「福祉教育の歴史」の概略を知りたい、という連絡をある方から複数回いただきました。また、熱心なブログ読者(S氏)からは、最近の福祉教育の実践や研究をめぐって、「他地域の実践事例を見聞しても、以前のようにワクワク感が沸かなくなってきた。」「現場における実践的研究の重要性が認識されていない。またその研究の独自性の追求が弱い。」「教育実践と研究活動は不可分であり、往還関係で捉えることが重要である。」「現場実践と研究をつなぐ仕掛けやシステムはどうあるべきか。それはどのように機能すべきか。」「実践現場の課題と大学人らによる研究の課題設定にズレが生じているのではないか。」「研究者による実践評価の基準がよく分からない。基準の開示すらない。」「教育学分野からの福祉教育研究が期待したほどには進展しない。」「学会発表でも研究の視点や枠組み、データの収集・分析方法などに曖昧なものが散見される。」等々、実に多くの指摘をいただきました。厳しいものばかりです。
「ズレ」に関しては、筆者(阪野)は、最近の政治(政策・制度)による新しい歴史の始まりと実践現場とのズレ、個別的実践への政治的意向の反映や統制も気にかかります。「福祉教育を通していま守るべきものは何か、拓くべきものは何か」。主体的・自律的な福祉教育実践と研究の意義や方向性が、以前にも増して厳しく問われているように思うのは筆者だけでしょうか。
S氏の思い(批判)に対する回答は他日を期すことにして、本稿では先ず、「福祉教育のあゆみ」についてその一文を紹介することにします。コンパクトに要領よく説述されている原田正樹先生(日本福祉大学)のものです。併せて、関係資料と筆者の管見の一部を記しておきます。歴史的知見からS氏への回答の一部を見出すことにつながれば、という思いです。なお、福祉教育の通史と歴史研究に関しては、次の文献も参照して下さい。
(1) 阪野貢「福祉・教育改革と福祉教育のあゆみ」村上尚三郎・阪野貢・原田正樹編著『福祉教育論』北大路書房、1998年3月、2~13ページ。
(2) 杉山博昭「福祉教育の歴史」阪野貢監修/新﨑国広・立石宏昭編著『福祉教育のすすめ』ミネルヴァ書房、2006年4月、22~33ページ。
(3) 田村禎章「戦後の社会福祉・教育・福祉教育関係略年表」「資料」「参考文献」」阪野貢監修/新﨑国広・立石宏昭編著『同上書』202~246ページ。
(4) 三ツ石行宏「福祉教育史研究の現状と課題」『日本福祉教育・ボランティア学習学会研究紀要』Vol.22、日本福祉教育・ボランティア学習学会、2013年11月、68~76ページ。
「福祉教育の考え方―福祉教育のあゆみは?」
福祉教育が成立してきた背景には、児童の健全育成を意図した流れと、地域福祉の推進を意図した流れの、ふたつの大きな流れがあります。[注1]
児童の健全育成のための福祉教育
児童の健全育成を意図した取り組みは、すでに終戦直後から始まっています。当時は、人間性の信頼の回復をめざして、子どもたちに社会事業(今日の社会福祉)を通して教育しようという趣旨から始まりました。共同募金会による副読本作成や、徳島県での子供民生委員制度(子どもたちが自らの生活課題に気づき、それを解決していくことを目的に実践を展開した活動)、大阪市民生局による副読本作成や神奈川県での社会事業教育実施校制度(その後の学童・生徒のボランティア活動普及事業の原型になっていく)、日本赤十字による青少年赤十字活動(JRC)などが有名です。[注2]
高度経済成長により都市化・過疎化がすすみ、核家族も増えていきました。また1970年代頃から、「受験戦争」という用語に代表されるような偏差値重視の教育、校内暴力や家庭内暴力といった問題が顕在化してきました。子どもたちを取り巻く変化のなかで、福祉教育やボランティア活動が重視されるようになってきます。これらの取り組みが1977年の「学童・生徒のボランティア活動普及事業」(国庫補助事業)開始につながります。この制度によって学校における本格的な取り組みが全国各地で行われるようになりました。[注3]
2002年には「総合的な学習の時間」が本格的に導入されるなど、子どもが自ら学び自ら考える力などの全人的な「ともに生きる力」の育成をめざし、教科の枠を超えた横断的・総合的な学習が学校・家庭・地域との連携のもと実施されるようになってきています。[注4]
地域福祉推進のための福祉教育
地域福祉の推進を意図した福祉教育実践は、1960年代の後半から始まります。高度経済成長を背景に地域や家庭の機能が変化していくなかで、地域福祉活動を推進していくために住民への啓発活動が必要になり、具体的な方法論として福祉教育が位置づけられていきます。当時の保健婦(現・保健師)による地域保健活動や公民館での社会教育活動に影響を受けながら、社会福祉の分野でも、地域のなかでの教育活動の必要性が高まっていきました。特に、社会福祉協議会はこのことを意識して取り組むようになります。
