春夏秋冬~商店街編

寂(さび)れていく商店街の シャッターに
アートだかなんだか 若い者がやってきて 書き殴って行った
まちおこしにも ならんかった ただのいたずら書き

それから 何度目の春を数えたろうか
下駄屋のおっちゃんは 
シャッターのおりた家の奥で いまはひとりで暮らす
軒下まで積もった雪も ようやく融けて
窓に陽ざしが 差し込むようになったある日
様子を見に 伺(うかが)った
茶の間一部屋で 全てをまかなっていた
冬の間こもっていたので 体調がいまいちだという
病院に付き添う約束をして お暇(いとま)した

玄関の前の小さな庭に 向日葵(ひまわり)が咲いていた
縁台に座って 紫煙(しえん)をくゆらす
弁当の来るのを 待っているという
つかの間のおしゃべり 体調はいいという
配食ボランティアが やってきた
ご苦労さんと受け取って ひとり家に入った

氏神さまの 秋祭り
商店街の通りには まばらに花飾りが揺れる
店主はみんな年をとったが 店はなんとかあけている
下駄屋のおっちゃんは 長く祭典の役員をやっていた
宵宮(よいみや) 神社の階段で転び 足を骨折した
見舞いに 行った
長い入院はままならず 数日で退院
ギブスをしたまま 家に戻された
商店街の仲間の 助けを借りて
秋も深まったころ ようやくギブスが外れた

新しい年は 無事越せたかに 思った矢先
風邪をこじらせ 寝ていた
昼間だというのに 雪が窓を塞(ふさ)いでるせいで 薄暗い
一日中ストーブは 焚(た)きっぱなし
換気も悪く 体調が悪くなるのも もっともだ
咳もつき 熱も高い
すぐに 救急車を呼んだ
しかし 玄関口までの狭い路地に 車は入ってこられない
担架で 運ぶ
救急隊員も 厳冬期の搬送は 重労働だ
急性肺炎と診断され 今度は少し長い入院となった

主(あるじ)のいない家は 降る雪の重みに 耐えていた
主は 老いる体と仲良くしながら いまを耐えていた
民生委員の私は 一日も早い回復を祈り 春を待つ

〔2019年8月11日書き下ろし。北国の冬を越すには、老いたひとり身には厳しい。民生委員や社協マン、ボランティア、救急隊員にも厳しい仕事を強いる。現場人よ、頑張れ!〕