夏秋冬春そして夏~農家編

親父が死んで この夏で早10年
嫁も なかなか縁がなく 娶(めと)らぬまま 歳を重ねた
今では 母と二人暮らしで なんの不自由もない
心残りは 子どもがいないこと
だから 二人とも 少しあせっている
でも 出会う機会が 全くない

母は庭先に 自分のハウスをこしらえて
いまは 秋の収穫に 忙しい
町場(まちば)の知人へ 車を走らせ せっせとおすそ分け
お嫁情報の収集活動
俺は 稲刈り 夜中までコンバインの運転
農地は 国の土地改良区の助成を受け 大型機械も導入した
作業は 効率的で はかがいく
刈り取った米の乾燥の管理も 半端じゃない
疲労困憊(ひろうこんぱい)は とうに超えている

ようやく田んぼの始末も終え 長い冬を迎えた
母を誘って 温泉に慰労の一泊旅行
見合い写真持参で 結婚作戦開始
勝負は 今冬 
見合いに こぎつけた
当たって砕けろでは いつまでも独り身のまま
砕けないよう アピールするしかない
厳しいけれど アタックした

例年よりも 雪解けが早かった
俺にもようやく 春が来た
萌黄色(もえぎいろ)に染まる 山の木々が 心を和ます
田植えも 無事終わった

そして 山も地も 万緑に変わるころ 
いい女(ひと)と 祝言を挙げた

〔2019年8月13日書き下ろし。農家の嫁問題は深刻である。機械化された大型農業経営が生き残りの経営戦略。伴侶は、共同経営者。ただの嫁ではない〕