心の距離感

ナレーション
子育てには悩みがつきもの。ノウハウ本やスマホで誰も情報は簡単に手に入れられる時代だが、お手本通りに子育てが上手くいった話なんて、聞いたこともない、見たこともない。だから、みんな悩んで親になる。でもそれだけじゃない。地域で子どもを育てていくって、とっても気を遣い、気疲れする。子どもが失敗でもしようなら、あそこの家庭は、あの親はと,心ない人の陰口も聞こえてくる、世間体も気にかかる。でも頑張って子育てしているんだよって、言いたいんだ。そんな悩みを持つ者同士、ラインでつながっていたのです。

(舞台の上に離れて、下手に和子、中央に信子、上手に幸子位置する。三人スマホを片手に文字を打ちながらおしゃべりする)

和子 「いまブルー。学校がら呼び出されたわぁ」
信子 「どしたの?」
幸子 「何があったぁ?」
和子 「子どもが意地悪したって。家でも注意して見てくださいって」
信子 「いじめだって言ってるんだがぁ、先生」
和子 「そうだとはっきりは、言ってねけど…」
幸子 「私もあったや。学校がらの呼び出し」
和子 「どしたらいいのか、わかんないなぁ」
信子 「何が原因だったんだぁ?」
和子 「先生も、子どもが話さねがら、困ってらって」
幸子 「話さね理由って、なんか分かる気する」
和子 「うすうすは、気がついているんだけどな」
信子 「やっぱりそこか。男の子は手出でしまうからなぁ」
和子 「まずは、おごらねで話してみるがな」
信子 「それがいいなぁ」
幸子 「いいね(スタンプ)」

ナレーション
数日後信子からラインがあった。
舞台の三人の立ち位置は、徐々にセンターに近づいてきた。

信子 「ちょっと悩みあってなぁ…」
幸子 「どうしたぁ?」
和子 「何があったがぁ?」
信子 「ちょっと相談事あってなぁ・・・どこさ行けばいいのがなって…」
和子 「役場は?」
信子 「役場がぁ・・・」
幸子 「役場だばまずいんだがぁ?」
信子 「ながなが気が進まねなぁ・・・」
和子 「何となくわがる」  

ナレーション
三人の距離が狭まってくる。もうスマホは手に持ったままで役立たず。

幸子 「ほんと、どしたの?」
信子 「子育ての事どが生活の事でちょっとつらいどごろもあって相談したいんだけどやぁ」
和子 「精神的にしんどい時(どぎ)もあるよなぁ」
信子 「仕事の事(ごど)でもいろいろあってなぁ」
幸子 「ほんとに、役場さ行ってみだらぁ…」
和子 「でもや、行ぐのさ結構勇気いるんだよなぁ」
信子 「出来れば、役場の世話になりたくねって思って、頑張ってきたんだけどなぁ。この  ままだばこれからが大変がなって…、とにがぐ行ぐがなって思うんだけどやぁ」
和子 「なんか役場さ行ぐのに気になる事(ごと)があるんだがぁ?」
幸子 「もしかして、役場の人が知り合いだったり、子どものクラスの親だったりする人も  いるがらがぁ…」                             
和子 「あ~そっか。それだば私もちょっと相談しにぐいし、まして家庭(いえ)のごど色々聞がれて知られるのって、ちょっと無理だもんなぁ」
信子 「世間体もあるしなぁ… まだ頑張れると思い直して、やるしかねがな」
和子 「他さ相談できるどごってないのがなぁ?」
幸子 「社協でもやってるや。もしかしたら役場より敷居は低いと思うけどなぁ」
信子 「社協って、なして知ってるの?」
幸子 「以前近所に社協の役員さんがいて、何でも相談してみれって言われて、一回困った  どぎに助けてもらったごどあるがら」
和子 「社協ってあんましよぐわがらないけど、相談もできるどごなんだなぁ」
信子 「そうなんだぁ… でもや日中仕事してるし、仕事終わってからでも行けるんだべが
ぁ… まず気軽に相談できるところがあれば一番いいんだけどなぁ。明日たまたま   仕事休みだがら行ってみるがな」

ナレーション
スマホは手に持ったまま、三人のおしゃべりは続きます。
役場や学校には、なかなか相談できないこともある様子。心配事をラインでつなげるのではなく、こうして顔と顔を合わせて、直接お話しするのが一番ですね。同じ悩みを持つ者同士、話は尽きません。
社協を含め民生児童委員さん、役場、学校、警察等にも相談しやすい環境が生まれるといいですね。そのためにも地域の人と人がつながらなければ、子育てを応援することは難しいですね。地域で、子育てで悩んでいる方との心の距離をどのように縮めていくのかも、この後ぜひ話題にしてみてください。

〔2019年12月3日上演。秋田県小坂町で「小坂の子の未来を考える研修会」で子育て・子育ちを地域でどのように支援するかをテーマにグループワークした際に、問題提起した寸劇。小坂弁でお楽しみください。演技は完璧。なにせ明治の芝居小屋「康楽館」がある所。役者は揃っています。翻訳は社協柏山茂紀氏。5円玉の銅の産地でもありました〕