学校経営計画は 各校務分掌の年間計画と
すでに 前年度末に出来上がっているのが 普通である
着任した校長は 前任者の経営計画を継承して 新年度を運営していくのは
長い間の慣習であり 異論なく踏襲されてきた
だから 教員も 3月に概ね新年度体制ができているから
4月異動してきた新メンバーには 出来上がった計画のまま
校務分掌計画を進めていくことに 何の異存もなかった
新しい校長は 従来の慣習をよしとせず 改革を断行した
前任者の経営に 迎合できないことへの 自己表明でもあった
自分の経営が 1年先送りになることの悔恨を 抱きたくなかった
校長室に運び込んだパソコンの荷を解き
その前に座り 経営計画の策定に取りかかった
学校教育の全体構造の見直しから始まった
道徳教育 生徒指導 特別活動 ボランティア学習 情報教育 総合的な学習の時間
それらを構造化することで 学校教育が俯瞰される
年度初めの職員会議の朝まで たった3日間
勝負に出た
学校経営の基本方針は
「“むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをおもしろく”
豊かな学校教育の創造をめざす」と 井上ひさしの言葉を引用した
さらに 全ての教育実践は
「子どもを粗末にしない共育」に 結びつくことを明記した
ボランティア学習の重点教育目標は この学校で初めて提起された
「様々な人たちとの出会いやふれあい活動を通して 誰もが人として当たり前に生きる
ことの大切さを“まごころ”として体験的に学び 個々の共感性と共生観を高める」
職員会議に 提案された
3月末に用意された計画の全面的な見直しを 余儀なくされた
それをベースに 各学年学級の経営計画が立てられていく
それも 従来の飾り物のような形式的な内容に陥らぬよう
領域別かつ学期毎に区分された様式を 具体的に提示した
すべての取り組みには 評価が付帯されることも 補足した
さらに 学期末にはオープンで経営評価を行うことを 通告した
ぬるま湯に浸かってきた教員集団は 大いに戸惑った
4月は 学級経営も校務分掌も かなり煩雑になる時期であり
厳しい仕事を強いることは承知の上で 取り組ませた
それが出来なければ 1年間の実践は
その場しのぎと批判されても 返す言葉はない
あだ花となるだけの 今までと変わらぬ仕事となる
教育に携わるのは その一つひとつの仕事が
どのように深く 学校全体の活動とリンクしていくのか
その中で 一人ひとりがどのような役割を担い責任を果たしていくのか
自分のポジションを確かめ その覚悟を示すのが 4月であり
具体的な自己表明のカタチが 学年学級経営計画なのである
若い教員が 緊張した面持ちで
学年主任と共に 応接セットのソファーに座る
対面するのは 校長と教頭 教務主任
これから経営ヒヤリングが 始まる
学年経営計画を 学年主任が説明する
学年の各領域の指導計画から始まって
学級計画に どのように反映されていくのかを
系統だって 論じなければならない
書かれた文言の 行間にあるおもいを 語ってもらうのが
このヒヤリングの場であり 目的である
校長室は 教員たちの熱いおもいを語る 空気に満ちた
若い教員は 大きく息を吐いた
初めての体験で 昨夜は何を質問されるのか 不安で寝付けなかったという
そばにいた主任も 長い間教員をしてきたが 初めての体験
同じように 内心ビクビクしていたと 実直に語った
ヒヤリングは これから1年の実践への道標を 自ら語ることでしかない
校長や教頭に伝えることで はじめて共感と共有という経営のベースが確立する
文言を書き連ねただけの 学年学級経営計画
忙しいと置き去りにされてきた 確認の時間
それをヒヤリングという場で 語り合うことの大切さを 優先した
校長室は 経営を語り合い おもいを共有する場なのだ
語り合うことで 覚悟が見える 覚悟が決まる
そして 覚悟が 実践の目的となる
〔2019年10月2日書き下ろし。学校教員が多忙であり、超勤など働き方が問題視されている。そこで、果たして学級経営に対して共通理解はなされているのだろうか。個々の教員のおもいを確認するヒヤリングの効果を提案したい〕