● 「定住」しないのならあれこれいう資格はないよ、当然でしょ!
● しょせん「よそ者」は「よそ者」ですよ、そうじゃないですか!
● 火事と葬儀には手を貸すという「村八分」(の二分)さえも残っていないんだよ!
● 「ないものねだり」ではなく「あるもの探し」って言われるんだけどね!
〇国土交通省(国土政策局総合計画課)が、2019年9月、「関係人口」の実態を把握するため、三大都市圏(首都圏、中部圏、近畿圏)に居住する18歳以上の人を対象に、インターネットによる「地域との関わりについてのアンケート」調査を実施した(有効回答数:28,466人)。その結果、調査対象地域の18歳以上の居住者(約4,678万人)のうち、約1,080万人、23.2%が「関係人口(訪問系)」として、日常生活圏、通勤圏等以外の特定の地域を訪問していることが分かった。「関係人口(訪問系)」とは、日常生活圏、通勤圏、業務上の支社・営業所訪問等以外に定期的・継続的に関わりがある地域があり、かつ訪問している人(地縁・血縁先の訪問〈帰省を含む〉を主な目的としている人を除く)をいう。
〇「関係人口(訪問系)」の結果の内訳は、地縁・血縁先以外の地域で飲食や趣味活動等を行う「趣味・消費型」が約489万人、10.5%。地域の人との交流やイベント、体験プログラム等に参加する「参加・交流型」が約272万人、5.8%。地域においてテレワークや副業を実施したり、地元企業等における労働や農林水産業に従事する「就労型」が約181万人、3.9%。地域産業の創出や地域づくりプロジェクトの企画・運営、協力、地域づくり・ボランティア活動への参加等を行う「直接寄与型」が約141万人、3.0%、となっている(以上、2020年2月18日付ブレスリリースから抜粋/国土交通省ホームページより)。
〇いま、こうした地方や地域(農山村)との多様な関わりの現状や動向をどう捉えるか、が問われている。そのまえに、まだ認知度が高い言葉ではない「関係人口」とは、そもそも何か。本稿では、この基本的な問いに答えるための資料を以下に紹介し、それぞれの言説をメモっておくことにする。
(1)高橋博之『都市と地方をかきまぜる―「食べる通信」の奇跡―』(光文社新書)光文社、2016年8月
地方自治体は、いずこも人口減少に歯止めをかけるのにやっきだが、相変わらず観光か定住促進しか言わない。しかし観光は一過性で地域の底力にはつながらないし、定住はハードルが高い。私はその間を狙えと常々言っている。観光でも定住でもなく、「逆参勤交代」で地方を定期的に訪ねるというニーズは、広がる一方だと思う。交流人口と定住人口の間に眠る「関係人口」を掘り起こすのだ。
日本人自体がどんどん減っていくのだから、定住人口を劇的に増やすのは至難の業だ。しかし関係人口なら増やすことができる。私の周辺の都市住民たちには、移住は無理だけれど、こういうライフスタイルならできるという人間がとても多い。現実的な選択肢だ。関係性が生み出す力をいかに地域に引き込むか、である。(107~108ページ)
〇高橋博之(たかはし・ひろゆき)にあっては、「関係人口」とは「交流人口と定住人口の間」であり、その具体的な関わり方は都市住民が地方を定期的に訪ねる「逆参勤交代」である。それは、「都市と地方をかきまぜる回路」「都市と地方がつながる回路」(108ページ)である。さらに、「関係人口」は、生産者と消費者を「かきまぜ」、「共感と参加」を産み、「生きる喜びや生きる実感、生きる意味といった『生』への手応えを感じる」(174ページ)ことに通じる(「生活者」)。
(2)指出一正『ぼくらは地方で幸せを見つける―ソトコト流ローカル再生論―』(ポプラ新書)ポプラ社、2016年12月
地方を元気にする方法として、これまでは移住者が増えて人口増を目指すことか、観光客がたくさん訪れることによって経済効果が上がるかのどちらかが主流でした。しかし、日本はこれからどんどん人口が減り、東京ですら2020年には人口減に転じると予測されているなか、このふたつの方法で人を集めることはどの地域でも難しくなっています。地方の課題は、人口減に歯止めをかけることではない。そこにいち早く気づいた地域が、真っ先に取り組んでいるのが「関係人口」を増やすことです。
地域経済の活性化戦略のひとつに、「定住人口」「交流人口」というキーワードがあります。その地域に住んでいる人を「定住人口」と呼ぶのに対して、地域外から旅行や短期滞在で訪れる人のことを「交流人口」といいます。これまでは、このふたつのどちらに政策の重きを置くかということが行政の視点でした。ところが最近、どちらにも当てはまらない新しい人口が生まれています。「関係人口」といわれるものです。
関係人口とは、言葉のとおり「地域に関わってくれる人口」のこと。自分のお気に入りの地域に週末ごとに通ってくれたり、頻繁に通わなくても何らかの形でその地域を応援してくれるような人たち。いくつかの地域ではそうした関係人口が目に見えて増えており、そこでは中心となる人が地域づくりを始めるようになりました。(中略)「交流人口」と違い、積極的に地域の人たちと関わり、その社会的な足跡や効果を「見える化」しているのが、「関係人口」といえるでしょう。(218~220ページ)
