活動の推進に努めます。
2 行政は、市民、市民活動団体等の主体性及び自律性を尊重し、協働して市民活動を推進します。
3 市長は、市民と行政との協働を推進するため、市民活動センターを設置します。
4 市民活動センターの運営に関し必要な事項は、別に定めます。
(6)まちづくり市民会議
1 市長は、市民とともにまちづくりを進めるため、市民が市政に関する施策を提言するまちづくり市民会議を開催します。
2 市民は、まちづくり市民会議に主体的に参加します。
3 行政は、まちづくり市民会議から提案のあった施策を尊重し、その実現に努めます。
(7)まちづくりに関する住民の満足度調査
1 市長は、まちづくりに関して住民の満足度調査を毎年実施します。
2 市長は、住民の満足度調査の結果を公表し、市政に反映します。

以上のうち、「地域委員会」は、住民自らが地域の課題を検討・解決し、地域の特性を生かした住民主体のまちづくりを進める組織である。概ね小学校区単位での設置が促進されている。市は、地域委員会の設立をはじめ、活動のための交付金の支給や職員の派遣などを行っている。既に、2013年度に1地区で「上之保ふれあいのまちづくり推進委員会」が設置され、武儀と田原の2地区で「地域委員会準備会」が立ち上がっている。
「市民活動センター」は、公益的な市民活動に関する総合相談・支援の窓口・拠点となる機関である。市では、2005年3月に「地域福祉計画」を策定し、「ボランティア・市民活動センター」(仮称)の創設や「ボランティア・市民活動センター設置検討委員会」(仮称)の設置が計画化されていた。それを受けて、2010年1月、市民による主体的・自律的なまちづくりを推進するために、相談・助言・コーディネート等の支援やNPO法人の設立支援などを行う「中間支援組織」として、市民活動センターが設置されている。その管理運営業務は、「まちづくりの推進を図る活動」(特定非営利活動促進法第2条第1項の別表)を行う市内のNPO法人に委託されている。そこでは、次の「運営方針の4つの柱」のもとに、市民活動(ボランティア、NPO法人、自治会等の地域の活動など)に対する「支援」が行われている。「(1)市民活動・ボランティアに対する、関市民へのすそ野を広げる。(2)NPO法人だけではなく、自治会町内会等、地域活動もサポートし、地域型コミュニティ、テーマ型コミュニティが協働して地域社会の活性化を目指す。(3)既存のボランティア活動支援との協働、行政との協働支援。(4)地域課題に対し、周りを巻き込みながら直接アプローチする」、がそれである。
「まちづくり市民会議」は、市政全般に関する問題点や課題を市民の視点から洗い出し、行政へ政策提言ができる、市民で構成する「会議体」である。類似の先行例のひとつに、愛知県新城市の自治基本条例(2013年4月施行)に規定されている「市民まちづくり集会」がある。「(市民まちづくり集会)第15条 市長又は議会は、まちづくりの担い手である市民、議会及び行政が、ともに力を合わせてより良い地域を創造していくことを目指して、意見を交換し情報及び意識の共有を図るため、3者が一堂に会する市民まちづくり集会を開催します。」というのがそれである。市長は特別な事情がない限り、年1回以上、「市民まちづくり集会」を開催しなければならないことになっている。ちなみに、2013年8月に「第1回市民まちづくり集会」が開催され、約400人 (総人口約50,000人の0.8%) の市民が参加している。関市にとって参考になろうか。
「まちづくりに関する満足度調査」は、市長が毎年、まちづくりに関する市民の意識調査を実施し、施策の改善や充実を図るためのものである。2013年1月に、18歳以上の市民3,000人を対象に実施された「平成24年度アンケート調査(まちづくり通信簿)」の結果が、同年3月に報告されている。
ところで、市長がマニフェストに掲げる「日本一しあわせなまち」をめざして、「市民主権・市民自治」によるまちづくりを確かで豊かなものにするためには、「地域委員会」「市民活動センター」「まちづくり市民会議」のそれぞれの機能が有機的・総合的に発揮され、三位一体の運営がなされることが必要不可欠となる。策定審議会や素案においては、この3つの組織・機関の連携・協働・相互補完に関して言及も規定もされていない。「関市自治基本条例の答申に関する附帯意見」として、次のような一文が付されているだけである。「5 協働施策の周知と推進/地域委員会、まちづくり市民会議などの協働施策について、広く市民に知られていないので、積極的な施策の周知に努めてください。また、市民活動センターは、自治会、福祉団体など多様な団体の参画のもとに運営されるよう望みます。」というのがそれである。
「まちづくりは人づくり、人づくりは教育づくり」といわれる。この考えに立って、以下に、「地域委員会」「市民活動センター」「まちづくり市民会議」と「日本一しあわせなまち」づくりのための主体形成を図る教育(「市民福祉教育」)の相互関係を図示することにする。