1993年には、社会福祉事業法の改正に基づいて「国民の社会福祉に関する活動への参加の促進を図るための措置に関する基本的な指針」が示されます。このなかでは「幼少期から高齢期に至るまで生涯を通じた福祉教育・学習の機会を提供していく必要がある」として、その重要性が位置づけられています。その後、全国社会福祉協議会が中心となって、地域福祉を推進するための福祉教育のあり方について研究会を重ね、報告者(ママ。報告書)や事例集などにまとめられ、市町村社会福祉協議会が中心となって地域福祉推進のための福祉教育を展開してきました。[注5]
こうした実践に対して、1980年になって「福祉教育研究」が深まっていきます。これまでの実践が整理されるなかで、考え方や構成要件などについて一定の合意ができてきました。考え方としても、児童健全育成と地域福祉推進というふたつの流れがまとめられ、福祉教育という領域が整ってきました。特に子ども・青年の発達のゆがみと福祉教育の有効性、地域福祉の主体形成と福祉教育の必要性について、実践研究と理論化がすすみました。
1995年には日本福祉教育・ボランティア学習学会が設立されます。福祉分野だけではなく、教育分野との学際的な研究が始まります。特に、今日の教育改革や福祉改革のなかで注目が高まり、各方面から期待されるようになってきました。近年では「福祉教育を通して何を学び、何を伝えるか」という質の議論がされるようになり、ICF(国際生活機能分類)やリフレクション(ふりかえり)の視点、社会的包摂を意図したプログラムの研究がなされてきています。また昨今、社会的孤立や排除などによる孤立死やひきこもりなどの今日的な課題に対しての地域福祉のアプローチとして、地域住民への福祉教育が注目されてきています。[注6]
(原田正樹「福祉教育のあゆみは?」上野谷加代子・原田正樹監修『新 福祉教育実践ハンドブック』全国社会福祉協議会、2014年3月、12~13ページ)
[注1]福祉教育の源流
福祉教育の源流をどこに求めるかは、福祉教育そのものをどのように捉えるかによって見解は異なります。筆者は、明治後半期から内務省地方局主導のもとで推進された地方改良運動の「自治民育」の取り組みのなかに、福祉教育実践の側面や要素が含まれていたと考えています。また、大正デモクラシー期の新教育運動や昭和初期の郷土教育運動、そして1930年代の生活綴方教育運動などにも注目する必要があると思っています。今後の研究が俟たれるところです(「生活綴方教育と福祉教育」に関する研究への端緒:国分一太郎の1936年論文―資料紹介―/『本ブログ』2015年5月12日投稿、を参照下さい)。
[注2]戦後初期の福祉教育実践
敗戦から1955(昭和30)年にかけての福祉教育実践については、(1) 1946年12月、平岡国市による徳島県の「子供民生委員制度」の創案、(2) 1948年4月、青少年赤十字(1922年6月発足)の組織変更と奉仕活動の再開、(3) 1948年8月、中央共同募金会による教材用資料『国民たすけあい共同募金―社会科教材参考資料―』の刊行、(4) 1950年4月、神奈川県における「社会事業教育実施校制度」の創設、(5) 1953年4月、鳥取県八頭郡社会福祉協議会による「社会福祉事業教育指定校制度」の設置、(6)1949年5月、大阪市民生局による中学校社会科副読本『明るい市民生活へ―社会事業の話―』の刊行、などが有名です。定説となっているこれら以外の、全国各地における福祉教育実践(学校教育や社会教育、ヒトや組織・団体等)に関する史料の発掘が求められます。なお、(1) 子供民生委員制度については、大阪府河内市(現・東大阪市)や松原市でも設置されていましたが、その史的研究は皆無です。
[注3]福祉教育研究における2つの画期
福祉教育研究の画期をなす重要な事項を二つあげるとすれば、(1) 1970年11月に東京で開催された「昭和45年全国社会福祉会議」(全国社会福祉協議会・厚生省・中央共同募金会等主催、参加者約1,800名)と、(2) 1995年10月に設立された「日本福祉教育・ボランティア学習学会」(於・日本社会事業大学、当初会員268名)です。(1)では、「社会福祉の理解を高めるために―教育と社会福祉―」というテーマのもとに、福祉教育についての、全国レベルでは初めての研究協議が行われました。(2)は、学校現場や地域における福祉教育実践の質的向上と、福祉教育研究の学問としての体系化が求められるようになったことを背景に設立されました。
[注4]福祉教育の時期区分
福祉教育の展開を年代順に概略整理すると次のようになるでしょうか。
1970年代:各地における学校中心の福祉教育実践の促進
1980年代:福祉教育実践の全国的展開と理論化の推進
1990年代:学校や地域における福祉教育実践の拡大と多様化
2000年代:福祉教育に関する制度の硬直化と実践の形骸化
