「まちの憲法」、制定までの迷走―資料紹介―

2014年 関市の10大ニュース
2位 自治基本条例制定(12月)
自分たちのことは自分たちで決めるための新しいルールが誕生!
関市のまちづくりに関する基本的な事項を定め、市民、議会、行政のそれぞれの役割や責務を明確にし協働することにより、市民自治としあわせなまちの実現を目指す本条例を制定しました。制定にあたっては市民団体の代表や公募の市民、学識経験者ら28人で構成する自治基本条例策定審議会を設置し、平成24年12月から13回に渡る協議を行い、市長への答申を経て議会に提案され可決されたもので、「まちの憲法」として施行されます。

これは、平成26年12月24日、関市役所公式ホームページにアップされた「2014年 関市の10大ニュース」に関する記事の一部である。10大ニュースは、「秘書広報課が選定した市内の主な出来事67件の中から、最高幹部会において市長以下各部長らが投票し、得点数の多かった順に上位から10件」を選定したものである。ちなみに、1位は「関シティターミナルオープン(3月) 新しい『関市の顔』が完成!」である。それは、いわゆるハコモノである。市幹部の、自治基本条例についての認識や「市民主権、市民自治」の意識の“程度”の反映であろうか。市長(平成23年9月22日就任)のマニフェスト(政権公約)の一丁目一番地が「市民主権、市民自治。自分たちのことは自分たちで決める社会に。」であり、その最優先事項が「まちの憲法~自治基本条例の制定」(「市長マニフェスト推進計画」)であることを改めて思い起こしたい。
ところで、市が「関市自治基本条例検討委員会」(以下、「検討委員会」)の委員(公募市民)を募集したのは、平成24年4月1日から4月16日の期間であった。委員募集の文書には、検討委員会の開催回数は「5回程度を予定(平日の夜間2時間程度)」、委員の任期は「平成24年5月1日から平成24年9月30日まで」と記されていた。しかし、検討委員会の開始時期は、6月、さらに10月にずれ込み、名称変更された「関市自治基本条例策定審議会」(以下、「策定審議会」)が設置されたのは同年12月18日であった。そこには市議会の一部の議員や政策会派の思惑が透けてみえる、というのは逸言であろうか。
そういうなかで、委員(市民)の熱意と努力によって、策定審議会は13回、1年3カ月にわたって開催され、平成26年2月4日に「関市自治基本条例に関する答申書(関市自治基本条例素案)」(以下、「素案」)が市長に提出された。なお、策定審議会を傍聴した市民は当初の1、2名を除いてほとんどいなかった。毎回のようにひとりの議員が熱心に傍聴していたが、他の議員と市職員のそれは皆無であった。敢えて付記しておきたい。
その後、平成26年5月8日に開会された「平成26年関市議会第1回臨時会議」に「自治基本条例に関する特別委員会の設置について」(市議第6号)が提出、可決された。同年6月5日、「平成26年関市議会第2回定例会議」(~6月25日)が開会され、「関市自治基本条例の制定について」(議案第38号)が市長から上程された。しかし、第2回定例会議と、続く同年9月2日に開会された第3回定例会議(~10月1日)ではともに「継続審議」の議決が行われた(6月25日、10月1日)。審議未了による廃案にならなかったのがせめてもの救いであったといえよう。
上記の特別委員会は、平成26年6月から同年12月にかけて、会議を7回開催している。その会議について誤解や批判を恐れずにいうと、一見積極的で精力的なようにみえるが、その実は姑息で浅慮なものであった。以下に紹介する「委員会における主な意見」がその証左である。いずれにしろ、“慎重な政策議論”を経て、12月11日に、市側が提出していた原案を可決するに至った。それを受けて、同年11月27日に開会された「平成26年関市議会第4回定例会議」(~12月19日)の最終日に「関市自治基本条例」(以下、「条例」)が可決・成立し、12月25日に公布・施行された。
以上が、検討委員会の委員募集から条例の制定・施行までの概要である。
ここで、敢えて、自治基本条例の制定主体と議会の会派に関して一言しておきたい。
先ず、自治基本条例の制定主体は市民である。自治基本条例が「自治体の憲法」であるといわれる点において、市長と議会はそれを遵守する立場にある。自治基本条例は市長と議会が制定し、その手続きは通常の手続きでよいとされる向きがある。しかし、自治基本条例の制定は「市民主権、市民自治」の政治制度を創出するためのものである以上、「市民主導」「市民熟議」が強く求められる。ちなみに、埼玉県越谷市では、自治基本条例を平成21年9月1日に施行するが、自治基本条例をテーマにした市民による自主的・主体的な勉強会が全8回開催されている。その報告書が市長に提出され、それを受けて公募による市民を中心とした審議会(委員30人)を設置する。審議会の会議は89回、審議会による懇談会・説明会が40回開催された。平成22年4月1日に自治基本条例推進会議(委員15人)が設置され、平成22年度5回、23年度9回、24年度6回、25年度8回、26年度5回(平成26年11月末現在)、それぞれ開催されている。市民参画と協働による自治基本条例の制定と運用・普及に関する一例である。参考にしたい。
次に、議会の会派は、議会内の役割配分(議長、副議長、常任委員長など)を獲得するための“集まり”である。議員は、実態的には、「利益と便宜」のために会派に所属しているといっても過言ではない。議員の本来の任務は提出議案について審議し、討論・採決を行うことである。それは、一人ひとりの議員が有する固有の権利であり責務である。その議員活動が会派の決定によって左右されてはならない。そもそも、議員内閣制である中央政治の政党分派を地方議会に持ち込むことに、大きな問題がある。地方自治体は、首長(市町村長)と議員を住民の直接選挙で選ぶ二元代表制を採っている。議会の役割のひとつは、執行機関(首長と教育委員会などの委員会や委員)に対峙して監視・評価し、執行機関の独走や逸脱行為をチェックすることにある。地方議会には、本来的には与党も野党も存在しない。
改めて認識しておきたい基礎的・基本的なことどもである(森啓「自治体議会の改革と自治基本条例」『開発論集』第87号、北海学園大学開発研究所、2011年3月、1~8ページ。森啓『新自治体学入門―市民力と職員力―』時事通信出版局、2008年3月、172~173ページ参照)。

