〇筆者(阪野)はかつて、学生に対して、論文を書くにあたっては思考の枠組みと構造に対応させて、「書くべきこと」と「書きたいこと」を峻別し、その関係性を重視しながら「簡潔明瞭」に書くことを求めてきた。しかも、論述の内容や関係性を視覚化した「概念図」の作成を勧めた。“言うは易し行うは難し”であることを承知のうえで、「この章や節で書いていることをひとつの図で示すとどうなりますか」「文章を因数分解し、それを再構成して簡便な図を描いてみて下さい」というふうにである。それは、訴求効果を高めるだけでなく、その作業を通して思考と論理の体系化・構造化や拡大・深化を期待するがゆえである。
〇本稿では、福祉教育に関するいくつかの概念図のうちから、筆者が再認識したい基本的なものを10点選択し、それに筆者が作成した2点を加えて一覧にまとめ、各図の説述文の一節を紹介することにする(抜き書きと要約)。
図1 ボランティア活動の構造/1980年7月
ボランティア活動には、①地域の連帯力・教育力を取り戻し、再創造していくための地域づくりのボランティア活動、②地域に住んでいる自立困難な人を疎外することなく、必要な個別援助を提供し、地域の福祉を支える力となるボランティア活動、③どのような街をつくるのか、障害者や高齢者と共に生きる街をどうつくるのか、という地域福祉の街づくり計画をすすめるボランティア活動、という3つの機能がある。その3つの機能は個人のなかに有機化して内包されている場合もあれば、そうでない場合もあろう。しかし、少なくとも3つの機能は図1のように構造化され、個人もしくはグループあるいは地域のなかに有機的連携をもって存在し、統合した力を発揮できるようになっていることが必要であろう。(55ページ)
出典:大橋謙策『地域福祉の展開と福祉教育』全社協、1986年9月、56ページ。初出は、全社協・ボランティア基本問題研究委員会「ボランティアの基本理念とボランティアセンターの役割―ボランティア活動のあり方とその推進の方向―」1980年7月、である。
図2 “福祉のいとなみ”の各局面に対応した福祉教育の課題/1981年11月
いま一度、“国民の社会福祉への関心と参加の促進”という福祉教育の出発点に立ちかえり、その根底にある教育課題を整理し直してみる必要がある。あちこちから発せられた“課題”群を有機的に関連づけ、福祉教育の理念を構造化する必要がある。そこで、“福祉のいとなみ”、そのあるべき姿、あり方をまずその構成分子にまで分解し、その上で全体構造を描いてみるとともに、その構成分子の一つ一つが要求する教育課題を見い出すという方法を試みた。要するに、“福祉のいとなみ”と、教育課題の両者を分解し、相互に関連する同士を結合した上で、再び全体を俯瞰するという工程を経て、より明確な福祉教育像を見い出そうとしたのである。図2はその作業をまとめたものである。“福祉のいとなみ”と教育課題のかかわり合いの中に“福祉人”(期待される福祉活動を正しく担いうる人間像)の要件が浮かび上がってくる。(9ページ)
出典:全社協・福祉教育研究委員会「福祉教育の理念と実践の構造―福祉教育のあり方とその推進を考える―」(福祉教育研究委員会中間報告)全社協・全国ボランティア活動振興センター、1981年11月、10ページ。
図3 現代社会の社会福祉の諸問題/2000年12月
現代社会においては、人間の関係性(「つながり」)を重視し、「ソーシャル・インクルージョン」の理念を進める必要がある。従来の社会福祉は主たる対象を「貧困」としてきたが、現代においては、①「心身の障害・不安」(社会的ストレス問題、アルコール依存、等)、②「社会的排除や摩擦」(路上死、中国残留孤児、外国人の排除や摩擦、等)、③「社会的孤立や孤独」(孤独死、自殺、家庭内の虐待・暴力、等)といった問題が重複・複合化しており、こうした新しい座標軸をあわせて検討する必要がある。図3の横軸は、貧困と心身の障害・不安に基づく問題を示すが、縦軸はこれを現代社会との関連で見た問題性を示したものである。なお、各問題は、相互に関連しあっているとともに、社会的排除や孤立の強いものほど制度からも漏れやすく、福祉的支援が緊急に必要である。(2、3ページ、「別紙」)。
出典:厚生省社会・援護局「『社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会』報告書」2000年12月、「別紙」。
図4 ICFの構成要素間の相互作用/2001年5月
