二十五万円と銀婚式

十九歳の娘が バイトで二十五万円を貯めた
父は お前のバイト分は出してやるからやめろ という
叱られて 悔しくて でもやめずにバイトした

父が 娘の行動を干渉することは 稀だった
いつも 遠くから見守っていた
だから 娘は 親の引いたレールを歩くこともなく 
自分なりに自分らしく 人生の寄り道や道草を楽しんだ
ハラハラドキドキ 心配をかけても 
娘を信じてくれた 父や母のおかげだと いまさらながらに思う
だから 人の痛みのわかる人間になれるならば 
自信を持って 二人には誇りに思える子だと 娘は思う

二十五万円を 手紙とともに 父に手渡した
母に 青春を と思い立ち 
高校卒業後から バイトを始めて 貯め続けたお金
母は 義母の介護に 一生懸命だった
その後ろ姿を見ながら 育った娘は 
生き方や行動で 安心させるのが 一番のプレゼントかもしれないけれど 
今青春の真っ只中で いろんなことを吸収したい いろんなことに挑戦してみたい
そんなときだからこそ 母への感謝をいっぱい込めて 一年以上も頑張ったプレゼント

銀婚式には まだ一年早いけど お母さんの行きたいところに連れて行って
おばあちゃんのお世話は 娘二人で大丈夫!
だから お父さん 忙しいだろうけど 一週間夏休みを取って
旅行代足りなかったら お父さん出してね
お母さんにも妹にも お金のことは内緒だよ

父は 実母の葬儀の後 親しい親類が集まったところに 
家の金庫の中から 愛おしそうに 手紙を出してきた。
バイトをやめろと叱った娘に 人の道を教えられた
福祉の仕事を 生業としてきた父には 
娘のような 気高い純粋なおもいをもって 生きてきたのかを 
ストレートに 問われた手紙とお金だった
父と母には 何ものにも代え難い 自慢の娘であった

それから三十年 いまだ福祉の世界で 娘から投げかけられた問いを 
父は 生涯をかけて 追い求める
娘から贈られた「こころのときめき」は 決して失うことはない

〔2019年6月6日。恩師の逸話から。今日、8月15日は敗戦記念日。気高き若者たちに不戦を誓う日〕