ユネスコスクール・ESD・子ども民生委員活動:大牟田市立中友小学校における福祉教育の取り組み―資料紹介―

〇「子ども民生委員」をインターネット検索すると、複数の学校(小学校)の取り組みがヒットする。徳島県石井町立藍畑小学校の「藍畑子供民生委員会」「藍畑子供民生委員活動」は、1946年12月に平岡国市が創案した子供民生委員制度の系譜につながるものとして有名である。福岡県大牟田市や高知県土佐清水市、熊本県天草市、島根県江津市二宮町などにおける「子ども民生委員活動」等の取り組みも注目される。なかでも、大牟田市立中友小学校のそれは、「ユネスコスクール」(注①)としての「福祉教育」を軸にした取り組みであり、興味深い。
〇周知の通り大牟田市では、2011年度から「ユネスコスクールのまち おおむた」を合い言葉に、市立のすべての小・中・特別支援学校(2016年4月現在、小学校20校、中学校9校、特別支援学校1校)がユネスコスクールに加盟し、「持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)」(注②)を推進している。
〇大牟田市におけるESDの取り組みは、エネルギー・環境学習、国際理解学習、世界遺産・地域学習、福祉教育などを通して、次のような児童・生徒の資質や能力の育成・向上を図るものである(注③)。
(1) 他者の立場や考えなどに共感し、協力して物事をすすめようとする態度
(2) 人・もの・こと・社会・自然などと自分のつながりを大切にしようとする態度
(3) 自分の発言や行動に責任をもち、物事に主体的に参加しようとする態度
(4) 情報や資料等をもとに公平に判断し、深く考え、肯定的に受けとめたり、代わりの案を考えたりする力
(5) 人・もの・こと・社会・自然などのつながりやかかわりを理解し、総合的に考える力
(6) 人の気持ちや考えを大切にしたり、自分の気持ちや考えを伝えたりする力
〇中友小学校は、ESD の一環として、「地域に根ざした福祉教育」を1、2年生の「生活科」と3年生以上の「総合的な学習の時間」において、6年間にわたり段階的・継続的に実施している。そういうなかで、5年生が「子ども民生委員活動」に取り組んでいる。それは、「他者との関係性・社会との関係性を認識し、高齢者世代・保護者の世代・児童の世代の3世代の交流を促進させ、世代間の『つながり』や『かかわり』を大切にした活動」(注④)である。そのねらいは、児童・生徒を地域社会をつくる担い手として捉え、学校と家庭、地域との信頼関係を深め、地域の教育力も高めることによって、豊かな共生社会を構築することにある。
〇筆者(阪野)はかつて、徳島県の子供民生委員制度(活動)について、次のように評したことがある。「子どもの生活と社会に根ざした子供民生活動は、『子どもと大人』『地域と学校』『福祉と教育』を限りなく接近させ、その組織的なつながりのなかで活動の究極の目標である『民生村造り』すなわち福祉コミュニティづくりを進めたのである」(注⑤)。中友小学校の取り組みはそれに通底するものであると言えよう。
〇以下に、中友小学校が発行した『平成26年度/ESD 「子ども民生委員活動」ハンドブック~「総合的な学習の時間」のステージで~』のなかから、「総合的な学習の時間全体計画」(資料1)、「ESD全体計画」(資料2)、「ユネスコスクール全体計画」(資料3)、「子ども民生委員活動」(資料4)を抜萃して紹介する。

