子どもたちが戻って来た

高層マンションの立ち並ぶ一角に 
小さなグランドがあった
学校が休校中は 外に出ることさえためらわれ
友だちと遊ぶことすら出来なかった
新型コロナ感染の恐れは 警戒の域を脱してはいない
それでも新学期の風が吹く4月
待ちに待った少年野球が始まった

家で磨いていたグローブを ようやく使う日がやってきた
心がワクワクして 落ち着かない
起きてすぐユニフォームに着替えて 朝食をとる
早々にバットケースを肩に背負い 自転車で家を出る
グランドに続く道には 前を歩くチームメート
はやる気持ちを抑えられず 一番乗りを目指して走る
グランドには すでに数人の子らが 集まっていた

練習が始まる
付き添ってきたお母さんも練習を見ながら 話に花が咲く
おしゃべりできなかったストレスを ここぞとばかり発散する
子どもたちは 嬉々として動き回る
子どもらの元気な声とコーチの明るい声が グランドいっぱいに広がる
いつもの春の風景だった

練習が終わる
三々五々家路に向かう
子どもらは友だちと 楽しそうにおしゃべりしながら自転車を押す
親たちも 春の陽光を受けて 気晴らしの一時を楽しんで歩く

札幌にも ようやく子どもの日常が戻って来た
こんな日が長く続いてほしいと祈るばかりだ
東京では 百人を超える感染者が出ている
おさまりつつある北海道に 避難してくる人もいるだろう
仕事や観光で 北海道にやってくる人もいるだろう
これからが 北海道も正念場を迎えることになる
拡散させないための 来道者の自覚と行動を信じたい
決して「自分だけは大丈夫」とは ゆめゆめ思うことなかれ
子どもたちの屈託のない笑顔と躍動感こそ
私たちの希望なのだから

〔2020年4月4日書き下ろし。今日土曜日の午前中、団地のグランドで少年野球チームの練習に出会った。こんな当たり前の風景が心から嬉しかった〕

付記
「道内学校再開へ 警戒も備えも緩みなく」
道教育委員会は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるため一斉休校していた小中高校などを、今週から予定通り再開する。道内の感染状況は、ある程度落ち着いていると判断した。混み合う公共交通機関で通う札幌圏の高校生などは時差通学も検討する。
知事の休校要請で、学期半ばで学校生活を断たれた子どもは、再開を心待ちにしたことだろう。ただ、道外では急激な感染拡大で休校を継続する地域があり、道内も少ないながら新規感染者が続くなど、予断を許さない状況だ。学校再開が「安全宣言」ではないことを肝に銘じ、学校も家庭も緊張感を保って、子どもの学校生活を軌道に乗せていきたい。
道教委の再開方針は、政府の専門家会議の分類で、道内は新規感染者や感染経路不明な感染者の増加が一定幅に収まった「感染確認地域」に当たるとみたためだ。感染確認地域について、専門家会議は、「密閉・密集・密着」を徹底的に避けた上で、感染拡大リスクの低い活動を容認している。当初、子どもは重症化する可能性がごく低いとされたが、最近になって重症化事例が出るなど、状況は変化している。毎朝の検温や体調の確認、マスクの着用、教室の換気などの対策が、子ども自身のために重要だ。家庭でも十分な目配りをしたい。
問題は再開後に児童生徒や教職員が感染した場合の対応である。
文部科学省は、接触者数や地域の感染状況、感染経路の確認の可否などを踏まえ、自治体が出席停止や休校を判断するよう求めた。気になるのはその基準だ。感染例の半数弱が集中する札幌市は、学校再開ガイドラインで、児童生徒や教職員の感染があった学校は14日間休校するとした。また、本人が感染したり、濃厚接触者とされるなどした場合の出席停止期間を定める一方、保護者が濃厚接触者でも本人に症状がなければ出席停止にしないとした。
検査が思うに任せない中、さまざまな事情で登校に慎重になる家庭もあろう。そうした不安を切り捨てず、出欠取り扱いや自宅学習の支援に配慮を求めたい。
忘れてならないのは、長期戦への備えだ。授業の遅れを取り戻すのも大事だが、次の臨時休校や分散登校で混乱を繰り返さないよう、態勢を整える必要がある。遠隔授業の仕組みづくり、学童保育所との連携、休校時の昼食対策など課題は多い。道教委には具体策の取りまとめを期待したい。(道新社説2020年4月5日付)