〇指出一正(さしで・かずまさ)にあっては、「関係人口」とは「地域に関わってくれる人口」であり、「交流人口」との違いは関与の度合いによる。まちづくりは、「この人が自分の地域に関わってくれたら、よい方向に動き出すに違いないと思える存在。そんな熱意のある人(「ローカルヒーロー」)がひとりでも増えること」(223ページ)による。関係人口の主要な担い手である若者が求めるのは「関わりしろ」、つまり「その地域に自分が関わる余白があるかどうか」(33~34ページ)である。まちづくりのゴールは「移住」者や「観光」客の増加ではない。
(3)小田切徳美「『農村関係人口』の可能性」『日本農業新聞』2017年6月
現在では移住ばかりが注目されているが、つぶさに実態を見れば、人々の農村への関わりは段階的である。例えば①地域の特産品購入 → ②地域への寄付 → ③頻繁な訪問(リピーター)→ ④地域でのボランティア活動 → ⑤準定住(年間のうち一定期間住む、二地域居住)→ ⑥移住・定住――という、いわば「関わりの階段」があることを以前指摘した。この状況をある一時点で切り取れば、人々の農村への関係は「無関心―移住」という両極端ばかりではなく、濃淡が生じることになる。
このことから、実は次のことが導かれる。第一に、多様な階段を想定し、準備することが政策の役割の一つとなる。先に示した6段階は一例であり、もっと段階は多く、そしてバリエーションもあろう。最近ではよく見られる「お試し移住」などは、新たにつくられた階段である。第二に、移住促進政策とは、下の段から上の段に上る一歩を支えることの積み重ねであり、それだけきめ細かい対応が必要になる。例えば、特産品を購入した人に対して、地域のためのクラウド・ファンディング(インターネットを通じて不特定多数の人から資金を調達すること)やふるさと納税の案内をするのは、有効な手段となろう。
つまり、移住の促進のためには、この関係人口の裾野を広げることが重要であると分かる。それを上のように図式化した。しかし、この図から逆に、関係人口論にはさらに一歩進んだ、新しい要素があることも分かる。それは、関係人口論はこの「関わりの階段」を登るのに必ずしもこだわっていないことである。階段の同じ位置にとどまる人も含めて、関係人口であり、それを尊重する議論といえる。
また、階段から外れている関係人口も生まれている(図中上部に記載)。それはローカルジャーナリストの田中輝美氏らが明らかにした「風の人」である(『よそ者と創る新しい農山村』)。特定の農村に強い思いを持ちながらも、あえてその地域に定住しないライフスタイルを選ぶ若者群の存在が指摘されている。地域外から交流のコーディネートをする人もいる。(「『農村関係人口』の可能性」『日本農業新聞』2017年6月4日付より一部抜粋)
〇小田切徳美(おだぎり・とくみ)にあっては、「(農村)関係人口」とは「農村に対して多様な関心を持ち、多様に関わる人々の総称」である。人々の農村との関係については、①「無関心―移住」という両極端ばかりではなく、濃淡(「階段」)がある。②「関わりの階段」を登ることに必ずしもこだわるものではない。③階段の同じ位置にとどまる人や、階段から外れている人もいる。④関わりが多様であるがゆえに、集団としてではなく、個人的な対応が求められる。
(4)田中輝美『関係人口をつくる―定住でも交流でもないローカルイノベーション―』木楽舎、2017年10月
関係人口こそが、本格的な人口減少時代を迎えた日本社会=縮小ニッポンを救う新しい考え方であり、地方の新しい戦略になりうる。(中略)関係人口という考え方が広まることで、社会がより良くなる。
これまでは、地域を元気にするためには、その地域に住む「定住人口」を増やすか、短期的に訪れる「交流人口」を増やすか、ということが大事だとされてきました。最近は特に、定住人口を増やす競争が盛んになっています。
しかし、日本全体の人口が減る中で、地域間で定住人口の奪い合いをしていても、疲弊するだけだと思いませんか? どこかが増えれば、どこかが減るのです。(6~7ページ)
たとえ住んでいなくても、地域を元気にしたいと思って実際に地域を応援し、関わる仲間が増えれば、地域は元気になる。(7ページ)
〇田中輝美(たなか・てるみ)にあっては、「関係人口」とは「地域に多様に関わる人々=仲間」(8ページ)のことである。「関係人口」の最終的なゴールは、「離れていても、関係を持ち、役に立ってもらえばそれでいい。仲間でいること」である。そこに「移住」や「定住」の価値を持ち込むことは、「関係人口自体を否定する」(242ページ)ことにもなりかねない。「関係人口であり続けた結果、関わりのグラデーション(段階的な変化)が深くなり、移住という次の段階に進むということは当然あり得る。それでも、あくまでも移住、定住は、ゴールではなく、結果の一つ」(243ページ)なのである。
〇「関係人口」というこの新しいあり方は、「交流や定住というこれまでの考え方をバージョンアップさせた、よそ者と農山村の『共創』と名付けてもよい」。「多様なよそ者と関わりながら、ともに地域課題の解決へのチャレンジを続ける。これこそが、人口減少という新しい時代を迎えた中での目指すべき農山村の姿であり、その先に再生という結果が見えてくる」(田中輝美著・小田切徳美監修『よそ者と創る新しい農山村』〈JC総研ブックレット〉筑波書房、2017年3月、55、56ページ)。