平成26年12月26日付けで市長から、策定審議会の末席を汚した筆者(阪野)に「関市自治基本条例の制定について(お礼)」の文書が送付されてきた。ここで、その添付資料(「これまでの経過報告」)と、併せて素案と条例を筆者なりに比較表示したものを紹介する。

これまでの経過報告
■関市議会全員協議会
平成25年12月16日 協議状況の説明
平成26年2月20日 素案説明(パブリックコメント実施前)
5月20日 パブリックコメント結果報告
■関市自治基本条例に関する特別委員会
第1回:6月20日、第2回:7月22日、第3回:8月26日、第4回:9月17日、第5回:10月20日、第6回:11月20日、第7回:12月11日
(委員会における主な意見)
・理念条例に個々具体的な施策や制度を規定することに違和感がある。
・市長の政策を具体的な名称を用いて規定しているが、基本条例に含めることは良いのか。市長が交代したら改正するのか。
・市民、議会及び行政が対等な立場で連携するとあるが、実際に協働することは難しい。
・子ども、高齢者、障がい者を別に規定する必要があるのか。  
・議会と議員の使い分けが分からない。
・委員の公募は、特定の市民が独占する恐れがある。
・地域委員会、まちづくり市民会議など具体的な名称は、一般的な表現に変えるべきである。(市長のマニフェストに掲載された名称であるため)
・自治会の規定がないのがおかしい。自治会はコミュニティ形成を図るためには最も重要な組織である。
・必要性が感じられない。すでに制定した自治体に聞いてもまったく活用されていない。
■パブリックコメント
期間 平成26年3月1日~平成26年3月31日
意見提出者 8人
意見数 18件
■住民説明会
パブリックコメント実施にともなう住民説明
実施回数 6回
参加者数 250人
各種団体の総会等における条例の説明
実施回数 11回
参加者数 790人
市職員を対象にした説明会
実施回数 1回
参加者数 230人
合計 1,270人

関市自治基本条例(1)
その2
5その4
その6
その7

筆者の立場(策定審議会委員)や本稿の限界(資料紹介)上、条例の構成(要素)や条文そのものについての評価やコメントは差し控える必要があろう。その点に留意しながら、最後に、次の諸点を付記しておきたい。
(1)自治基本条例は自治体の最高規範であり、他の条例や規則、計画などはこの条例の考え方を最大限尊重することになる。それを担保する規範意識を市民や地域社会に醸成するための取り組みが必要かつ重要となる。
(2)自治基本条例を機能させるかどうかの前提は、市民の「主権意識」「自治意識」である。その意識の形成と強化を図ることが強く求められる。市民性形成や市民福祉教育などの推進が図られねばならない。
(3)条例は、素案に修正が加えられたものになっているが、答申後の取り扱いは最終的には市長や議会に委ねられることになる。ただ、文言の変更はさておき、抽象的・包括的な条項(条文)への修正が複数箇所にわたって行われていることが懸念される。
(4)自治基本条例は理念条例であるが、その理念を実現するための「仕組み」として、とりわけ「地域委員会」「市民活動センター」「まちづくり市民会議」は重要な意味をもつ。条例が画塀に帰すことのないよう、具体的な規定が必要となる。
(5)「地域委員会」「市民活動センター」「まちづくり市民会議」は、市民が主役のまちづくりを確かで豊かなものにするためにも、三位一体の機関・組織として位置づけられることが大切になる。そのうえで、それぞれの機能が重複発揮されることが求められる。