2010年代:各地における福祉教育実践の二極化と学会における課題別研究の進展
原田先生は、「福祉教育の変遷」を年代記的に次のように整理しています。参考に供しておきます。
1960年代:高度経済成長、ライフスタイルの変化、受験戦争
1970年代:学校による「こどもたちの豊かな成長を促すための福祉教育」/社協による「地域福祉を推進するための福祉教育」の先駆け
1980年代:「福祉教育とは何か」 理論・概念の議論
1990年代:「福祉と教育の接近性」厚生省や文部省の福祉教育の位置づけ
2000年代:「総合的な学習の時間」の位置づけ・とりくみの広がり/→福祉教育実践の形骸化・質の問い直し/「福祉教育を通して何を学び、何を伝えるか」 質の議論へ
(原田正樹『共に生きること 共に学びあうこと―福祉教育が大切にしてきたメッセージ―』大学図書出版、2009年11月、32ページ)
周知の通り、歴史の時代(時期)区分は、歴史の単なる指標ではありません。それは、歴史的事象の本質的な内容や流れを把握し理解するための研究の視角や方法に基づくものでなければなりません。それ自体が重要な学術的見解(成果)です。福祉教育史研究の進展を願って、再認識しておくことにします。
[注5]全国社会福祉協議会による福祉教育の研究協議
全国社会福祉協議会によって取り組まれた福祉教育の研究協議の成果物(報告書、事例集)を紹介します。ここでの課題は、それぞれの成果物(product)を通して、研究協議の成果内容についてはもちろんですが、研究協議が要請された時代的背景や福祉・教育関係者の問題意識を把握・分析することです。それによって、福祉教育の歴史的展開の意義や問題点とその要因などを明らかにすることができます。
(1)『福祉教育の理念と実践の構造―福祉教育のあり方とその推進を考える―』(福祉教育研究委員会中間報告)全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター、1981年11月。
(2)『学校外における福祉教育のあり方と推進』(福祉教育研究委員会中間報告)全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター、1983年9月。
(3)『学校における福祉教育の推進体制と指導案』(岩手県・島根県・山口県福祉教育研究委員会報告)全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター、1983年9月。
(4)全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター編『福祉教育ハンドブック』全国社会福祉協議会、1984年11月。
(5)全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター編『ボランティア・福祉教育研究』創刊号、全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センタ、1982年3月。
(6)全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター編『ボランティア・福祉教育研究』第2号、全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センタ、1983年9月。
(7)全国ボランティア活動振興センター編『福祉教育連絡会資料集』全国社会福祉協議会、1990年3月。
(8)『学校における福祉教育ハンドブック』全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター、1994年3月。
(9)『福祉教育推進資料集』全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター、1995年3月。
(10)『福祉教育モデル事例集 地域に広がる福祉教育活動事例集―福祉教育の考え方と実践方法・先進的事例に学ぶ―』全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター、1996年3月。
(11) 『福祉教育ワークブック』(福祉教育プログラム研究委員会 平成10年度研究報告書)全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター、1999年3月。
(12)全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター/地域を基盤とした福祉教育・学習活動の推進方策に関する研究開発委員会編『福祉教育実践ハンドブック』全国社会福祉協議会、2003年1月。
