高校福祉科創設の経緯
1985年2月:理科教育及び産業教育審議会答申「高等学校における今後の職業教育の在り方について」で「福祉科」の設置が提言された。
1986年4月:静岡県三島高等学校の家庭科に「福祉コース」が設置された。
1987年4月:兵庫県立新宮高等学校と鹿児島県城西高等学校に「福祉科」が設置された。
1987年5月:「社会福祉士及び介護福祉士法」が制定され、介護福祉士国家試験の受験資格が取得できる高等学校の教育課程の条件が提示された。
1987年6月:文部省(調査研究グループの「福祉科部会」)によって「福祉科について―産業教育の改善に関する調査研究―」がまとめられた。
1999年3月:高等学校学習指導要領が改訂・告示され、専門教育に関する教科「福祉」が創設された。
2000年度:新教科「福祉」現職教員等講習会が開催された(2002年度までの3カ年、1,517名修了)。
2000年度:「福祉」の高等学校教員資格認定試験が実施された(2002年度までの3カ年、173名合格)。
2001年度:大学の新教職課程で「福祉」教員の養成が始まった(2000年度、課程認定を受けた大学は88校、114課程)。
2003年度:教科「福祉」が実施された。専門教育に関する教科7科目(社会福祉基礎、社会福祉制度、社会福祉援助技術、基礎介護、社会福祉演習、社会福祉実習、福祉情報処理)としてスタートした。
〇2016年8月、中央教育審議会(第8期:2015年2月~2017年2月)の初等中等教育分科会/教育課程部会/教育課程企画特別部会/産業教育ワーキンググループが、次期学習指導要領の改訂に向けた審議を取りまとめ、公表した。そこでは、高校福祉科に関して次のように整理されている。
〇この「まとめ」は、①医療的ケアなどの福祉ニーズの高度化と多様化、②福祉実践における倫理観やマネジメント能力・多職種協働能力などの育成、③ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)・介護ロボットなどの福祉機器の活用といった高校福祉科の現状と課題に対応せんとするものである。
〇いま、福祉・介護ニーズの多様化・高度化が進むなかで、専門的な福祉・介護人材を量・質ともに安定的に育成・確保し、その資質の向上を図ることが求められている。しかし、福祉・介護現場の労働環境・処遇は依然として厳しい。また、福祉・介護に関する専門的職業人を養成する高校福祉科(「福祉系高校」「特例高校」等、注①)を取り巻く環境は決して楽観を許さない。
〇こうした時に求められるのは、高校福祉科の存在意義について再確認したり、高校福祉教育の原点に立ち返ることである。本稿では、そのための資料紹介を行うことにする。
〇高校福祉科の存在意義については、例えば、前述の「産業教育ワーキンググループにおけるヒアリング」(2016年1月実施)で、保住芳美先生(川崎医療福祉大学)が以下のような意見の開陳を行っている。そこでは、職業学科としての高校福祉科の「擁護」の視点から、15歳で将来のキャリアの方向性を決定し、自己啓発・学習に励む生徒の意欲や姿勢が重視されている。高校福祉科の存在意義や存在価値は、高校福祉教育と市民福祉教育(サービス・ラーニング)、教養教育とキャリア教育・職業教育、ソーシャルワーク教育とケアワーク教育、高校福祉科と福祉系等大学、等々の有機的関連性や連携・統合のあり方などについて追究するなかで問われるべきである。またその際には、歴史的かつ批判的な視点や思考が肝要となる。
〇周知の通り、高校福祉教育は、国民的教養としての福祉教育と専門教育としての福祉教育、そして福祉系大学等への進学などが意図あるいは想定されてその推進が図られてきた。
〇2016年8月、「平成28年度全国福祉高等学校長会第22回総会・研究協議会並びに福祉担当教員等研究協議会」が新潟県南魚沼市(主管・八海高校)で開催された。「研究主題」は、「『福祉教育』の原点をもう一度考える―高校福祉教育が目指すもの―」であった。この全国福祉高等学校長会は、1993年11月25日、埼玉県春日部市(ホテルのレストラン)で開催された「第1回全国福祉系高等学校連絡協議会(仮称)」に遡る。
〇以下では、多くの紙幅を費やすが、「第1回全国福祉系高等学校連絡協議会」と「第2回全国福祉系高等学校連絡協議会並びに平成6年度全国福祉科高等学校長会・学科主任会」(1994年7月31日~8月1日、日本出版クラブ会館)の「記録報告」、第1回(1995年10月、主管・三島高校)から第5回(1999年11月、主管・ベル学園高校)までの「全国高等学校長協会家庭部会福祉科高等学校長会総会・研究協議会並びに学科主任等研究協議会」の「大会報告」を紹介する(注②)。高校福祉科教師の熱い思いと強い願いがひしひしと伝わってくる。高校福祉教育の原点に立ち返り、総合的かつ客観的な現状分析・評価に基づいて、将来を展望するきっかけになれば幸いである。
注
①福祉系高校/介護福祉士養成課程の基準を満たす高等学校および中等教育学校として、文部科学大臣および厚生労働大臣の指定した学校。修了時に介護福祉士試験の受験資格を得ることができる。
特例高校/介護福祉士養成課程の基準を満たす高等学校および中等教育学校として、文部科学大臣および厚生労働大臣の指定した学校。修了後、9月以上介護等の業務に従事した場合に、介護福祉士試験の受験資格を得ることができる。
2015年度現在、福祉系高校は102校・102課程、特例高校は28校・28課程を数えている。
②下の表は、「第2回全国福祉系高等学校連絡協議会並びに平成6年度全国福祉科高等学校長会・学科主任会」と第1回から第10回までの「全国高等学校長協会家庭部会福祉科高等学校長会総会・研究協議会並びに学科主任等研究協議会」の開催期日、主管校、研究主題、そして各年度の加盟校数を一覧にしたものである。第1回大会(1995年)から第6回大会(2000年)まで研究主題が同一であることに注目しておきたい。
付記
参考までに、日本社会福祉教育学校連盟が作成する「日本における社会福祉・ソーシャルワーク教育・研究の鳥瞰図」(2016年6月版)を付記しておく(学校連盟ホームページより)。
備考
〈ディスカッションルーム〉
(88)矢幅清司「高校福祉科教育に関する資料」(平成7年度~平成22年度)/2020年3月12日/本文