子どもの遊び心とこっちょ

突然 男の子が 校長室の窓ガラスをノックする
「こっちょ 入っていい?」
「どうぞ!」
窓を開けると 這い上ってきて 窓枠に外靴を脱ぎ
そこから床に ドーンと飛び降りる
それが ことの始まりだった

北国の校舎は 雪が積もるので
地面から窓まで 結構高い
その高さに挑んで 子どもたちは よじ登ってくる
小さな子が這い上がってくるときは 下で高学年の子が持ち上げる

入りたくても 介添えなしでは よじ登れない子が
悔しそうに 下から窓を見上げる
校長室の窓の下に 白い五段の階段を つくってもらった
だれもが 自由に出入りできるようになった
放課後 こっちょの部屋は いつも子どもたちで溢れた

大雨の朝 六年生のモモが 傘をさして 窓の外に立っていた
開けると ビシャビシャに濡れた体で 勢いよく飛び降りてきた
傘からのしずくと体からのしずくが 辺り一面に散った
「おはよう」という言葉を残し モモは長靴を持って教室に向かった
後始末の雑巾は ビショビショに 重くなった

中休み モモがやってきた
「どうして 土砂降りの中 入ってきたんだ?」
「だって 突然そうしたかったから」
子どもは 理由(わけ)もなく したいと思った瞬間 行動する
おとなは 理由(わけ)を知りたがる
頭脳明晰(ずのうめいせき) 自由奔放(じゆうほんぽう)なモモを前にして
知的好奇心を放棄した
そのままを受けとめる 受け入れることを 学んだ
『子どもは 行動した瞬間 個性化する』

こっちょの部屋は 千客万来(せんきゃくばんらい)
突然子どもが窓から現れ 驚くゲスト
気心知れた新聞記者には 絶対記事にしないよう口止めする
おとなのつまらない干渉で 子どもの楽しみを奪われてはかなわない
おとなは 理由(わけ)を知りたがる
「窓は その下に階段を設けたことで “ベランダ”に なっただけ」

こっちゃは去り ただの校長に 替わった
階段は 取り払われ
旧(もと)の木阿弥(もくあみ)となった

〔2019年8月1日。『子どもと学ぶボランティア』鳥居一頼著/2008年5月5日発行/大阪ボランティア協会刊/p13~17参照〕