障害に関する国際的な分類としては、これまで、世界保健機関(以下「WHO」)が1980年に「国際疾病分類(ICD)」の補助として発表した「WHO国際障害分類(ICIDH)」が用いられてきた。WHOでは、2001年5月の第54回総会において、その改訂版として「ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)」を採択した。ICIDHは、「障害分類」(「病気/変調」→「機能障害」→「能力障害(能力低下)」→「社会的不利」)として、「障害」のマイナス面を分類するという考え方が中心であった。それに対して、ICFは、「生活機能」というプラス面からみるように視点を転換し、さらに「背景要因」の観点を加えた。「生活機能」は「心身機能・身体構造」「活動」「参加」、「背景要因」は「環境因子」「個人因子」から構成されている。この考え方は、障がい者はもとより、すべての人々の生活活動(仕事、家事、学習・文化・スポーツ活動など)に関する保健・医療・福祉サービスや社会システムなどのあり方の方向性を示唆している。
出典:厚生労働省ホームページ参照。
図5 福祉教育とボランティア学習の構造イメージ/2003年1月
福祉教育とボランティア学習は、双方とも、人権尊重・異文化理解をべースに、共生社会・福祉社会の創造を大目標にかかげる実践である。しかし、総体としてとらえると、学習素材・期待される成果・手法において若干の違いがある。福祉教育は、「社会福祉問題や福祉現場とのつながり」を起点とする。それに対してボランティア学習は、かならずしも社会福祉領域に限らず、より広く、「社会的問題や市民活動とのつながり」を大事にする実践である。また、福祉教育は、より制度的かつ切迫的な現実課題に応えることが期待される実践である。このことから、福祉教育は、ボランティア学習に比べて、よりカリキュラムとして制度化しやすい体質をもっているともいえる。現在、福祉教育とボランティア学習は、ともすると、異なる文脈で実際の教育現場に導入されているが、両者の特徴を総合することが求められている。理念的にも、福祉教育とボランティア学習は相補う関係にある。(36~38ページ)
出典:地域を基盤とした福祉教育・学習活動の推進方策に関する研究開発委員会編『福祉教育ハンドブック』全社協、2003年1月、39ページ。
図6 共生に関する分析枠組 ―理論上のアイデンティティ類型―/2003年3月
社会福祉領域における共生が、差別の克服を課題としているならば、その前提は、マイノリティ(少数者・派)とマジョリティ(多数者・派)の両方を含む、全ての人々の異質性の尊重に他ならない。共生は、マジョリティがマイノリティを同化や統合することではなく、また、マジョリティがマイノリティに譲歩や優遇措置をとることでもない。マイノリティ、マジョリティのいずれもが特権を持たず、対等な立場に立つことが基礎条件である。その上で、異質性との対峙によって生じる衝突や葛藤を強調するだけでなく、相互の認識・理解を通じて、尊重し合い、変容し合うことが求められる。図6は、人々の多様なアイデンティティの状況を把握するための全体的な見取り図(基礎モデル)である。縦軸の変数として「マジョリティ文化への志向」の度合いを取り、横軸の変数として「マイノリティ文化への志向」の度合いを取っている。各象限のタイプは、あくまでもアイデンティティを分析し、共生へのプロセスを検討するために構成したものであり、抽象的な類型である。そのため、実在する人々が、各タイプの特徴と厳密に一致するわけではない。(51、52~53ページ)
出典:寺田貴美代「社会福祉と共生」園田恭一編『社会福祉とコミュニティ―共生・共同・ネットワーク―』東信堂、2003年3月、52ページ。
図7 社協事業における福祉教育の位置づけ/2008年3月
社協の使命は、「地域福祉の推進」である。そして、その主人公は「地域住民」である。社協は「住民主体の原則」を掲げ、住民自身の学びと地域福祉活動の実践を継続的に支援してきた。地域住民が地域福祉を担っていくためには、住民自身が地域の様々な課題に気付き、その解決に向けて自ら取り組んでいく手法を学んでいく、という気づきと学びのプロセスが重要である。そのことを通して、地域課題に取り組む力量を培った住民の層を厚くしていくことが、社協の使命の遂行に直結していくことになる。したがって、社協職員はあらゆる事業をすすめる際に、福祉教育の重要性を意識し、地域住民が主体的に問題解決にむけて働きかけていけるような事業の企画とプログラム展開を考えていく必要がある。 図7は、社協事業における福祉教育の位置づけを示したものである。社協の使命達成のために、福祉教育はなくてはならない実践なのである。(2ページ)。
出典:福祉教育実践研究会『福祉教育の展開と地域福祉活動の推進』(福祉教育推進のためのパンフレット)全社協・全国ボランティア活動振興センター、2008年3月、3ページ。
図8 地域を基盤とした福祉教育の展開と地域福祉活動の推進/2008年3月
