尼崎で 数年住み暮らした
単身赴任 体裁のいいことばだ
私は 出稼ぎしていた
徒歩6分 裏のスーパーに よく買い物に出かけた
木造2階屋の 古い文化住宅の前を抜ける
その玄関口の 駐車スペースの脇に
ベンチが 据え置かれていた
「どうぞお休み下さい」と 立て看があった
スーパーからの帰り道 ベンチに老女が二人 腰掛けていた
店から 200メートルほどの距離は
買い物帰りに 一休みするには ちょうどいい
荷物はかたわらにおいて しゃべり惚けている
ただベンチを置いて 庭先を開放しただけで
小さな拠り所が 生まれた
やれコミュニティづくりだ やれまちづくりだと
大見得切って 声高に 叫ぶより
庭先で充分 その働きをしている
年寄りが 寄り添い生きるマチって
庭先に 小さな拠り所があるマチなんだと 気づかされた
おしゃべりできるところ すべてがコミュニティ
尼崎のおばちゃんは 飴玉もって
普段着のベンチ・ネットワーカーだった
〔2019年9月6日書き下ろし。まちのふれあいサロンの数も大事だけれど、世間のつなぎ直しは、一脚のベンチから始まるのかも知れない〕