中友小学校資料1/6月20日
中友小学校資料2/6月20日
中友小学校資料3/6月20日
中友小学校資料4/6月20日
〇以上から、中友小学校では、児童・生徒の実態に応じた横断的・総合的で、系統的かつ計画的な「地域に根ざした福祉教育」が展開されている。しかもそれは、ユネスコスクールの理念やESDのねらいにかなうものである。評価されるところである。言うまでもなく、ESDが求める「持続可能な社会」を構築するのは「ヒト」(子どもから大人までの「市民」)である。学校教育のねらいのひとつは、地域との「つながり」や「かかわり」のなかで、「地域に学び、地域に生かし、地域を創る」ことにある。改めて認識しておきたい。
〇学校福祉教育は、地域の「社会福祉問題」(中友小学校がいう「地域素材」)を学習素材とし、「体験学習」を重視する教育活動である。従ってそれは、本来、学校内で自己完結するものではない。また、児童・生徒の発達課題や生活課題に対応して全教科・全領域で取り組まれ、地域を基盤とした学校経営の視点を持つことが必要不可欠となる。すなわち、学校福祉教育は、学校教育の根幹に位置づくものであり、学校を挙げて体系的・組織的に取り組むべきものである。
〇さらに付言すれば、地域に根ざした学校福祉教育をより豊かなものにするためには、「住民の暮らし理解とまち学習」「生き抜く力と共に生きる力の育成」「市民性形成のための教育営為」「ICFの理念に基づくまちづくり」「地域を基盤とした福祉教育推進プラットホームの構築」などについて思考し、取り組む必要があろう。その際に問われるのは、行政や、社会福祉協議会をはじめとする関係機関・団体・施設などの意欲と力量であり、それらと学校との「共働」である。


① ユネスコスク−ルでは、ユネスコの理念(国際平和と人類の共通の福祉)の実現をめざして、(1)地球規模の問題に対する国連システムの理解、(2)人権、民主主義の理解と促進、(3)異文化理解、(4)環境教育などのテーマについて、質の高い教育が実践されている。2015年6月現在、世界182か国の国や地域に10,422校のユネスコスクールがある。日本国内の加盟校数は、2016年3月現在で939校を数えている。文部科学省と日本ユネスコ国内委員会では、ユネスコスク−ルをESDの推進拠点として位置づけている(「ユネスコスクール」文部科学省ホームページ)。
② ESDは、「現代社会の課題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組む(think globally, act locally)ことにより、それらの課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出すこと、そしてそれによって持続可能な社会を創造していくことを目指す学習や活動」である。言い換えれば、ESDは、地球上で起きている様々な問題が、遠い世界で起きていることではなく、自分の生活に関係していることを意識づけることに力点をおくものである。地球規模の持続可能性に関わる問題は、地域社会の問題にもつながっている。だからこそ、身近なところから行動を開始し、学びを実生活や社会の変容へとつなげることがESDの本質である(『ESD(持続可能な開発のための教育)推進の手引(初版)』文部科学省国際統括官付/日本ユネスコ国内委員会、2016年3月、4ページ)。
ESDは、2002年に開催された第57回国連総会において、我が国が提唱した。また、2005年から2014年を「国連持続可能な開発のための教育の10年(DESD:United Nations Decade of Education for Sustainable Development)」とすることが決議され、以降、ユネスコを主導機関として世界的にESDの推進が図られている。
学習指導要領に関しては、2008年3月(小・中学校)と翌2009年3月(高等学校)に公示されたそれにおいて、「持続可能な社会の構築」の観点が盛り込まれた。以後、ESDの普及・促進が図られることになる。
「ESDと福祉教育・ボランティア学習」に関しては、『日本福祉教育・ボランティア学習学会 研究紀要』Vol.14(2009年11月)で、「持続可能な社会をつくる福祉教育・ボランティア学習―いのち・くらしとESD」が特集されている。参照されたい。
③「『ユネスコスクールのまち 大牟田』について」大牟田市教育委員会ホームページ。
④ 『平成26年度/ESD 「子ども民生委員活動」ハンドブック~「総合的な学習の時間」のステージで~』大牟田市立中友小学校、2014年10月、2ページ。
⑤ 阪野貢『戦後初期福祉教育実践史の研究』角川学芸出版、2006年4月、29ページ。

謝辞
本稿をアップするにあたって、大牟田市立中友小学校の校長・本村勝則先生と教頭・上田幸子先生には格別のご高配を賜りました。ここに記して深く感謝の意を表します。