図8は、「地域の中での福祉の学び」と「地域福祉活動」の関係を示したものである。(上・下図ともに)上下2つの帯があるが、上の帯は、「個々の住民に着目した、学びと活動実践のプロセス」を示している。地域課題に気づき学ぶことを重視した部分は、より「福祉の学び」( 福祉教育)の性格が濃く、課題解決を重視した実践の部分は「地域福祉活動」としての性格が濃い、ということができる。そして、福祉教育としての機能も地域福祉活動としての性格も、多少の違いはあっても、本来、決して一方が全く失われるという関係ではないとも考えられる。しかし、「学び」と「活動」との関係を重視して、常によりよい相互作用を意識して取り組まなければ、それぞれが形骸化してしまうおそれもある。そう考えると、「福祉の学び」と「地域福祉活動」の「両者の関係の継続や深まりを意図的に支援する社協(職員)の営みが福祉教育である」(下の帯)と、捉えることが大切になってくる。福祉教育にあっては、具体的な地域課題から遊離することなく、地域福祉活動の実践にあたっても学びの機能が発揮されるように、社協としての意識的な働きかけが求められるのである。福祉教育は、福祉教育の担当者のみが実践するものではなく、全ての社協職員もしくは社協組織全体で取り組んでいく基本的かつ根源的なテーマであると言える。(4ページ)「地域福祉は、福祉教育ではじまり、福祉教育でおわる」「社協活動は、福祉教育ではじまり、福祉教育でおわる」のである。
出典:福祉教育実践研究会『福祉教育の展開と地域福祉活動の推進』(福祉教育推進のためのパンフレット)全社協・全国ボランティア活動振興センター、2008年3月、5~6ページ。
図9 福祉教育・ボランティア学習におけるリフレクション―内省から省察、そして創造へ―/2012年11月
リフレクション(reflection)研究の萌芽は、社会学者であるG.H.ミードが提唱したことによる。彼はリフレクションを「自分自身を、距離をおいて他者の立場から見ること」であるとした。内省的な反省とは違い、自分自身をあたかも他人を見るかのように捉え返すことに特徴があると言われる。サービスラーニング研究における「リフレクション」には、多くの先行研究があるが、それらを踏まえて、やや大胆にリフレクションの展開を整理するならば、「反省的思考」→「行為のなかの省察」→「批判的自己省察」→「批判的省察」→「創造的省察」という道筋である。ここでいう創造的省察とは、現時点から過去の行為をふりかえるだけではなく、近未来の自分や社会を創り出すという視点から、リフレクションをしていくことである。同時にリフレクションを通して、近未来を創り出していくという指向性を有している。(42~44ページ)
出典:原田正樹「福祉教育・ボランティア学習における創造的リフレクションの開発」『研究紀要』Vol.20、日本福祉教育・ボランティア学習学会、2012年11月、44、45ページ。なお、筆者(阪野)はとりあえず、「内省(ないせい)」は「かえりみて見直すこと」、「省察(しょうさつ)」は「ふりかえり考えめぐらすこと」と理解しておくことにする。
図10 社会的包摂にむけた福祉教育の展開/2013年3月
(1)好意的な関心をもたせる福祉教育 「無関心」→「関心」へ
「無関心」から「好意的関心」を促していくためには、漠然とした抽象的な対象理解(「障害者問題」など)ではなく、具体的な個人や地域(「その地域に居住する車椅子利用者のAさんの暮らし」など)への関心を促すことが必要である。(13ページ)
(2)「共感・当事者」を育む福祉教育 「同情」→「共感」へ
単なる「同情」から「共感」を促していくためには、「対話」を通して関係性を育みながらお互いに理解をしていくとともに、地域のなかでの意図的な「学びの場づくり」が必要である。(14ページ)
(3)包摂をめざす福祉教育 反感・コンフリクト→共存へ
「反感」「コンフリクト」(葛藤や対立)の状態から「共存」(仲良くはなれなくても排除はしない。適度な距離感を保つ)を促していくためには、反感・コンフリクトへのアセスメント(判断・評価)をして分かりあえる場をつくるとともに、アドボカシー(代弁)や通訳的な役割を担う人材の育成が必要である。(15ページ)
(4)福祉教育の展開によって当事者や地域のエンパワメントを促す
福祉教育の展開によって当事者(問題の直接の関係者)や住民、地域のそれぞれのエンパワント(主体的に問題解決を図ろうとする力の発揮と開発)、すなわち主体形成を促していくことが地域を基盤とした福祉教育の特徴であり、まさに当事者性(問題の直接的な関係者に<なる>こと)を軸とした地域福祉援助の展開である。ワーカー(コミュニティソーシャルワーカー)は地域住民の一人ひとりの意識変容を促しながら、それを地域全体に広げ、最終的には「地域の福祉力」を蓄積していく(コミュニティエンパワメント)ための働きかけが必要である。(16~17ページ)
出典:社会的課題の解決にむけた福祉教育のあり方研究会『社会的包摂にむけた福祉教育―共感を軸にした地域福祉の創造―』全社協・全国ボランティア活動振興センター、2013年3月、13~17ページ。
