“いまどきの年寄り” が「老人クラブ」に学ぶ―機能としての、もうひとつの福祉教育―

聞き手:「老人クラブ」というと、1986年の「健康・友愛・奉仕『全国三大運動』」や、1991年の「ねたきりゼロ運動」、1992年の「在宅福祉を支える友愛活動」、2005年の「子ども見守りパトロール活動」などの全国展開を思い出します。それらは、時代の要請に応えた運動であり活動であったわけですが、国主導の政策的色彩が濃く、高齢者の本音や真のニーズに迫るものではなかったと思っています。
2014年度からは5カ年計画で、老人クラブ「100万人会員増強運動」が推進されています。その背景には、高齢者人口が増大し、超少子・高齢・人口減少・多死社会が進展するなかで、老人クラブ数や会員数は逆に1998年(クラブ数約13万、会員数約887万人)をピークに減少の一途をたどっている状況があります。直近(2016年3月末現在)の数字では、クラブ数は約10万、会員数は約590万人です。
なぜ、老人クラブは衰退してきたのか。その原因のひとつは、高齢者自身の生活や意識の変化、高齢者を取り巻く政治的・経済的・社会的・文化的そして地域的環境の変化(矛盾や歪み)、「いまどきの年寄り」についての社会(世間)の認識や理解のズレなどにあるのではないでしょうか。しばしば指摘されることですが、老人クラブの組織それ自体が、また活動や運動そのものが魅力的でなくなってきたのではないか。高齢者の興味・関心やニーズに合っていない。
そんなことを思いながら、短時間ですが、質問させていただきます。
聞き手:阪野さんは、昨年度から、老人クラブの活動に参加しているんですよね。
阪 野:そうなんですよ。昨年度、地元の老人クラブ(以下、「シニア巾」)の「会計」の“仕事”を仰せつかりました。もうそんな年齢(とし)になったんですね。
聞き手:ご自分の方から積極的にやろうと思ったわけでもないんでしょ。
阪 野:まあ、正直に言えばそうですね。実は、3年ほど前に、近所の役員の方から「あんたの番だから、やるように」という話があったんです。ただその際は、そんな年齢でもないし、関心もないので、丁重にお断りしたんです。何よりも、65歳以上になると強制的に「シニア巾」のメンバーになる、というのが納得できなくてね。老人クラブは基本的には、加入は自由であり、会員が自主的に運営し、活動の財源は主として会員の会費による、というものでしょ。老人クラブの活動は自助活動であり、ボランティア活動ですよね。
聞き手:その役員の方は困ったでしょうね。
阪 野:そうだと思いますよ。ただ、私が役員を断った後には、かなり高齢の方も役員をされていて、その方々の様子をみていると私も引き受けざるをえないかなと思ったわけです。
聞き手:引き受けてどうでしたか。
阪 野:よかったと思っています。多くの人と知り合いになれたし、途中から活動そのものも楽しくなってきました。「会計」担当ということもあって、また会長さんをはじめ役員の皆さんの人柄にもよるんですが、活動の面では自由度の高い関わり方をさせていただきました。
地域参加や地域活動で重要なのは「楽しさ」と「自由」、そして「仲間」ですね。
地域には本当にすばらしい人が沢山いらっしゃることも、再認識することができました。僭越な言い方ですが、地域には必ず、「資材」や「人材」ではなく、豊かな知恵やさまざまな技能などをお持ちの「人財」がいるものですね。まちづくりに必要な「若者・よそ者・ばか者」の「ばか者」ですかね。その人たちの尽力によって、地域は変わっていくんですね。
聞き手:どんな方がいますか。
阪 野:例えば、会長のKMさんですが、その方はリーダーシップとメンバーシップを併せ持っておられ、「仕事」の速さにも驚かされました。また、多くの役員や班長さんたちをうまく束ね、会議などで合意形成を図るタイミングやバランスは絶妙でした。
老人ホームに勤めていたKSさんは、「高齢者は地域に出なければだめなんだ」(社会参加)というのが持論で、高齢者福祉についての思想や哲学をお持ちでした。ボランティア活動(大人の紙芝居)にも熱心な方です。
長らく福祉委員(市社協)をされていたKHさんは、女性ならではのアイディアやセンスを活かして、こまごまとした準備をされました。また、広報のノウハウを駆使して、「シニア巾たより」の編集に継続的に関わっておられます。ある会議の席で、「私は『よそ者』ですから」と控えめに言ったのですが、KHさんから即座に「そういう考え方はよくない」と叱責されましたよ。
現役の民生委員のKYさんは、福祉に関する新しい情報提供やネットワークの形成に努めて下さいました。また、趣味である写真撮影では、セミプロレベルの腕前を月例会や旅行のときに存分に発揮されました。
「福祉は人なり」ですね。また、「地域は捨てたもんじゃない」ですよ。
聞き手:その人たちが連携・協働して取り組まれる活動には、どんなものがありますか。老人クラブは、基本理念として、「生きがいづくり」「健康づくり」「仲間づくり」「地域づくり」の「4つの“づくり”」活動をめざしていますよね。
阪 野:「シニア巾」は、市の老人クラブ連合会(2016年度現在、63クラブ、会員数5,513人)に所属する単位老人クラブです。毎年9月に自治会が主催する「敬老祝賀会」のような雰囲気もありますが、昨年度からは特に「ふれあい・いきいきサロン」活動に力を入れています(市社協では2015年度現在、16支部社協で実施、485回開催、延10,248人参加、1,987,612円助成)。
敬老祝賀会の雰囲気というのは、役員や班長さんたちによって、会場の設営からプログラムの企画・実施、そして後片付けまで、「至れり尽くせり」の一方的な支援がなされているという意味です。個人的には、月例会に参加される高齢者の方々が、もっと主体的・能動的にいろんな役割を担うべきだと思っています。「シニア巾」の運営の担い手にもなるべきではないでしょうか。要するに、「受け手」と「支え手」の関係を超えて、「共働」(相互支援・相互補完と相互実現)という考え方に立って「シニア巾」の活動に取り組むべきだと思います。

