恋詩(こいうた)
今 ひとりです
あの子はつかれて
この子は淋しぃ
雨の街を あなたを求めて歩きます
声をかけてくれたあなたの影を 求めて歩きます
あなたの恋する人が 別にいても
あなたを求めて歩きます
ただ あなたからの一声をきくために
濡れた髪を 肩に垂らしたまま歩きます
今 ひとりです
《昭和43年5月19日17歳》
東京の雨空の下 あなたは何を見ていたのだろうか
中学を出てすぐ 東京の美容専門学校に通った
母の親戚の店で仕事しながら 学校に通った
あなたの心の空虚さを知らず
ただただ あなたは雨の街角を彷徨する
ひとりぼっちの孤独感を知らず
ただただ 父はひとり寡黙に無事を祈っていた
二人して ふり返ってみよう
後ろに咲いていた 赤い花房を
雨の滴を口に含んだ 幼い昨日を
あの頃の二人
仲の良い かわいいちいさなキューピット
今も変わらず 赤い花房は
二人で探した道に あるかしら
幼い昨日
幼い昨日に
手を取り合って 二人で駆ける
なつかしい 幼い昨日
《「幼い昨日」昭和44年7月24日18歳》
幼い妹の可愛い笑顔が 彷彿します
手を取り合ったのは 誰でしょう
ふるさとの街 その風景に溶け込む幼児二人
末の妹だったのかも しれません
仲の良かった弟かも しれません
チャーミングな優しいお姉ちゃんでした
世界が光り輝き やさしいぬくもりに包まれています
涙が モニターの画面をぼかします
暗い部屋でばかり過ごしてきたから
私は明るいのでしょうか
太陽を忘れて歩いてきたから
あなたに逢ったときの 私の驚きは
言葉では言えません
私の心の中に入って
私の心を隅から隅まで調べてください
あなたのことでいっぱいです
あなたという太陽で
私の心の中で
あなたは 何と明るいことでしょう
暗い部屋の中で過ごして歩くのは もう疲れました
私の手をとって 肩を抱いてください
早く昔の私に帰りたいから
何も知らない私に帰りたいから
もう 疲れました
《「疲れてしまった私」昭和44年11月1日18歳、遺稿の一つ前の詩》
肉親だからと 言われても
肉親だからこそ 悲しみの淵は深いのです
十八歳の身空で 夢も恋も突然 なくした妹に
その悲しき残酷さを 恨みながら
ただただ悲嘆の思いを 閉じ込めて
五十年 生きてきました
父母との永久の別れは 覚悟の上での
看取り尽くした後の やりきれなさでした
でも 妹よ
あなたという存在が
忘れてはならない存在として
いまも生きているのです
妹よ
言葉にならない言葉を越えて
意気地なさを 素直に表出できる存在として
いまも生きているのです
妹よ
浄土で あなたを最も愛しんだ 父や母と出会ったでしょうか
あなたは 五十年の刻を経て 輪廻転生します
兄は もう二度とお会いできないのです
だから 父と母からあなたのことを尋ねましょう
妹 琴代よ
別れの刻が きたようです
あなたを忘れることは 決してありません
涙で言葉が かすれます
さようなら 妹よ
さようなら 琴代
〔2019年11月17日書き下ろし。11月21日五十回忌の命日、最期の別れとなりました〕