置き薬が袋に詰められ 居間にぶら下がっていた
紅い薬箱に替わったのは
少し暮らしが グレードアップしたからか
頭痛や歯痛止め「ノーシン」のパッケージには
歯や頭を押さえる絵が 描かれていた
それぞれの薬には 必ず絵が描かれていたのを覚えている
それは 文字の読めない人が 誤飲しないよう 配慮したという
年に数回 各家を回る
玄関口で 大きな風呂敷に包まれた 重そうな薬箱を広げる
世間話をしながら 道内や全国各地の 面白話を披露する
使った薬の精算と補充が済むと 子どもらに紙風船を手渡した
それがほしくて ずっと大人の話を聞きながら 待っていた
富山の薬売りは 情報通 話し上手で 民間健康管理人
いまでは ドラッグストアで 薬は簡単に手に入る
でも やっぱり 置き薬の商売は 廃(すた)らない
いまでも 富山の薬は 家庭の常備薬
民生委員は きっと富山の薬売り
かかわる人の 健康や暮らし向きを気遣い 訪問する
目がかすみ 文字が読めなくなった人もいる
話をしながら 情報提供 安否確認 困りごと相談 などなど
重たい薬箱のかわりに その人のおもいの薬箱を背負う
暮らしを良くする 老化を防ぐ 特効薬は 持ってはいない
でも 少しでもこころの負担が減ってほしい
そう念じながら
元気が出る薬を 処方する
今日も 私を待ってる人のもとへ
こころの薬箱を背負って 会いに行く
〔2019年10月11日書き下ろし。民生委員児童委員の地域での役割が、一層重視されてきた。その苦労は並大抵ではない。それを承知で地域に生きる人たちへの尊敬の念を強く抱いて〕