いい子ぶる

「ごめん」って ちゃんとあやまろう
わるいことしたんでしょう
「ごめん」って そんなあやまりかたなら
この子は 許してくれないよ
「ごめん」って そんなあやまりかたってあるの
ちゃんと頭さげて 
「ごめん」って そんななげやりな言い方あるの
ちっとも悪かったっていう気持ち伝わってこないよ
ねえ 「ごめん」って ちゃんとあやまっているから
許してあげてね
この子に もうしないって「やくそく」させるから
いつも“この子 助けてあげて”と 先生は目で訴える

おれさ 本当ははずかしいんだ
いつもさ わるさして あやまってばっかり
いいかげん じぶんでも はらが立つけど
それでも 「やっちゃった!」って
でもさ、いつもこんなふうにあやまって
許してもらうと かんたんに悪いことが 帳消しになってしまう
たまには 自分からあやまりを入れて
先生の点数稼ぎもしておかなくちゃいけないんだ
あやまるって たいしたことないんだよ
そのときだけ すこしだけがまんする
なにをって はずかしいって気持ちをさ がまんする
おれだって 笑われたらはずかしいし 
こんちくしょうって ときどき切れる

あやまって ゆるしてもらえば こっちのもんだ
またやっちゃうね
これぐらいじゃ ちっともこりないよ
おちょくるって けっこうおもしろい
あいつをおこらせて 
顔を真っ赤にしたり 泣いたり わめいたりさせるのって
ゆかいだね
だから なんどでも やってしまう
おれの楽しみのひとつを なくするわけにはいかない

おれ こんどのことだって 悪いことしたなんて これぽっちも感じていない
だから しぶしぶ あやまる 「ごめん」
それでも いままでみんな許してくれた
だから こんども大丈夫!
このくらいなら 親には告げ口されない
しんどいのは 親が知ってしまう前に
“いいわけ”を考えなきゃいけないこと
なんぼおれだって 親には“いい顔”していたいから

あんたのうそっぱっちの「ごめん」なんて もういらない
「またやる」って顔に書いてある
その目を見るのも もういや
先生も あやまればおしまいって顔しているから たよりにならない
だから さっさと済ませてしまいたい
ただそれだけ
「同じクラスの 友だちでしょう」っていわれても
ちっとも ピンとこない
きらいな人と 友だちになんかなれない
いじわるな人が 友だちっておかしいよね
大人は そんな人とは つきあわないでしょう
どうして 無理して“友だちごっこ”しなきゃいけないの

好きで同じ学年やクラスになったわけじゃない
わたしがあいつに 悪さをしたわけでもない
でも どうしてあいつの勝手気ままなわがままを がまんしなきゃいけないの
痛い目にあっても 「ごめん」の一言で どうして許さなければならないの
いつも「芝居」をさせられている気分
そこでは ものわかりのいい“いい子”になっているだけ
“いい子”にならないと わたしが“いけずな子”って思われる
おとなは 子どもの気持ちが知りたいっていうけど「無理!」
きょうもまたいやな思いをさせられても “いい子”ぶらなきゃいけない
だって そうしないと あいつと同じに見られてしまう

あいつはへらへら笑いながら こりずに同じことをしてくる
そんなの わかっていながら このくりかえし
やられたあとに あやまったって なにが変わるっていうの
いやな気持ちが その一言でふっきれて なくなってしまうとでもいうの
魔法の呪文(じゅもん)「ごめん」
もうなんの効力もない まっぴらごめん
自分の気持ちに うそつけない
もうあいつの「ごめん」なんか
こっちから「ごめん」だ

こんどやったら もう許さない
私だけじゃない あいつにやられて泣いてる子
たくさんいるんだから
ただ心配かけたくないって 
やられてもみんな口をつぐんでいるだけ
「そのくらいのこと なんでもない」
「あなたが がまんしなさい」
「いつか あの子もよくなるから」
おとなは 子どもに言い聞かせる
だけど いつになったら 正直に自分の気持ちをぶつけられるの
一度なら 「なんともない」ってふっきれるけど
何度もされたら がまんなんかできやしない
それでも おとなは さも私の痛みをわかったようなふりをしながら
「許してあげて」と やさしい声でせまってくる
その声に さからえない
でも わたしは こんなになやんで苦しんでいるんだよ
いい子だって 思われたいから
「いいよ」って 自分にうそをつく
こんなの もういやだ うんざりだ
これって わたしの悪いこころなの 
そうやって自分を責めて またいい子ぶる 
それをぬけぬけと
「あやまったから許される」なんて 単純に思い込んでいる
あいつもおとなも 許せない
そんな言葉や態度で すますことなんてできない
「いいよ」っていったけど
そうしないと なかなか帰してくれないから しかたなかった
こころの中は 怒りでいっぱい

こんどやったら もう許さない 許せない
わたしを 甘くみないで
平気な顔をしていたけれど 
おこれば あいつと同じになるからがまんした
いつまで このがまんが続くのだろう 
いやだ いやだ もういやだ
あいつの顔なんか 二度ともう見たくもない
わたしは悪くはないのに なんで“なみだ”が出てくるの
くやしい!
“なみだ”なんか見せたくない
わたし 弱虫じゃないもん

でも みんなにそう思われているあいつって 
たいへんだな
いっつも だれかに刃向かっていくエネルギー 
疲れることを知らない とほうもない反抗のエネルギー
わたしにはない 
そこはすごいと へんに感心する

でも なんであんなに こころがねじきれてしまっているのかな
ひとりぼっちに またなっちゃった
だあれも あいつのこころは わからない
だあれも あいつの苦しさは わからない
あいつが 一番自分のことが わからない 
だから よけいに苦しいのかも しれない
あいつは ああやって悪さを続けることしか
みんなの注目を集めることが できなくなった
こころもあたまも 悪さにしかまわらなくなった 

あいつを こころのかよった子にしたいという
みんなの思いは いつか むなしくしぼんでいく
いつも うらぎられるから
だから だあれも もう信じない
そして ひとりぼっちで 悲しい子になった
叫んでも だあれも こたえてくれない
だあれも もうあいつのそばにはいないから ひとりぼっち
暗闇に ぽつんと ただいるだけ
いつか みんなの記憶からも うすれていく
「あんな子 いたっけな」

そうならぬよう
あんた
すなおに 
こころから「ごめん」って
いってみて
そしたら すこしだけ 信じてあげてもいい

〔2019年8月20日改訂版。心がすさんでいく子への反発と一抹の良心への期待がにじむ〕