茶の間

たった2間の小さな家だった
お客さんが来ても 子どもらの逃げ場はなかった
だから 茶の間でおとなしく
大人の話を聞くように 躾(しつけ)られた

世間の大人は どんなことに関心があるのか
おばさんたちの話は 飽きない 尽きない
大人の世界に興味津々 背伸びする
ついつい 身を乗り出す子どもたち
口を挟むと 大人に話に口出すなと叱られる
まあまあと取りなされて 
子どもは ペロッと舌出しながら 耳をジャンボにして聞き入った

親は どんな人たちと行き交いしているのか
親は どんな話を愉しんでいるのか
未知なる大人の世界への憧れ

小さな家の茶の間は 子どもの居場所です
小さな家は茶の間に 人のぬくもりが満ちています
小さな家の茶の間が 噂話の詰まった世間です

いまはみんな
大きな家になりました
客が来れば 子ども部屋に待避します
大人の話の邪魔にはなりません
大きな家になりました
茶の間は 食事時(どき)の限定ルームとなりました
後は個室で くつろぎます
大きな家になりました
気軽に他人(ひと)も 来なくなりました
家の中を査定されるのを 拒否します
大きな家になりました
茶の間は 近所の人も 気軽に立ち寄ることなく
世間が だんだん遠くになっていきました

子どもが成長して 家を離れ 
家の空気が 冷え冷えしてきました
地域とのご縁もどんどん薄れ 
孤独に耐える日々となりました

ついに 大きな家は 住む人なくして 残ります
大きな家は 売りに出しても買い手はつかず 残ります
大きな家は ただの無用の長物となり 朽ちていきます 

そうならぬように
小さな茶の間が 必要な時代が
いまかも知れない

〔2020年1月18日書き下ろし。茶の間という小さなぬくもりがあった空間が大きな家になって消滅し、地域の人とのつながりも空洞化していく。だから地域に小さな茶の間づくりが求められるのでしょうか〕