月1回の月例会では、茶話会と誕生会、健康体操、ゲームなどを楽しんでいます。昨年度のプログラムで特筆されるのは、年間を通して「認知症」について学習することを主軸に据え、地域でより豊かに暮らすための「学習」活動に積極的に取り組んだことではないでしょうか。これは、意図的・目的的にまちづくりの主体形成を図ろうとしたものではありませんが、結果的にはいわゆる「事業としての福祉教育」(福祉教育事業)ではなく、「機能としての福祉教育」(福祉教育機能)の取り組みになったと評価しています。

また、先ほどの「シニア巾たより」ですが、KHさんが中心になって作られ、毎月、月初めに会員全員に配布されています。内容的には、月例会の様子や身近な話題などが掲載されていますが、2010年4月に創刊され、2017年3月には90号を数えています。「シニア巾」とその活動の普及・啓発に大いに役立っています。これも特筆ものです。
今後も、「仲間をつくる」「仲間はずれにしない」という意識のもとで、双方向さらには多方向の情報発信や情報交換、そして意見交換などを行うことが必要かつ重要になるのではないでしょうか。それによって、「安全」と「信頼」、すなわち「安心」なまちづくりを進めることができるのではないかと思います。

なお、6月と10月には日帰りの小旅行、11月には文化祭の「喜楽展」、12月には地元の子どもたちを迎えてのクリスマス会、そして3月には総会などがあります。
聞き手:全老連(全国老人クラブ連合会)の資料によると、老人クラブの活動は、「生活を豊かにする楽しい活動」(健康づくり・介護予防、趣味・文化・レクリエーション)と「地域を豊かにする社会活動」(友愛・ボランティア、安心・安全まちづくり、世代交流・伝承、環境・生産・リサイクル)に大別されるようですが、「シニア巾」の活動も結構忙しいですね。
阪 野:そうですよ。そのための準備も大変でした。「会計」担当の私ですらそういう思いでしたから、会長のKMさんや、長年にわたってこの「シニア巾」の活動のコーディネートや支援を行っているKSさんやKHさんには頭が下がります。
個人的には、月例会に50名が一か所に集まる現在のいわゆる「集会所型」は、会場のキャパシティから言っても、もう限界にきているのではないかと思います。高齢者の「自宅開放型」や「空き家利用型」、あるいは気候のいい時期には屋外で行う「屋外型」もいいのではないでしょうか。また、さまざまなプログラムを異なる日程や会場で企画し、参加者がそれをチョイス(選択)することができるようにするのも一案だと思います。さらには、子どもたちとの交流を深めることも意図して、地元の小学校などで行うことも考えられますよね。そうすることによって、地域のいろんな人や他世代と関わることになり、活動もより楽しく豊かなものになるのではと思います。それがまた、高齢者の参加意欲の向上につながればいいですね。
そうそう、「おはようございます」「今日も元気で‥‥‥」という「早朝サロン」や、「お疲れさまでした」「明日も元気で‥‥‥」という「夕方サロン」もいいですよね。「元気の地産地消で暮らしを紡(つむ)ぎ、まち(ヒト、モノ、コト)を繋(つな)ぐサロン」ですかね。
こうした多様な活動を展開するためには、先ほども言いましたが、運営主体や方法、活動費や補助金等のあり方が問われることになります。
聞き手:いろんな取り組みをすると、それなりの費用がかかりますが、その点はどうされているんですか。全老連などの資料を見ると、会員一人当たりの年会費は1,200円程度が多いようですが。
阪 野:会費はいただいていません。昨年度の会計は、全体の予算が約100万円、その内、自治会からの助成金が30万円、市や市社協からの補助金が20万円、残りは春・秋の旅行などの自己負担金が50万円、といったところです。今後は、会員が増えてくるでしょうから、月例会などの費用も実費負担を考えていく必要があるのではないかと思います。