(5)総務省『これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会報告書―「関係人口」の創出に向けて―』2018年1月
都市部には、特定の地域を「ふるさと」として想いを寄せ、地域外から「ふるさと」を支える主体となりうる人材が相当数存在している。
こうした地域外の人材を「ふるさと」との関わりで分類すると、まず、その地域にルーツがある者として、近隣の市町村に居住する「近居の者」と遠隔の市町村に居住する「遠居の者」が存在する。また、ルーツがない者としては、過去にその地域での勤務や居住、滞在の経験等を持つ「何らかの関わりがある者」のほか、ビジネスや余暇活動、地域ボランティア等をきっかけにその地域と行き来するいわば「風の人」が存在する。
これらの地域外の人材と「ふるさと」との多様な関わりを踏まえると、必ずしも移住・定住のみを目標とするのではなく、地域内外の人材が「ふるさと」との複層的なネットワークを形成することにより、地域づくりに継続的に貢献できるような環境を整えることも重要となっている。(10ページ)
〇総務省は、2016年11月に「これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会」(座長:小田切徳美)を設置し、2018年1月、議論の成果を『報告書』として公表した。『報告書』では、「関係人口」とは「長期的な『定住人口』でも短期的な『交流人口』でもない、地域や地域の人々と多様に関わる者」(1ページ)をいう。そして、「地域外の人材による資金や知恵、労力の提供は、地域内の内発的エネルギーと結びつきやすく、ここに地域再生の糸口がある。移住・交流、「ふるさと」との関わりの深化を推進し、地域内外の連携によって自立的で継続的な地域づくりを実現することが重要である」(19ページ)、とする。ここでのキーワードのひとつが、「ふるさと」である。そのうえで、今後の方向性(政策化)について、次の3点を指摘する。①段階的な移住・交流を支援する(移住・定住希望者の段階的なニーズに対応した施策の検討)、②「ふるさと」への想いを受け止める(人々と「ふるさと」とのより深い関わりを継続的に築く新たな仕組みの検討)、③地域における環境を整える(移住・交流、「ふるさと」との関わりの深化を図る取り組みをコーディネート・プロデュースする中間支援機能の育成と、その役割を担う人材育成の支援の検討)、がそれである。
〇「関係人口」という言葉を最初に使ったのは、前述の高橋博之であるとされる。そして、「関係人口」を国レベルで初めて位置づけたのは、前述の総務省の『報告書』である。しかも最近では、「関係人口」の創出・拡大が「地方創生」の主要な柱のひとつに位置づけられている。直近では、政府(内閣府)は、2019年12月、第2期(2020年度~2024年度)の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、「関係人口」の創出・拡大を図るために、個人や企業と地方との関係を深める取り組みを関係省庁が連携して推進することを求めている。留意しておきたい。
〇周知のように、2014年12月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」「まち・ひと・しごと創生総合戦略」によって、「地方創生」政策・事業が具体的に始まった。そのねらいは、「人口減少の克服」と「地域経済の活性化」にあり、それが政府主導で、すなわち中央集権的・上意下達的に推し進められてきた。しかも、その政策・事業内容は、人口政策に比して、経済・産業政策が重視されている(偏向してきている)。その結果、予定調和的に、「雇用の創出」や「人口の獲得」の地方・地域間競争が激化し、人口の東京一極集中や地方の人口減少を阻止することはできないでいる。
〇「関係人口」は、経済・産業の振興だけを促すためのものではない。単に「数・量」を追求したり、特定の「地域・地区」を評価するものでもない。際立った「ローカルヒーロー」(指出)はいずれいなくなり、必要とされなくなる。ヒーローの地元住民化、地元住民のヒーロー化とでも言えようか。
〇「関係人口」は、地域と住民の「個性の尊重」「多様性の共生」を基本理念とする、「仲間づくり」「関係性(つながり)づくり」を進める。しかも、主体的・自律的な地方・地域・住民主導(ボトムアップ型)の、内発的な「まちづくり」に取り組む。従ってそれは、じっくりと時間をかけて、みんなで学びあい・支えあい・楽しみあいながら、地域の、豊かで快適な未来(あす)を拓くのである。
〇「まちづくり」の担い手は、内発的な動きが期待されるその地域に定住する住民だけではなく、その地域や住民などと継続的に多様な関わりを持つ「関係人口」もその担い手として捉えることが肝要である。そこに求められるのは、都市と地方や新・旧住民がつながる、あるいは混住する多様な住民の・住民による・住民のための「リーダーシップ」と「共働」、そして「社会変革」である。
補遺
小田切徳美「『農村関係人口』の可能性」『日本農業新聞』2017年6月4日付