民のために

いまどきのこと。ジパングという国に、民の声を聞き流すことに長けた男がいたそうな。黄金の固まりなんて怪しいものには目もくれず、周りに忖度(そんたく)されても、妻と二人清廉潔白(せいれんけっぱく)であると動じることもない。ただひたすらこの国と民のために尽くすのが大義であると、壮言大語(そうげんたいご)していたそうな。
男が長くその地位に留まったのは、幸いなるかな妄信的な取り巻きたちが、大勢いたそうな。自分の首がつながることしか考えない無能な輩(やから)は、選挙のたびに男に忠誠を誓う。その見返りに、自分らで決めた約束を反故(ほご)にして、男をその地位に居座りさせた。計算高い男は、したり顔をしたそうな。
あるとき、年金では老後は暮らせないと、役人が発表したら、男は「大バカ者が」と烈火の如く怒り、傍輩(ほうばい)がそんなものはないものとして葬ったそうな。
さてさて、民主主義という名の下に多数決を乱用し、好き勝手に法律を作っては得意顔の男の魂胆(こんたん)を見抜いた民は、すっかり愛想を尽かしてしまって、「またか」と慣れきってしまった。民はしらけて、選挙の投票にさえ行かず、自らの首を絞めた。
よって、世界の至宝「憲法第九条」を、戦争可能な条文に変えようと企む政(まつりごと)に、男とその同類たちがぞろぞろ集まり生きるジパングは、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界となる。
権力に取り憑(つ)かれた者たちが、「民のために」と唱えるたびに、身の毛もよだつ国となったそうな。

〔2019年7月22日。参議院議員選挙開票後の朝〕