若者 × まちづくり―資料紹介―

君の行く道は/希望へとつづく/空にまた/陽が昇るとき/若者はまた/歩きはじめる (「若者たち―空にまた陽が昇るとき―」)

2014年5月に「日本創成会議・人口減少問題検討分科会」(座長・増田寛也)が『ストップ少子化・地方元気戦略』を発表した。そこでは、2040年の時点で、全国1800市区町村の49.8%に当たる896の市区町村が消滅する可能性があると推計され、地方に波紋を広げている。しかし、雑誌『中央公論』(中央公論新社)の2013年12月号にはじまる増田を代表とする一連の論稿(「増田レポート」)は、消滅の概念が曖昧であり、その推計の手法にも無理がある。それゆえにか、「消滅可能性」という衝撃的な言葉が先行し、その推計値が独り歩きしている。そして、それが、市町村のみならず、地元住民の不安や危機感を煽(あお)り、不信感やあきらめ感さえも募らせている。
そうしたなかで、人口減少や少子高齢化等の進行が著しい農山村地域において、都市との交流やU・J・Iターンの促進を図る事業、地域サポート人材を外部から導入する事業などの取り組み(「農山村再生」「地域創生」等)がなされている。そして、最近では、団塊の世代の「ふるさと回帰」とは異なり、若者の「田園回帰」の動きが注目されている。そのきっかけとなったものに、2009年度から国主導のもとで実施されている「地域おこし協力隊」の事業がある。
その制度の概要は次の通りである(総務省「地域おこし協力隊推進要綱の一部改正について(通知)」2013年3月29日)。

〇地域おこし協力隊事業は、地方自治体が都市住民を受け入れ、地域おこし協力隊員として委嘱し、おおむね1年以上3年以下の期間、地域で生活し、農林漁業の応援、水源保全・監視活動、住民の生活支援などの各種の地域協力活動に従事してもらいながら、当該地域への定住・定着を図る取り組みである。
〇地域協力活動とは、地域力の維持・強化に資する活動をいう。その一例として、地域おこしの支援(地域行事やイベントの応援等)、農林水産業従事(農作業支援等)、水源保全・監視活動(水源地の整備・清掃活動等)、環境保全活動(不法投棄パトロール等)、住民の生活支援(見守りサービス等)、その他(健康づくり支援等)が考えられる。
〇地方自治体は、設置要綱等を策定したうえで広報・募集等を行い、地域おこし協力隊員とする者を決定し、当該者を地域おこし協力隊員として委嘱し地域協力活動に従事させる。
〇地域おこし協力隊員は、生活の拠点を3大都市圏をはじめとする都市地域等から過疎、山村、離島、半島等の地域に移し、採用先の地方自治体に住民票を移動させた者である。
〇総務省は、地域おこし協力隊の推進に取り組む地方自治体に対して、必要な財政上の支援を行うほか、先進事例や優良事例の調査、これらの事例の地方自治体への情報提供等を行う。財政支援については、地方自治体に対して、地域おこし協力隊員の募集等に要する経費として上限200万円、活動に要する経費として1人当たり上限400万円(うち報償費等が上限200万円、活動費が上限200万円)の特別交付税措置を講じる。

地域おこし協力隊員の数は、2009年度の89人(実施自治体31:都道府県1、市町村30)から、2013年度の978人(実施自治体318:都道府県4、市町村314)へと増加し、取り組みに対する関心も高まっている。また、2014年2月に公表された「平成25年度地域おこし協力隊の定住状況等に係るアンケート結果」(総務省)によると、2013年6月末までに任期を終了した366人の隊員の状況は次の通りである。

〇年齢別では、20歳代が157人(42.9%)、30歳代が134人(36.6%)を数えている。
〇性別では、男性が239人(65.3%)、女性が127人(34.7%)を数えている。
〇任期終了後、活動地と同一市町村内に定住している者が174人(47.5%)、活動地の近隣市町村内に定住している者が30人(8.2%)、地域協力活動に従事している者が14人(3.8%)を数えている。
〇任期終了後、活動地と同一市町村内に定住している174人のうち、性別では男性が115人(66.1%)、女性が59人(33.9%)を数えている。また、起業が16人(9.2%:男性11人、女性5人)、就業が92人(52.9%:男性59人、女性33人)、就農が46人(26.4%:男性39人、女性7人)を数えている。

