男は醒めた頭で メビウスの帯を想像した
5時間は 飲んだろうか
5時間の語らいは 十数年の時空を超えた
ただ 彼の体力の限界を超えていたのかもしれない
互いに気遣いながらも 過ぎゆく時間に身を任せた
周到な段取りをして 札幌に飛んできた
会いたいという強固な意志と 一筋気の行動に
ただただ 驚嘆と感謝 そして平伏するしかない
でも疲弊していた身体は 正直に弱さを見せていた
男は 紙片でつくったテープをひねった
同世代の二人の歩んだ道は 別々だった
交わることは 数度しかなかった
だからいま 互いの道が一本の軌跡になったことは
奇跡なのだ
大学をリタイヤしてから ずいぶん経ったある日
突然メールが来た
つてを頼って探し当て コンタクトを求めてきた
去る者追わず 来る者拒まず
男は そうして生きてきた
躊躇なく 受け止めた
男は 輪に人差し指を走らせた
一本になった軌跡を なぞった
この1年 矢継ぎ早に仕掛けてきた
男は 求められるまま ためらうこともなく 書いた
子ども 教育 学校 福祉 政治 などなど
手当たり次第に 思い浮かぶまま 書き綴った
地方紙で連載していたコラムの規制は 全くない
自由な思考と志向 そして嗜好
文字数の制限もなく こころのおもむくままに 書き綴った
彼は いま二人で発信しているこのブログを
共働だと 同席した若い大学人に語った
しかし 男には 一本筋の通ったポリシーはない
それを許容する 彼の熱い懐で
悠々こころを遊ばせ 甘露を味わう
男は メビウスの帯を机上に置いた
人生の晩期に 至福の時を共有する同伴者の
一日も早いご回復を ただひたすら祈った
〔2019年11月28日書き下ろし。初冬の来札に深い感謝と尊敬を込めて綴る〕