〇「市民福祉教育」とは、学校教育における福祉教育(学校福祉教育)と地域を基盤とした福祉教育(地域福祉教育)、そして社会福祉従事者や福祉サービス利用者に対する福祉教育について、「市民」の育成という視点・視座から、それぞれの融合を図ることを志向する教育活動である。より具体的には、「市民福祉教育とは、福祉文化の創造や福祉によるまちづくりをめざして日常的な実践や運動に取り組む主体的・自律的な市民の育成を図るための教育活動であり、その内容は、人間の尊厳と自由・平等・友愛の原理に立って、平和・民主主義・人権と、自立・共生・自治の思想のもとに構成され、その実践では、歴史的・社会的存在としての地域の社会福祉問題を素材にし、課題解決のための体験学習と共働活動を方法上の特質とする」と概念規定できる。
〇以下に、「市民福祉教育」と「市民活動」に関する概念図(拙図)を記すことにする。前者(図11)については、例えば、「福祉文化」と「共働」に関して、前述の「『社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会』報告書」(図3)から次の一節を想起しておきたい。「福祉文化の創造/社会福祉が人々の生活にかかわるものであることから、人々の生活の拠点である地域社会において、いわゆる『官』と『民』が<共働>してその推進を図る必要があり、新しい『公』の創造を提言した所以でもある。また、社会福祉が人々の生活にかかわるうえで、その人の尊厳を守り、生き方を尊重することが必要であることはいうまでもない。これらのことは、狭い意味での社会福祉の課題にとどまるものではないことから、このようなことに立脚した<福祉文化>が創造され、わが国の中に定着していくことが必要であろう」(10ページ。山括弧は筆者)。
〇後者(図12)に関して言えば、「市民福祉教育」は、その地域に居住する「一般住民」(一般住民という住民はいない)や「地域住民」と呼ばれる「住民」を福祉によるまちづくりの活動や運動に「参加」(林義樹:「参集」→「参与」→「参画」)する「市民」に育てる意図的な教育活動である。そして、まちづくりは「私」からはじまる。
図11 教育・福祉教育・市民福祉教育の関連図/2013年9月
教育は、一般的・基本的には、次の3つの視点から捉えることができる(概念図中の下段の表示)。(1)教育は、人間の「生命」すなわち「生きる力」の育成と向上を図るための活動である。その際の生きる力とは、社会的存在としての自分を、豊かな人間性と他者との相互行為のもとに主体的・自律的に築きあげていくための資質や能力のことをいう。(2)人間が生まれ、生命を終えるまで生き続けること、それは生活することである。教育は、この日常の「生活」における実際的で具体的な「活動」すなわち生活経験を通して、またそれとの関連において現実社会について学ぶための活動である。その生活経験の過程で、知識や技能が獲得され、また活用されることになる。(3)教育は、人間の「生涯」にわたる社会「参加」に基づく成長・発達のための活動である。教育の使命は、生活への準備としてのものから生涯にわたって継続するものへと変化している。要するに、「生命」「生活」「生涯」すなわちライフ(Life)は、人間の成長・発達の過程であり、それはまた教育の過程であるといえる。
出典:「市民福祉教育の定義と概念図」『本ブログ/ディスカッションルーム』2013年9月2日投稿。
図12 市民活動の4要素/2018年2月
「活動」は、お金を得るためにやる「労働」ではなく、モノとして残る価値をつくるための「仕事」でもなく、自ら主体的にやりたいと感じ、そこに他者が何らかの価値を見出せる行為をいう。「労働」や「仕事」ではなく、「活動」に重きが置かれてこそ、豊かな社会はつくられる(ハンナ・アレント)。「市民」は、「活動」する人たち、もしくは「活動」する意識を持った人たちをいう。広い意味で「一般の人」という場合は「住民」という言葉を使うことにしたい。その上で、地域をよくするための心理的介入を定義すると、それは「住民」を「市民」に変えていく活動ということになろう。(61~62ページ)
出典:山崎亮『縮充する日本―「参加」が創り出す人口減少社会の希望―』PHP研究所、2016年11月、145ページの図「活動の原動力となる3つの輪」を参考に筆者が作成した。山崎の言説を援用すれば、「4つの輪が重なるところに、縮充の時代に求められる『参加』のヒントがある」(146ページ)ということになろうか。なお、山崎の図に似たものに、永井美佳「市民活動の事業化」大阪ボランティア協会編『テキスト 市民活動論―ボランティア・NPOの実践から学ぶ―』大阪ボランティア協会、2011年9月、77ページの図「企画立案の3要素」がある。