(13)『社会福祉協議会における福祉教育推進検討委員会報告書』全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター、2005年11月。
(14)『社協がやらねばだれがやる「社協における福祉教育推進検討委員会報告書」』(ダイジェスト版)全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター、2006年3月。
(15)『福祉教育の展開と地域福祉活動の推進』(福祉教育実践研究シリーズ①)全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター・福祉教育実践研究会、2008年3月。
(16)『学校・社協・地域がつながる福祉教育の展開をめざして』(福祉教育実践研究シリーズ②)全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振興センター/福祉教育実践研究会、2009年7月。
(17)『住民主体による地域福祉推進のための「大人の学び」』(福祉教育実践研究シリーズ③)全国社会福祉協議会/全国ボランティア・市民活動振興センター、2010年11月。
(18)『地域福祉は福祉教育ではじまり福祉教育でおわる』(福祉教育実践ガイド)全国社会福祉協議会/全国ボランティア・市民活動振興センター、2012年3月。
(19)『地域との連携によりはぐくむ ともに生きる力』(リーフレット)全国社会福祉協議会、2013年3月。
(20)『社会的包摂にむけた福祉教育~共感を軸にした地域福祉の創造~』(平成24年度社会的課題の解決にむけた福祉教育のあり方研究会報告書)全国社会福祉協議会/全国ボランティア活動・市民活動振興センター、2013年3月。
(21)『社会的包摂にむけた福祉教育~実践にむけた福祉教育プログラムの提案~』(平成25年度社会的包摂にむけた福祉教育のあり方研究会報告書)全国社会福祉協議会/全国ボランティア活動・市民活動振興センター、2014年10月。
(22)上野谷加代子・原田正樹監修『新 福祉教育実践ハンドブック』全国社会福祉協議会、2014年3月。
[注6]日本福祉教育・ボランティア学習学会における福祉教育研究
日本福祉教育・ボランティア学習学会の『年報』『研究紀要』の特集号「タイトル」を紹介します。福祉教育の研究課題の変遷について知ることができます。それ以上に、ここでは、福祉教育の構成要素と構造(内容)について多面的・多角的視点から精緻に考察することによって、科学的・体系的な福祉教育理論の構築が期待されます。そのためには、先を見通した組織的・継続的な課題設定と追究が必要かつ重要となります。
(1)「日本福祉教育・ボランティア学習学会設立総会・第1回大会報告」『年報』Vol.1、1996年7月(新訂改版、1998年10月)。
(2)「高等教育機関とボランティアネットワーク」『年報』Vol.7、2002年12月。
(3)「福祉科教育法の確立をめざして」『年報』Vol.8、2003年12月。
(4)「地域づくりと福祉教育・ボランティア学習実践」『年報』Vol.9、2004年12月。
(5)「学会創立10周年 これまでの10年 これからの10年」「『介護等体験』の学習支援システムの構築」『年報』Vol.10、2005年12月。
(6)「福祉教育・ボランティア学習における当事者性の位置」『年報』Vol.11、2006年11月。
(7)「福祉教育・ボランティア学習の実践を評価する」『年報』Vol.12、2007年11月。
(8)「高校福祉科の高度化と多様化」『年報』Vol.13、2008年11月。
(9)「持続可能な社会をつくる福祉教育・ボランティア学習―いのち・くらしとESD」『研究紀要』Vol.14、2009年11月。
(10)「地域を基盤とする福祉教育推進プラットホーム」『研究紀要』Vol.16、2010年11月。
(11)「学校教育における福祉教育・ボランティア学習の役割と可能性」『研究紀要』Vol.18、2011年11月。
(12)「福祉教育・ボランティア学習におけるリフレクション」『研究紀要』Vol.20、2012年11月。
(13)「メンタルヘルス課題を学習素材とした福祉教育」『研究紀要』Vol.22、2013年11月。
(14)「いのちの持続性と福祉教育・ボランティア学習」『研究紀要』Vol.24、2014年10月。
(15)「“サロン”の可能性を探る福祉教育・ボランティア学習」『研究紀要』Vol.25、2015年10月。
付記
全国社会福祉協議会/全国ボランティア・市民活動振興センター(全国ボランティア・市民活動振興センター運営委員会/社協ボランティア・市民活動センター強化方策検討のための研究委員会)が、2015年8月、「市町村社会福祉協議会ボランティア・市民活動センター強化方策2015」を策定しました。近年のボランティア・市民活動や社会福祉協議会を取り巻く情勢を踏まえて、市区町村社会福祉協議会ボランティア・市民活動センターの今後のあり方を強化方策として纏めたものです。
