決心する

福祉系の科目で ゲストに呼ばれた
40人の学生を前に 車いすに座る
マイクを持つ手は 小刻みに震える
首に青筋を くっきり浮かべ
喉から息を 絞り出すように吐いて
必死の形相で 全身を振るわせ 声を出す 
言葉にならない 響く強い音

病により 1ヶ月間生死を彷徨(さまよ)い
目覚めたときには ベッドに横たわっていた
声も出ない 動かない自分に 愕然とした
阿鼻叫喚(あびきょうかん)の苦悶から脱して
こうして大学の教室で 学生たちと向き合う
スクリーンに表示された文字を読みあげながら 必死に語る
19歳 大学1年の夏に倒れ 未来を一瞬にして奪われてしまった
悲憤慷慨(ひふんこうがい)を抑えながら 16年後のいまを語る 

学生たちは 言葉にならない声を聴きながら 画面に見入る
教室に 緊張感が満ちていた
寝ている者は いない

後日 学生は手紙を託した
大学に入って 一番こころ踊る 熱い授業でした
こういうときは 長々と気持ちを述べたほうが 伝わるのかも知れません
しかし 私の文章力では 本当に伝えたいことが ズレてしまうと思います
なので 一言だけ言います
「私の人生は あなたのおかげで変わりました」とお伝えください
後は自分の生き方で証明します

※阿鼻叫喚(あびきょうかん):阿鼻という地獄で、大罪を犯した者が剣樹・刀山などの苦しみに堪えられないで泣き叫ぶこと。
※悲憤慷慨(ひふんこうがい):世の中の不義不正や自分の不当な運命などを悲しみいきどおること。

〔2019年11月1日書き下ろし。学生はどのように彼を受け止められていいのか戸惑いながら、話に惹きつけられ、覚醒していきました。気負わず相手をあるがままに受けとめていくことが出来るのは若者の素直さですね。大学の教育系福祉系の先生方へ。学生諸君に、あなたは意識変容させる何ものかをお持ちですか?〕