(注)以上、2021年2月17日一部修正(以下の図3・6・7・9・12の横に表示されていた文章を削除)。
(注)以下、2021年2月18日修正(図の解像度を考慮して、2018年2月7日投稿の文章をそのまま表示)。
〇筆者(阪野)はかつて、学生に対して、論文を書くにあたっては思考の枠組みと構造に対応させて、「書くべきこと」と「書きたいこと」を峻別し、その関係性を重視しながら「簡潔明瞭」に書くことを求めてきた。しかも、論述の内容や関係性を視覚化した「概念図」の作成を勧めた。“言うは易し行うは難し”であることを承知のうえで、「この章や節で書いていることをひとつの図で示すとどうなりますか」「文章を因数分解し、それを再構成して簡便な図を描いてみて下さい」というふうにである。それは、訴求効果を高めるだけでなく、その作業を通して思考と論理の体系化・構造化や拡大・深化を期待するがゆえである。
〇本稿では、福祉教育に関するいくつかの概念図のうちから、筆者が再認識したい基本的なものを10点選択し、それに筆者が作成した2点を加えて一覧にまとめ、各図の説述文の一節を紹介することにする(抜き書きと要約)。
図1 ボランティア活動の構造/1980年7月
ボランティア活動には、①地域の連帯力・教育力を取り戻し、再創造していくための地域づくりのボランティア活動、②地域に住んでいる自立困難な人を疎外することなく、必要な個別援助を提供し、地域の福祉を支える力となるボランティア活動、③どのような街をつくるのか、障害者や高齢者と共に生きる街をどうつくるのか、という地域福祉の街づくり計画をすすめるボランティア活動、という3つの機能がある。その3つの機能は個人のなかに有機化して内包されている場合もあれば、そうでない場合もあろう。しかし、少なくとも3つの機能は図1のように構造化され、個人もしくはグループあるいは地域のなかに有機的連携をもって存在し、統合した力を発揮できるようになっていることが必要であろう。(55ページ)
出典:大橋謙策『地域福祉の展開と福祉教育』全社協、1986年9月、56ページ。初出は、全社協・ボランティア基本問題研究委員会「ボランティアの基本理念とボランティアセンターの役割―ボランティア活動のあり方とその推進の方向―」1980年7月、である。
図2 “福祉のいとなみ”の各局面に対応した福祉教育の課題/1981年11月
いま一度、“国民の社会福祉への関心と参加の促進”という福祉教育の出発点に立ちかえり、その根底にある教育課題を整理し直してみる必要がある。あちこちから発せられた“課題”群を有機的に関連づけ、福祉教育の理念を構造化する必要がある。そこで、“福祉のいとなみ”、そのあるべき姿、あり方をまずその構成分子にまで分解し、その上で全体構造を描いてみるとともに、その構成分子の一つ一つが要求する教育課題を見い出すという方法を試みた。要するに、“福祉のいとなみ”と、教育課題の両者を分解し、相互に関連する同士を結合した上で、再び全体を俯瞰するという工程を経て、より明確な福祉教育像を見い出そうとしたのである。図2はその作業をまとめたものである。“福祉のいとなみ”と教育課題のかかわり合いの中に“福祉人”(期待される福祉活動を正しく担いうる人間像)の要件が浮かび上がってくる。(9ページ)
出典:全社協・福祉教育研究委員会「福祉教育の理念と実践の構造―福祉教育のあり方とその推進を考える―」(福祉教育研究委員会中間報告)全社協・全国ボランティア活動振興センター、1981年11月、10ページ。
現代社会においては、人間の関係性(「つながり」)を重視し、「ソーシャル・インクルージョン」の理念を進める必要がある。従来の社会福祉は主たる対象を「貧困」としてきたが、現代においては、①「心身の障害・不安」(社会的ストレス問題、アルコール依存、等)、②「社会的排除や摩擦」(路上死、中国残留孤児、外国人の排除や摩擦、等)、③「社会的孤立や孤独」(孤独死、自殺、家庭内の虐待・暴力、等)といった問題が重複・複合化しており、こうした新しい座標軸をあわせて検討する必要がある。図3の横軸は、貧困と心身の障害・不安に基づく問題を示すが、縦軸はこれを現代社会との関連で見た問題性を示したものである。なお、各問題は、相互に関連しあっているとともに、社会的排除や孤立の強いものほど制度からも漏れやすく、福祉的支援が緊急に必要である。(2、3ページ、「別紙」)。
出典:厚生省社会・援護局「『社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会』報告書」2000年12月、「別紙」。
図4 ICFの構成要素間の相互作用/2001年5月