地域おこし協力隊事業は、都市住民のIターンの「促進」と地域サポート人材の「導入」などを図るための施策のひとつである。地域おこし協力隊員は、2009年度の事業開始以降、5年間で約10倍に増えている。その約8割が20歳代から30歳代の若者によって占められており、任期終了者の約6割が定住もしくは地域協力活動に従事している。また、任期終了者の約9割が起業・就業・就農している。都市から農山村への移住・定住(者)の新しい潮流として注目されよう。
ところで、まちづくりには「若者」「よそ者」「ばか者」が必要である、といわれる。バイタリティーのある人を含意する「若者」は、思考が柔軟であり、年長者に比して人間関係のしがらみ(繋がり)も薄いことから、地域に挑戦し、地域を革新することが期待される。他所から来た「よそ者」は、地域(地元)とのしがらみがなく、地域を冷静に客観的にみることができ、ときと場合によっては新しい “風” を起こすこともできる。地域に対して熱い思いをもつ「ばか者」は、“地” に根を張って、内発的な地域活動や住民運動に熱心に取り組む。いずれにしろ、まちづくり活動や運動の振興・活性化を図るには、「若者・よそ者・ばか者」が必要かつ重要となる。そして、その確保・養成とそのための啓発・教育、3者の参加と協働(共働)、などのあり方が問われることになる。
上述の地域おこし協力隊員の多くは、「若者」であり「よそ者」である。その潮流は、「若者」の生活や仕事(働き方)についての意識の変化や、地域・社会との関わり方の態度・行動の変容などに起因すると考えられる。また、農山村では「よそ者」を受け入れる住民の意識変化や、住民を巻き込んだ組織・体制の整備、すなわち「土(環境)をつくる」「村(地域)を開く」ことが進んでいることによるのであろう。地域おこし協力隊事業やその類似事業が今後どのように展開され推進されるかについては、未知数のところも多い。とはいえ、それらの事業は、とりわけ「若者」の「居場所と出番」(「要場所」)を創る、注視すべき取り組みのひとつであろう。

若者の「仕事」や「居住」に関する考え方と実践記録を纏めた興味深い本がある。伊藤洋志『ナリワイをつくる―人生を盗まれない働き方―』(東京書籍、2012年)、伊藤洋志・pha(ファ)『フルサトをつくる―帰れば食うに困らない場所を持つ暮らし方―』(東京書籍、2014年)がそれである。
前者の本では、「世間ではちょっと珍しい働き方」(238ページ)として、ひとつの仕事だけをやる「専業」ではなく、小さな仕事を組み合わせて生活を組み立てていく「複業」的生活の可能性について説き、次のように述べている。

「個人レベルではじめられて、自分の時間と健康をマネーと交換するのではなく、やればやるほど頭と体が鍛えられ、技が身につく仕事を『ナリワイ』(生業)と呼ぶ。これからの時代は、一人がナリワイを3個以上持っていると面白い」(2ページ)。
「ナリワイで生きるということは、大掛かりな仕掛けを使わずに、生活の中から仕事を生み出し、仕事の中から生活を充実させる。そんな仕事をいくつもつくって組み合わせていく。いわば現代資本主義での平和なゲリラ作戦だ」(27ページ)。

後者の本では、都会か田舎かという二者択一の住み方・暮らし方ではなく、都市に住んでいた人が新たにつくるもうひとつの拠点である「フルサト」や、その生活の拠点を複数もつ「多拠点居住」について説き、次のように述べている。

「フルサトといっても必ずしも実家のこととは限らない。フルサトは一カ所に限らず拠点は複数あったほうがセーフティーネットとしてもいい。フルサトをつくる、ということは田舎への完全移住ではない。また、すぐには完成しないのだが、少しずつ育てていくためにもやっぱりそこに行くだけで楽しく生きていける場所がよい」(9、14ページ)。
「田舎に仕事なんてない、という意見もよく聞かれるが、実は雇用は少ないかもしれないが、自分で見つけ出し工夫してつくれば、むしろ仕事の素材には困らない。田舎こそナリワイの宝庫である」(20ページ)。

なお、伊藤は、過疎地では空き家が増えているが、貸し出されていないところが多いその原因について、次の6点を指摘している。(1) 古来日本では家は代々引き継ぐものであり、そもそも持ち主に貸し出す意欲がない。(2) とにかくよそ者は、怖い、危ないというイメージがあり、よそ者アレルギーがある。(3) 家は空き家だが、仏壇があると貸し出しにくい。(4) 壊れているところが多いから、持ち主が空き家を無価値だと思い込んでいる。(5) 「盆と正月」に子どもたちが帰ってくるので、そのときだけ使うから貸せない。(6) 他に貸したり売ったりするとお金に困っていると思われ、見栄あるいは世間体から貸したくない、がそれである(57~65ページ)。これらの原因を払拭することが「フルサトをつくる」、ひいては「まちづくり」に繋がることになる。注目しておきたい。