中学校で 全校生とボランティアについて学習した
質問すると 一人が答えた後
「同じです」「同じです」「同じです」
失笑がもれる
「同じです」「同じです」 繰り返される「同じです」
百人ほどの子が答えた後に
「私はこう思う」と 一人の女の子が答えた
校長室に入りかけたそのとき
数人の子どもたちが 話をしたいと押しかけた
校長は 子どもたちの勢いに押され 許可した
子どもたちと校長室で さっきの顛末について話し合った
子どもらの顔も言葉も 真剣そのものだった
全校生に出した質問は 決して難しい問いではなかった
彼らは 調子に乗って からかい嘲笑したのだ
いかに その態度が不謹慎だったのかを 詫びながら
私たちに何を伝えたかったのかを 聴きたい
それが 押しかけた理由だった
自分の考えを言葉にするときに その言葉は同じでも
実は考え方や感じ方は 全く同じではない
まわりに流されることなく 自分の考えを表す言葉を大事にしてほしい
「同じ」という回答は 考えを他人に委ねて 思考停止していることと同じ
ボランティアは 自分の意志や考え方を 確かめながら活動すること
そのことを他人に委ねてしまっては そこからは何も学ぶことはできない
ボランティアという学びへの 大事な心構え
彼らには その愚弄さに気づいてほしいと 伝えた
空気に流されて まわりに合わせる 情けない態度に憤り
おかしい ちがうよという 心の声に押されて
君たちは ここに来た
だから 正直私は君たちに救われたと 感謝した
三十分の時間が あっという間に過ぎた
校長は 不機嫌そうな顔をずっと崩さず 子どもたちを学級に戻した
校長との別れの際には 謝辞はなかった
翌日 臨時の全校朝会がもたれた
校長は 生徒の態度について 君たちは決して悪くないと弁護した
講師をこき下ろすのは 構わない
ただ 校長の憤りは 直接講師にぶつけてほしかった
しかも 校長室に押しかけた 子どもたちの真摯な行動を 見事にないがしろにした
彼らこそ この学校で誇れる生徒であり 教育の成果でもあるはずなのに
校長自ら 生徒のとった自発的な行動を否定し 無視した
子どもに 卑屈さを教えることは 決してしてはいけない
校長として あるまじき態度だったと
校長室にいた子の一人が 親に泣いて訴えた
校長室 選ばれし者の指定席と 勘違いしてはならないところ
校長室 子どもたちの声を素直に聴く人がいて はじめて存在するところ
校長室 あたったかい空気が流れる 教育的空間そのもの
そう願いたい
〔2019年10月3日書き下ろし。一部の子どもたちの行動こそ全校生に訴える価値ある行動であり、教育の成果を共有する機会だった。怒りの感情は理性的判断を狂わせる〕