障害に関する国際的な分類としては、これまで、世界保健機関(以下「WHO」)が1980年に「国際疾病分類(ICD)」の補助として発表した「WHO国際障害分類(ICIDH)」が用いられてきた。WHOでは、2001年5月の第54回総会において、その改訂版として「ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)」を採択した。ICIDHは、「障害分類」(「病気/変調」→「機能障害」→「能力障害(能力低下)」→「社会的不利」)として、「障害」のマイナス面を分類するという考え方が中心であった。それに対して、ICFは、「生活機能」というプラス面からみるように視点を転換し、さらに「背景要因」の観点を加えた。「生活機能」は「心身機能・身体構造」「活動」「参加」、「背景要因」は「環境因子」「個人因子」から構成されている。この考え方は、障がい者はもとより、すべての人々の生活活動(仕事、家事、学習・文化・スポーツ活動など)に関する保健・医療・福祉サービスや社会システムなどのあり方の方向性を示唆している。
出典:厚生労働省ホームページ参照。
図5 福祉教育とボランティア学習の構造イメージ/2003年1月
福祉教育とボランティア学習は、双方とも、人権尊重・異文化理解をべースに、共生社会・福祉社会の創造を大目標にかかげる実践である。しかし、総体としてとらえると、学習素材・期待される成果・手法において若干の違いがある。福祉教育は、「社会福祉問題や福祉現場とのつながり」を起点とする。それに対してボランティア学習は、かならずしも社会福祉領域に限らず、より広く、「社会的問題や市民活動とのつながり」を大事にする実践である。また、福祉教育は、より制度的かつ切迫的な現実課題に応えることが期待される実践である。このことから、福祉教育は、ボランティア学習に比べて、よりカリキュラムとして制度化しやすい体質をもっているともいえる。現在、福祉教育とボランティア学習は、ともすると、異なる文脈で実際の教育現場に導入されているが、両者の特徴を総合することが求められている。理念的にも、福祉教育とボランティア学習は相補う関係にある。(36~38ページ)
出典:地域を基盤とした福祉教育・学習活動の推進方策に関する研究開発委員会編『福祉教育ハンドブック』全社協、2003年1月、39ページ。
図6 共生に関する分析枠組 ―理論上のアイデンティティ類型―/2003年3月
社会福祉領域における共生が、差別の克服を課題としているならば、その前提は、マイノリティ(少数者・派)とマジョリティ(多数者・派)の両方を含む、全ての人々の異質性の尊重に他ならない。共生は、マジョリティがマイノリティを同化や統合することではなく、また、マジョリティがマイノリティに譲歩や優遇措置をとることでもない。マイノリティ、マジョリティのいずれもが特権を持たず、対等な立場に立つことが基礎条件である。その上で、異質性との対峙によって生じる衝突や葛藤を強調するだけでなく、相互の認識・理解を通じて、尊重し合い、変容し合うことが求められる。図6は、人々の多様なアイデンティティの状況を把握するための全体的な見取り図(基礎モデル)である。縦軸の変数として「マジョリティ文化への志向」の度合いを取り、横軸の変数として「マイノリティ文化への志向」の度合いを取っている。各象限のタイプは、あくまでもアイデンティティを分析し、共生へのプロセスを検討するために構成したものであり、抽象的な類型である。そのため、実在する人々が、各タイプの特徴と厳密に一致するわけではない。(51、52~53ページ)
出典:寺田貴美代「社会福祉と共生」園田恭一編『社会福祉とコミュニティ―共生・共同・ネットワーク―』東信堂、2003年3月、52ページ。
社協の使命は、「地域福祉の推進」である。そして、その主人公は「地域住民」である。社協は「住民主体の原則」を掲げ、住民自身の学びと地域福祉活動の実践を継続的に支援してきた。地域住民が地域福祉を担っていくためには、住民自身が地域の様々な課題に気付き、その解決に向けて自ら取り組んでいく手法を学んでいく、という気づきと学びのプロセスが重要である。そのことを通して、地域課題に取り組む力量を培った住民の層を厚くしていくことが、社協の使命の遂行に直結していくことになる。したがって、社協職員はあらゆる事業をすすめる際に、福祉教育の重要性を意識し、地域住民が主体的に問題解決にむけて働きかけていけるような事業の企画とプログラム展開を考えていく必要がある。 図7は、社協事業における福祉教育の位置づけを示したものである。社協の使命達成のために、福祉教育はなくてはならない実践なのである。(2ページ)。
出典:福祉教育実践研究会『福祉教育の展開と地域福祉活動の推進』(福祉教育推進のためのパンフレット)全社協・全国ボランティア活動振興センター、2008年3月、3ページ。
図8 地域を基盤とした福祉教育の展開と地域福祉活動の推進/2008年3月
