ハンセン病と分かり、子どもに明日から学校に来るなと宣告する教師と石を投げる級友。
そして、なぜ? という疑問を抱えながら、途方に暮れる患者である私。
子どもは学校から追放され、その子の学び生きる権利を剥奪された。
東京多磨全生園で出逢った当事者から直接話を伺い、「ハンセン病問題を授業するテキスト」をつくるきっかけとなったエピソードである。
テキスト『おまえ、もう学校に来るな!』(2013年10月1日発行/ボランティア北海道はまなすの会刊/「ハンセン病問題を核にした人権教育啓発テキスト作成委員会」編集委員長手嶋和之)の編集に、委員として参画して、第2部「エピソードを教材化する」の執筆を担った、その一編「学校を追われる」を、広く問う。
・ この事実を知って、どのようなことを感じ考え疑問に、思いましたか?
・ 子どもを守るべき教師が、子どもを教室から、なぜ追放したのですか?
・ そこでは、子どものどんな権利が、侵害されたのでしょうか?
・ 学校を追い出された、子どものこころの痛み、その後の人生について、想像しましょう。
ロールプレーイング : 「学校を追われる」
教師「お前は、明日から学校に来なくてもいい!」
子ども「(いぶかるように)えっつ、どうして?」
教師「(突き放して)ともかくもう家に帰れ! 親がその理由を教えてくれる」
子ども「(語気を強めて拒絶する)いやだ! 俺、何にも悪いことはしていないよ」
教師「(追い払うように)うるさい! さっさとカバンを持って教室から出て行け」
ナレーション(子どもの心の声): 級友も鳩が豆てっぽうを食らったように、きょとんとしている。私は教師に、強制的に教室の外に追い出された。
子ども「(悲しげに)先生、どうして…」
ナレーション: 放課後私は、校庭に立っていた。何人かの級友が遠巻きに見ていた。
その一人が、突然私に向かって石を投げた。周りの子は、それに続いた。
級友①「学校に来るな、帰れ!」
級友②「帰れ! 帰れ!」(他の子も連呼する)
ナレーション: 校舎の職員室の窓から、数人の先生がその様子を見ていた。誰も石を投げる子に注意することもなく、いつの間にかその姿は消えていた。翌日、それでも学校に行った。自分の席に机と椅子はなかった。心が凍り付く。
級友①「(とがめるように)なんで、のこのこ学校にきたんだよ、帰れ!」
ナレーション: 級友の糾弾(きゅうだん)は情け容赦なく、こころを突き刺す。だが、絞り出すような声で、弱々しく尋ねる。
子ども「俺の机、どうしたんだ?」
級友②「(冷ややかに)先生が昨日、お前の机も椅子も燃やしていたよ」
子ども「なんで? なんでそんなこと…」
級友②「だってお前、学校に来るなって言われたんだろう。何で来るんだよ。また先生に叱られるぞ!」
級友①「帰れ! 帰れ!」
ナレーション: クラスにいる子が連呼の輪に加わり、「帰れ」コールが教室に充満する。嘲(あざけ)るように、早く出て行けとばかり級友の非難を全身に浴びる子ども。先生が騒然とした空気の教室に来る。私を見つけて、突然怒り出す。
教師「(怒鳴るように)どうして学校に来た! 早く学校から出て行け。二度と来るな!」
ナレーション: こうして私は、学校から追い出された。小学校6年生の2月のことだった。
〔2019年8月4日。『おまえ、もう学校に来るな!』24~25ページ加除訂正〕