見限られた8割の民たち

参議院選挙後の空虚感(くうきょかん)は どこからきているのか
民意を得たと 党首は 満面に笑みを浮かべて テレビで国民に報告する
問題を常に先送りし ご都合主義に凝り固まった 権力者の虚勢(きょせい)
投票率48.8% 戦後2番目の低率
棄権(きけん)した民が 国民の半数以上
棄権は 「政権への同意」と読み替えられ 勝利宣言の根拠となった
取り返しのつかない 愚弄(ぐろう)を冒(おか)した民たちが
うつろな目をして 画面を垂れ流す

政敵を罵倒(ばとう)する 街頭演説の姿は 
口汚いどなたかにあやかり 勝利を確信
当選した議員の数だけ競う 中身のない政策論争
政敵が負けたのは したたかな策略を弄(ろう)しなかっただけ
「憲法改正」という 民の関心の薄いテーマを掲げ 
投票場への足を遠ざけた 見事な戦略に 感服(かんぷく)の至り
結果 承認されたと豪語する 傲慢(ごうまん)さを 甘受(かんじゅ)する民たち

民意を得たという その確信は どこからきているか
有権者全体に対する 絶対得票率は 2割を切る
権力者が 選挙に勝つ条件は ただ一つ 
善良な民が 何もしないこと
残りの8割の民意は 反映されず 切り捨てられていくだけ
政権の相手は 支持してくれた2割の国民の欲求を満たすだけ
「棄権」のリスクを 熟考(じゅっこう)することなく 
子どもらに 未来を託す社会づくりの責務を放棄した 5割強の民たち
これからの人生への覚悟が 問われるのだ

その子どもらも 民の背を見て 自らの選挙権を 見事に放棄する
18歳は34%、19歳は28%の投票率
3年前の参議院選に備えて 文科省は全高校生に副教材を配布した
15年度に 主権者教育を実施したのは 94%
その実態は 皆目(かいもく)わからない
ただ 選挙の説明が「あった」と答えた高校生は 半数の51%
善良な教師たちは 文科省から配布された副教材を 配るだけ
政治的中立の確保に 悩みながらも 
結果 体制におもねいた 教師たち
子どもたちの 政治への無関心を ことさら強め助長する

多数決を絶対化してゆく 議会制民主主義の終焉(しゅうえん)
墓場化してゆく 議論不毛な国会議事堂
そこに蠢(うごめ)く者たちの 陣取り劇場
飽きもせずだらだらと 攻防を繰り返すだけの 低次元のマンネリ劇場
議員特権に固執(こしゅう)する者には 世間をあざといながら生きながらえる 甘美(かんび)劇場

さて 民に選ばれし者たちよ
くれぐれも 油断めさるな
栄華(えいが)は 常に凋落(ちょうらく)の憂き目にあうのが 世の習い
民を侮(あなど)ると 痛い目にきっとあうと 
議員先生 肝に銘じておかれますように

力のある民よ 
贔屓(ひいき)の者が 間違えを起こしたり 偉そうに振る舞ったりしたら 
躊躇(ちゅうちょ)なく お灸(きゅう)をすえてください
えっ できない?
「損得勘定するから… 少し待ってんか?!」

〔2019年7月28日書き下ろし。毎日新聞社説に触発されて〕

付記
「18、19歳の投票率31% 主権者教育の立て直しを」
これもまた深刻な数字である。
先の参院選での18、19歳の投票率(選挙区、速報値)は31%にとどまり、全体の投票率(48%)より約17ポイントも低かったことが分かった。
投票年齢が18歳に引き下げられて4年目。若者の政治への関心を高めるため、高校では政治の仕組みや投票の仕方などを学ぶ主権者教育が始まっているが、早くもおざなりになっていないだろうか。
総務省によると18、19歳の今回の投票率は、18歳選挙権導入後、初の国政選挙となった2016年の参院選と比べて15ポイントも減った。18歳は34%で、19歳は28%まで落ち込んだ。
投票権を得た最初の機会に投票に行かないと、その後もずっと棄権してしまう人が少なくないという。学校で政治を学ぶのは、そんな流れを食い止める狙いがあったはずだ。
文部科学省は公立、私立全ての高校生に主権者教育用の副教材を配布している。3年前の参院選に備え15年度に主権者教育を実施した高校は94%だったと同省は発表している。ところが「明るい選挙推進協会」が、その時点で高校生だった若者にアンケート調査したところ、「授業などで選挙について説明があった」と答えた人は51%だった。模擬投票の実施など積極的に取り組む高校は確かに増えたが、副教材を配るだけといった高校も多いとみられる。
3年前の参院選では東京都などで18歳の投票率が全体の平均を上回った。学校や自治体の取り組み次第で若者の投票率は大きく変わると関係者は口をそろえる。
18歳より19歳が低い状況も変わらない。高校を卒業し、大学進学などで引っ越しても住民票を移さない若者が多いのが大きな要因だ。大学生も4年間生活する自治体に住民票を移すのが原則だということをさらに周知させるべきだろう。
授業の中で「政治的中立」をどう確保するか。依然として悩み、二の足を踏む教師も多い。安倍晋三政権は今、主権者教育より、保守的な価値観を重視するような道徳教育に力を入れているようだ。
だが何のために投票するのか、民主政治の大切さを学び、生徒一人一人が考えて意見を交わすのが主権者教育の原点だ。政府は現状を把握して早急に立て直す必要がある。
(2019年7月28日。毎日新聞/デジタル毎日/社説)