そのポイントが、『ボランティア情報』No.461、全国社会福祉協議会、2015年10月、2~5ページに掲載されています。そこに、上記研究委員会の委員長を務めた原田先生が一文を寄せています。「社会福祉協議会と福祉教育・ボランティア学習」について考える際のひとつの視点や視座を学ぶことができます。その一部を紹介しておきます(文中の「ボランティアの終焉」という言辞に関しては、仁平典宏『「ボランティア」の誕生と終焉―<贈与のパラドックス>の知識社会学』名古屋大学出版会、2011年2月、を参照下さい)。
「強化方策2015」は、全国の市町村社協のボラセンはこうあるべきである、という内容をとりまとめたものではありません。(中略)社協ボラセンに、今後求められるであろう「機能」を整理したものです。
その背景には大きな問題意識がありました。市町村社協におけるボラセンの位置づけの曖昧さ(二極化)があること。ボランティア支援のあり方が変化していること。ボランティア団体の高齢化や活動のマンネリ化、新しい活動層へ広がっていかない。災害時などボランティアへの期待が高まる一方で、ボランティアが安上がりなマンパワーとして制度化されつつあること。例えば「有償ボランティア」とか、ボランティアのポイント制度など、そもそもボランティアとしてありえない話が行政主導で提案され、問題意識も持たずにそれを社協が推進しているような状況は、まさにボランティアの終焉かもしれません。
あらためて「ボランティア」と「コミュニティサービス」をしっかり使い分けて考えていくこと。地域福祉の基本にある住民主体の意味とその方法を問うこと。その上で地域ニーズの変化に対応できるボラセンのあり方を模索することが大切であるという意見が交わされました。
市区町村社協が担うボラセンの最大の機能は「プラットホーム」です。社協組織本体ではすぐにつながりにくいところとも、ボラセンとして関係をつくることができます。そのネットワークが、結果として地域のなかの「協議体」の役割を果たしていくのです。(『上掲誌』5ページ)
上記の「強化方策2015」では、「福祉教育」の流れとともに、「学校教育」におけるボランティア活動に関する理念の変遷について、次のように整理しています。記述の視点や内容に気になるところもありますが、参考のために付記しておくことにします。
「学校教育」
▽学校教育におけるボランティア活動に関係する大きな流れとして、次のような理念の変遷があります。
▽2001(平成13)年に学校教育法・社会教育法が改正されました。社会教育法では青少年に対し、ボランティア活動など社会奉仕体験活動、自然体験活動その他の体験活動の機会を提供する事業の実施及びその奨励がうたわれました。
▽2002(平成14)年には中央教育審議会において、「青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策等について」が答申されました。そこには、奉仕活動等に対する社会的気運の醸成、国民の奉仕活動・体験活動を推進する社会的仕組みの整備、18歳以降の個人が行う奉仕活動等の奨励・支援、といったことが書かれました。
▽また、ゆとり教育の導入と廃止が福祉教育の推進などに大きな影響を与えています。知識重視型の教育を経験重視の方針に切り替え、2002(平成14)年度に施行された学習指導要領による教育で具体的に実践されました(学習内容、授業時間数を3割減、完全週5日制、総合的な学習の時間の新設、「絶対評価」の導入等)。
▽同じく、2002(平成14)年の学習指導要領におけるゆとり教育の総合的な学習の時間の新設により、福祉教育の学校における活発な展開が期待されました。
▽2006(平成18)年に教育基本法が改正され、「生涯学習」が教育に関する基本的な理念として規定されました。これにより、学校がめざすべき「生涯学習社会を担う児童生徒の育成」についての二本の柱が明らかになりました。一つは、「生涯学習能力の育成、生涯にわたって学び続ける力の育成」、もう一つは「社会の形成者として必要な資質能力の育成、学びの成果を公共のために活かす力の育成」というものです。
▽2008(平成20)年の教育再生会議の最終報告書において、ボランティアや奉仕活動を充実し、人、自然、社会、世界とともに生きる心を育てることが盛り込まれました。
▽しかし、ゆとり教育が学力の低下をもたらしているという指摘がされるようになると、2008(平成20)年には、いわゆる「脱ゆとり教育」へと方向転換し授業量を増加させた学習要領が実施されることとなりました。この新しい学習指導要領では知・徳・体のバランスが重視され、道徳教育や体験学習の重要性が強調されました。(『強化方策2015』12ページ)