素案では、「住民」を「関市内に住む人」、「市民」を「住民、市内で働く人、市内で学ぶ人、事業者等」と定義づけている。筆者が作成した図 1では、「市民」(citizen)を、素案が規定する「市民」とは異にし、市民社会における主権者としての意識を自覚的に持ち、まちづくりに主体的・自律的に参画する、独立したひとりの理性的な人間として捉えている。また、「市民性形成」は、市民性(市民としての資質と能力)を育成するための教育(シティズンシップ教育)を意味する。「まちづくり学習」は、すべての住民の生命(生きる力)と生活、そして人生の質的向上の実現をめざし、多様な主体が連携・協働して、住民が抱える個別具体的な生活問題や地域の社会問題を解決するために主体的・自律的に行動する実践的な態度や資質、能力を育成する教育・学習活動をいう。図中の「市民」「市民性形成」「まちづくり学習」の用語について筆者は、とりあえずこのように考えている。
10月26日17時
図 2は、「市民活動センター」に関する管見を示したものである。それは、次のようなメモ書きとともに、2013年1月に開催された第13回策定審議会に個人的見解として提示したものである。
(1)市民活動センターは行政が設置し、その運営は行政、社会福祉協議会、自治会連合会、民生委員児童委員協議会、NPО・ボランティア団体、まちづくり協議会等による「協働運営方式」を採る。
(2)市民活動センターには、行政(福祉政策課、市民協働課、生涯学習課)と社会福祉協議会等の職員(コミュニティソーシャルワーカー、ボランティアコーディネーターなど)を配置する。
(3)市民活動センターに、自治会連合会や民生委員児童委員協議会等の事務局を置く。
(4)市民活動センターは、業務のひとつとして「地域委員会の設立と支援」「まちづくり市民会議の開催と運営」を所掌する。
(5)市民活動センターを、市民や行政等から具体的な生活課題や地域課題を持ち寄り、課題解決のための「プラットホーム」を設立し、市民や行政が連携・協働して課題解決にあたる、文字通りの、市民の・市民による・市民のためのセンター(市民活動の拠点)とする。
(6)およそ以上のような市民活動センターを構想・設置するとすれば、その場所は、例えば「わかくさ・プラザ」(学習情報館、総合福祉会館、総合体育館の3つの施設で構成される複合施設で、人々が行き交う「出会い」「ふれあい」の場、そして「生涯学習のまちづくり」の拠点となっている。)内に置くことが望まれる。
10月26日 図2
最後に、筆者が策定審議会で提案したもののうち、明確には素案に規定されなかった「学ぶ権利」について一言述べておきたい。
市長がマニフェストに掲げる「市民主権・市民自治」を実現するためには、子どもから大人まですべての市民を対象にした、関市の「まち」に関する理解・診断と「まちづくり」に関する「意識」「知識」「スキル」の醸成・育成が必要かつ重要となる。素案には、「市民の権利」のひとつとして、「まちづくりに関して学習し、意見及び要望を提案できること。」という規定がある。それについては、「市民は、まちづくりに関することを学び、意見や要望を自由に提案できます。これは、誰にも阻害されることはありません。」と「解説」されている。この解説をみるかぎり、「学ぶ権利」についての規定は必ずしも十分ではなく、曖昧なものにとどまっているといわざるを得ない。また、この権利保障を担保する規定も明文化(条文化)されているわけではない。そこで、「市民主権・市民自治」を画塀に帰させないためにも、主体的・自律的に「学ぶ権利」を独立条文として規定することが極めて重要となる。例えば、次のような規定が考えられよう。

(学ぶ権利)
1 市民は、まちづくりに関して、自ら考え行動するために学習することができます。
2 行政は、市民のまちづくりに関する学習の機会を確保するとともに、自主的な学習活動を支援します。

なお、同じ岐阜県内の大垣市では、2015年度から地元の歴史や文化、産業等を学ぶ「ふるさと大垣科」(仮称)が新設され、すべての小・中学校で授業が開始される。その内容等については不明であるが、ここで、戦前の「郷土教育」が浅薄な愛国心の育成(「愛国心教育」)に繋がった “負の遺産” を持っていることには十二分に留意する必要があることを付記しておく。筆者がいう「学ぶ権利」は、ユネスコの「学習権宣言」(1985年3月)に基づくものであり、すべての市民が主体的・自律的に学習する権利である。強調しておきたい。

付記
2月20日付けで、関市長から筆者(策定審議会委員)に「関市自治基本条例素案の答申のお礼について」と題する文書が届いた。そのなかで、「今後は、条例素案のパブリック・コメントを実施し、より多くの市民から意見を求めるとともに、市民や議会に素案の内容を丁寧に説明し、条例を制定する上で最も大切である普及啓発に努めてまいります。」と記されている。「市長、議会及び行政」による今後の取り組みを見守りたい。