当てにする

妻を 八十歳で亡くした老男がいた
家事は 全くしてこなかった
料理はもちろん 洗濯も掃除も
妻に一存して 生きてきた

妻の 心配があたった
先立たれて 途方に暮れて
そこに 地域の民生委員が 顔を出した
高齢夫婦の様子を たまに顔を出して 世間話をしていく
愚痴をこぼした
妻をなくした 喪失感
この先の 暮らしの不安を

民生委員は 動いてくれた
地域包括支援センターに 連絡した
社協にも連絡した
家事を担うホームヘルパーの派遣
デイサービスの利用
食事サービスの利用
介護保険で賄われる 在宅サービス
それ以上は 自己負担で対応可能と知った

まずは 自分の生活を作り直さねばならない
福祉サービスに依存すれば 確かに楽
でも 経済的には不安も残る
自分で少しできるまで そう決めた
自立は 完全でなくてもいい
しかし 完全な依存は 生きる気力を削ぐ

民生委員が 様子を見に時々やってきた
男の料理教室があるけど 行ってみないと誘われた
同胞相哀れむ
同じような境遇の老男たちが 集まっていた
照れも恥もない 出来ないながらに愉しんだ
誰かと何かをする 
新鮮な体験だった
一人で作って食べることは 苦痛だった
みんなで食べることの楽しさを 味わった
だから また来ることにした

民生委員は 当てにされ始めた
老男の一人の暮らしを サポートする
その人が何を求めて どうしたいのか
そのニーズを理解して 
誘いの言葉を かけてまわる
まちの情報通にならなければ 伝えられない

子ども食堂に誘った
孫たちと一緒におしゃべりして食べるのも
いつのことだったのか
一人で食べるさみしさを 紛らわした
楽しかった

地域のサロンにも 誘った
女性たちが集う 楽しい雰囲気は 感じた
でも 話し下手な自分には 合わなかった

あきらめず 外に連れ出す
それが 妻を亡くした男への暮らしのケアだと
民生委員は 情報収集とお誘いの言葉がけに
今日も 地域を歩く 

〔2019年10月27日書き下ろし。社会的孤立が心配な老男、民生委員の力に負うところが大きい。民生委員の成り手不足と3年1期でのリタイアの問題が全国共通。だから、知ってもらいたい。大きな役割と、暮らしを支える人たちの思いを〕