図8は、「地域の中での福祉の学び」と「地域福祉活動」の関係を示したものである。(上・下図ともに)上下2つの帯があるが、上の帯は、「個々の住民に着目した、学びと活動実践のプロセス」を示している。地域課題に気づき学ぶことを重視した部分は、より「福祉の学び」( 福祉教育)の性格が濃く、課題解決を重視した実践の部分は「地域福祉活動」としての性格が濃い、ということができる。そして、福祉教育としての機能も地域福祉活動としての性格も、多少の違いはあっても、本来、決して一方が全く失われるという関係ではないとも考えられる。しかし、「学び」と「活動」との関係を重視して、常によりよい相互作用を意識して取り組まなければ、それぞれが形骸化してしまうおそれもある。そう考えると、「福祉の学び」と「地域福祉活動」の「両者の関係の継続や深まりを意図的に支援する社協(職員)の営みが福祉教育である」(下の帯)と、捉えることが大切になってくる。福祉教育にあっては、具体的な地域課題から遊離することなく、地域福祉活動の実践にあたっても学びの機能が発揮されるように、社協としての意識的な働きかけが求められるのである。福祉教育は、福祉教育の担当者のみが実践するものではなく、全ての社協職員もしくは社協組織全体で取り組んでいく基本的かつ根源的なテーマであると言える。(4ページ)「地域福祉は、福祉教育ではじまり、福祉教育でおわる」「社協活動は、福祉教育ではじまり、福祉教育でおわる」のである。
出典:福祉教育実践研究会『福祉教育の展開と地域福祉活動の推進』(福祉教育推進のためのパンフレット)全社協・全国ボランティア活動振興センター、2008年3月、5~6ページ。
図9 福祉教育・ボランティア学習におけるリフレクション―内省から省察、そして創造へ―/2012年11月
リフレクション(reflection)研究の萌芽は、社会学者であるG.H.ミードが提唱したことによる。彼はリフレクションを「自分自身を、距離をおいて他者の立場から見ること」であるとした。内省的な反省とは違い、自分自身をあたかも他人を見るかのように捉え返すことに特徴があると言われる。サービスラーニング研究における「リフレクション」には、多くの先行研究があるが、それらを踏まえて、やや大胆にリフレクションの展開を整理するならば、「反省的思考」→「行為のなかの省察」→「批判的自己省察」→「批判的省察」→「創造的省察」という道筋である。ここでいう創造的省察とは、現時点から過去の行為をふりかえるだけではなく、近未来の自分や社会を創り出すという視点から、リフレクションをしていくことである。同時にリフレクションを通して、近未来を創り出していくという指向性を有している。(42~44ページ)
出典:原田正樹「福祉教育・ボランティア学習における創造的リフレクションの開発」『研究紀要』Vol.20、日本福祉教育・ボランティア学習学会、2012年11月、44、45ページ。なお、筆者(阪野)はとりあえず、「内省(ないせい)」は「かえりみて見直すこと」、「省察(しょうさつ)」は「ふりかえり考えめぐらすこと」と理解しておくことにする。
図10 社会的包摂にむけた福祉教育の展開/2013年3月
(1)好意的な関心をもたせる福祉教育 「無関心」→「関心」へ
「無関心」から「好意的関心」を促していくためには、漠然とした抽象的な対象理解(「障害者問題」など)ではなく、具体的な個人や地域(「その地域に居住する車椅子利用者のAさんの暮らし」など)への関心を促すことが必要である。(13ページ)
(2)「共感・当事者」を育む福祉教育 「同情」→「共感」へ
単なる「同情」から「共感」を促していくためには、「対話」を通して関係性を育みながらお互いに理解をしていくとともに、地域のなかでの意図的な「学びの場づくり」が必要である。(14ページ)
(3)包摂をめざす福祉教育 反感・コンフリクト→共存へ
「反感」「コンフリクト」(葛藤や対立)の状態から「共存」(仲良くはなれなくても排除はしない。適度な距離感を保つ)を促していくためには、反感・コンフリクトへのアセスメント(判断・評価)をして分かりあえる場をつくるとともに、アドボカシー(代弁)や通訳的な役割を担う人材の育成が必要である。(15ページ)
(4)福祉教育の展開によって当事者や地域のエンパワメントを促す
福祉教育の展開によって当事者(問題の直接の関係者)や住民、地域のそれぞれのエンパワント(主体的に問題解決を図ろうとする力の発揮と開発)、すなわち主体形成を促していくことが地域を基盤とした福祉教育の特徴であり、まさに当事者性(問題の直接的な関係者に<なる>こと)を軸とした地域福祉援助の展開である。ワーカー(コミュニティソーシャルワーカー)は地域住民の一人ひとりの意識変容を促しながら、それを地域全体に広げ、最終的には「地域の福祉力」を蓄積していく(コミュニティエンパワメント)ための働きかけが必要である。(16~17ページ)