聞き手:会員数や月例会の参加者はどのくらいですか。
阪 野:自治会の会員は約280世帯ですが、「シニア巾」の会員は185名(男性84名、女性101名)、月例会の参加者は平均すると約50名、春・秋の旅行の参加者は合わせて85名、といったところです。
聞き手:月例会の参加者は全会員の3割弱になりますかね。
阪 野:そうですね。この3割という数字は実は、数年前からあまり変わっていないようです。この点をどう読み取るかが、「シニア巾」の今後のあり方を決めることにもなるのではないでしょうか。
聞き手:活動内容に関する問題点や課題はありますか。
阪 野:男性の参加者が少ないですね。また、子どもや障がい者、アパートやマンションの居住者、さらには外国籍住民などへの配慮も十分とは言えません。他の地域組織・団体・施設や学校、民間企業などとのコミュニケーション(交流)やコラボレーション(協同活動)も多くはないですね。
ただ、昨年度は、年度の途中からでしたが、地域にある小規模多機能型居宅介護施設の利用者の方が、2、3名ですがお見えになりました。相互交流が深まればいいですね。
今後は、活動内容の多様化・高度化・魅力化や、ボランティア活動やまちづくり活動への参加の促進などが課題になるのではないでしょうか。とりあえずは、先ほどの「4つの“づくり”」活動と、特にそのうちの「地域づくり」(社会貢献)活動を如何に広げ・深め・高めるかということではないでしょうか。
聞き手:最後に、何か一言ありますか。
阪 野:福祉の世界ではいま、「社会的包摂」や「地域共生社会」の実現に向けた「我が事・丸ごと」という流行り言葉をよく耳にします。繰り返しになりますが、「シニア巾」も、そういった理念や考え方に基づいて、まちづくりの担い手になっていくことが求められるのではないでしょうか。言い換えれば、「シニア巾」に集った高齢者(仲間)だけの組織や活動としてではなく、「シニア巾」とその活動の地域開放や協働(共働)化などを進め、まちづくりの活動や運動の一翼を担うことが期待されるということです。
聞き手:ありがとうございました。
阪 野:今回の私の話は、すべて個人的な認識や見解に基づくものであることを申し添えます。また、事実の見落としや誤解があろうかと思います。ご容赦下さい。わずか1年の経験(活動体験)だけでこのような話をさせていただくのは、僭越の極みです。ただ、開発・提案された「事業としての福祉教育」実践(プログラム)も重要ですが、こういった日頃の、ある意味では草の根的な「機能としての福祉教育」実践(プログラム)を積み上げることによって、新しい豊かな福祉教育実践を創り出すことができるのではないでしょうか。この点を強調させていただきたいと思います。こちらこそ、ありがとうございました。

付記
「健康・友愛・奉仕『全国三大運動』推進要綱」を紹介しておきます(「全国老人クラブ連合会」ホームページより)。

参照
<雑感>(105)笛吹けども踊らず:老人クラブ「100万人会員増強運動」―老人クラブ会則私案―/2020年3月31日/本文