あがき あらがい もだえる
ここから逃れられない
この葛藤が さらに一致も察知もいかず
自らを窮地に 追い込む
躁鬱病(そううつびょう)で 借金を抱えた
アル中の治療で 入退院を繰り返す
借金のかたに 自宅を売っても足りず 自己破産した
放浪の身となった男を見かねて
知人のドクターが 経営する老人ホームに引き取った
六畳ほどの居室が 男の居住まいとなった
三食昼寝 リハビリ付きの 暮らしを余儀なくされた
施設の住人は ほとんどが 男よりも年長だった
会話も怪しい 老人たちとの暮らしの中で
正常な思考を維持することの 困難性を自覚した
このあがきは 本物だった
収容所のように感じる施設から 逃れるすべはなかった
行く当てのない 漂流者と化した自分が そこにいた
閉塞感が こころを 浸食する
このあらがいは 本物だった
逆らうような言動をとっても 結果は何も変わらなかった
監視が 強化されたように 感じた
去勢感(きょせいかん)が こころを 支配する
このもだえは 本物だった
いたたまれない やるせなさを 追い払うすべはなかった
ひとり悶々(もんもん)と 自室で耐えるしかなかった
自死願望が こころに 静かに忍び込む
男の本来の居場所から ずいぶん遠くに来てしまった
今日一日 逃れられない場所で 堪え忍んだ自分に
男は 一時(いっとき) 正常心を取り戻す
〔2019年9月7日書き下ろし。不本意な居場所で生きるしか道なき老いた者たち、心の虚しき彷徨をただただ痛む〕