出典:社会的課題の解決にむけた福祉教育のあり方研究会『社会的包摂にむけた福祉教育―共感を軸にした地域福祉の創造―』全社協・全国ボランティア活動振興センター、2013年3月、13~17ページ。
〇「市民福祉教育」とは、学校教育における福祉教育(学校福祉教育)と地域を基盤とした福祉教育(地域福祉教育)、そして社会福祉従事者や福祉サービス利用者に対する福祉教育について、「市民」の育成という視点・視座から、それぞれの融合を図ることを志向する教育活動である。より具体的には、「市民福祉教育とは、福祉文化の創造や福祉によるまちづくりをめざして日常的な実践や運動に取り組む主体的・自律的な市民の育成を図るための教育活動であり、その内容は、人間の尊厳と自由・平等・友愛の原理に立って、平和・民主主義・人権と、自立・共生・自治の思想のもとに構成され、その実践では、歴史的・社会的存在としての地域の社会福祉問題を素材にし、課題解決のための体験学習と共働活動を方法上の特質とする」と概念規定できる。
〇以下に、「市民福祉教育」と「市民活動」に関する概念図(拙図)を記すことにする。前者(図11)については、例えば、「福祉文化」と「共働」に関して、前述の「『社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会』報告書」(図3)から次の一節を想起しておきたい。「福祉文化の創造/社会福祉が人々の生活にかかわるものであることから、人々の生活の拠点である地域社会において、いわゆる『官』と『民』が<共働>してその推進を図る必要があり、新しい『公』の創造を提言した所以でもある。また、社会福祉が人々の生活にかかわるうえで、その人の尊厳を守り、生き方を尊重することが必要であることはいうまでもない。これらのことは、狭い意味での社会福祉の課題にとどまるものではないことから、このようなことに立脚した<福祉文化>が創造され、わが国の中に定着していくことが必要であろう」(10ページ。山括弧は筆者)。
〇後者(図12)に関して言えば、「市民福祉教育」は、その地域に居住する「一般住民」(一般住民という住民はいない)や「地域住民」と呼ばれる「住民」を福祉によるまちづくりの活動や運動に「参加」(林義樹:「参集」→「参与」→「参画」)する「市民」に育てる意図的な教育活動である。そして、まちづくりは「私」からはじまる。
図11 教育・福祉教育・市民福祉教育の関連図/2013年9月
教育は、一般的・基本的には、次の3つの視点から捉えることができる(概念図中の下段の表示)。(1)教育は、人間の「生命」すなわち「生きる力」の育成と向上を図るための活動である。その際の生きる力とは、社会的存在としての自分を、豊かな人間性と他者との相互行為のもとに主体的・自律的に築きあげていくための資質や能力のことをいう。(2)人間が生まれ、生命を終えるまで生き続けること、それは生活することである。教育は、この日常の「生活」における実際的で具体的な「活動」すなわち生活経験を通して、またそれとの関連において現実社会について学ぶための活動である。その生活経験の過程で、知識や技能が獲得され、また活用されることになる。(3)教育は、人間の「生涯」にわたる社会「参加」に基づく成長・発達のための活動である。教育の使命は、生活への準備としてのものから生涯にわたって継続するものへと変化している。要するに、「生命」「生活」「生涯」すなわちライフ(Life)は、人間の成長・発達の過程であり、それはまた教育の過程であるといえる。
出典:「市民福祉教育の定義と概念図」『本ブログ/ディスカッションルーム』2013年9月2日投稿。
「活動」は、お金を得るためにやる「労働」ではなく、モノとして残る価値をつくるための「仕事」でもなく、自ら主体的にやりたいと感じ、そこに他者が何らかの価値を見出せる行為をいう。「労働」や「仕事」ではなく、「活動」に重きが置かれてこそ、豊かな社会はつくられる(ハンナ・アレント)。「市民」は、「活動」する人たち、もしくは「活動」する意識を持った人たちをいう。広い意味で「一般の人」という場合は「住民」という言葉を使うことにしたい。その上で、地域をよくするための心理的介入を定義すると、それは「住民」を「市民」に変えていく活動ということになろう。(61~62ページ)
出典:山崎亮『縮充する日本―「参加」が創り出す人口減少社会の希望―』PHP研究所、2016年11月、145ページの図「活動の原動力となる3つの輪」を参考に筆者が作成した。山崎の言説を援用すれば、「4つの輪が重なるところに、縮充の時代に求められる『参加』のヒントがある」(146ページ)ということになろうか。なお、山崎の図に似たものに、永井美佳「市民活動の事業化」大阪ボランティア協会編『テキスト 市民活動論―ボランティア・NPOの実践から学ぶ―』大阪ボランティア協会、2011年9月、77ページの図「企画立案の3要素」がある。