9月4日 香港政府は 2月に出した「逃亡犯条例」を撤回した
「社会が前に進む出発点」という 行政長官林鄭月娥の言葉は 無力だった
遅きに失したと 反論するも 社会が 何処に向かって進もうとするのか
そこに 高度な自治と民主化を求めた 市民との深い乖離があった
だから 若者たちは立ち上がり 市民とともに抗議行動を起こしたのだ
事態は 政府と警察への さらなる不信感を募らせ 沈静化の目処は立たない
3月 1万2千人から始まった
6月 103万人 そして200万人と 市民が中心街をびっしり埋め尽くした
林鄭は 中国政府の意向をおもねるばかりで 廃案を表明しただけ
抗議デモは収まるどころか 撤回を要求し続ける
7月 香港議会に強行突入 中国政府の出先機関にも抗議した
8月 ゼネストに35万人が参加 香港国際空港を占拠 見事な戦略だった
一方広東州深圳では 武装警察官の制圧訓練が 開始されていた
18日170万人デモは平和理に終始したが 林鄭の曖昧な回答で 再びデモが激化
香港政府本部庁舎前で衝突 警察は強制排除を強行した
一部暴徒化したデモの取締を強化して 地下鉄の車中まで 若者を追い回し痛めつける
不法地帯と化した映像は 世界中に配信され 震撼させた
混乱を引き起こした林鄭は 警察の武力介入を黙認し
多くの市民や社会 そして経済に 大きなダメージを与え続け
ひたすら本国の指示を待ち そして突き放された
「我々が主導したのではない 香港当局が自発的に動いた」
責任は林鄭にあると 共産党関係者がコメントしたという
傀儡(かいらい)ならではの 板挟み
バックを信じて 権力を誇示したばかりに
こじれて こじれて 収拾不能の事態を 自ら招いた
要求はさらに 政治改革の主柱 普通選挙実現へと拡大した
党政権の目的は 批判的な国民を 自由都市香港から 犯罪者として一掃することなのか
党政権の意向の反映とは 残酷な仕打ちと愚陋(ぐろう)を繰り返すことなのか
党支配とは 武器と暴力で市民の声を叩きつぶし 恐怖で服従を強いることなのか
党体制の維持とは 普通選挙権もなく 国民を隷従化(れいじゅうか)することなのか
一国二制度の下では 人としての尊厳を主張することは 許しがたきことなのか
若者たちが 香港市民が 世界に向けて 切実に訴えている声を聴こう!
憤怒の傘を広げ
自らの未来を賭けて
国家権力に 果敢に立ち向かう 統制された平和デモ
ほんの一部が暴徒化し 非難され 罵倒(ばとう)されても ひるむことなく
高度な自治と民主化 そして自由を求め 信じる道を 突き進む
逞(たくま)しき 若者たち
政府との対話への道程は これからが 胸突き八丁にさしかかる
いまこそ 明確なビジョンと戦略を示して 変革のエネルギーに変えて
香港市民とともに 自由と共生への苦難の道を 切り拓いてほしい
若者らの行動に
形骸化した 日本の民主主義の残滓(ざんし)が
オーバーラップした
〔2019年9月6日書き下ろし。混迷続く香港。自治と民主化を求めて果敢に立ち向かう若者たちに強く惹かれるのはなぜか。民主主義を多数決に置換した日本のいまに危機感を覚えるからか。自由とはなにか、民主主義とは何かを提起する、香港の市民運動に注視〕
付記
香港の条例改正案撤回 事態収拾にはまだ足らぬ
香港の林鄭月娥行政長官が中国への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案の撤回を正式に表明した。民主派は「遅すぎる」と批判し、事態収拾の行方は不透明だ。
長引く混乱は国際金融都市の経済にも打撃を与えている。林鄭氏はさらなる譲歩も考慮すべきだ。林鄭氏は6月に大規模デモが続いた後、改正案の事実上の廃案を表明したが、正式な撤回表明には応じなかった。その後も週末ごとにデモが行われ、8月には香港国際空港が占拠されてマヒする事態も起きた。
警察は催涙ガスやゴム弾を使って取り締まりを強化し、1000人以上が拘束された。デモ隊の一部は火炎瓶などで対抗し、警察とデモ隊の双方に負傷者が出ている。
撤回表明は約3カ月に及ぶ混乱を収束させる狙いだろうが、民主派の要求とは隔たりが大きい。民主派は警察の取り締まりの是非を検証する独立調査委員会の設置や拘束されたデモ参加者の釈放、民主的選挙の実現などを求めている。特に警察の過剰警備への批判は市民の間にも根強い。独立調査委の設置がなければ、穏健派も納得できまい。
林鄭氏は非公開の場で「行政長官は中央政府と香港市民という二人の主人に仕えなければならない」と板挟みの苦しさを吐露した。市民の多くは返還後も民主化が進まず、政治、経済両面で中国の影響力が強まったことで香港の将来に危機感を持っている。
林鄭氏が香港市民の側に軸足を置かなければ香港に「高度な自治」を認めたはずの「1国2制度」の信頼を回復するのは難しい。
中国政府は香港に隣接した広東省深圳で武装警察の訓練を公開するなどの圧力を強めているが、威嚇は反発を生むだけだ。むしろ香港の意思を尊重し、「高度な自治」に任せる度量を示すべきだ。そうでなければ、香港の将来を握る若者たちの離反が続くだろう。
10月1日には中国が建国70周年を迎える。混乱収拾には林鄭氏が民主派や学生らの声に耳を傾け、妥協点を探る努力を示す必要がある。デモ隊の側も「平和的、理性的、非暴力」という方針を堅持してほしい。中国政府に介入の口実を与えるべきではない。(毎日新聞社説2019年9月6日)