アホンダラが撥音化したことば
あんぽんたん
愚か者 あほう バカとののしることば
あんぽんたん
でも どこか憎めないことば
街をうろつき闊歩する者たち
湘南の海で戯れるサーファーたち
あんぽんたん
決して懲らしめているわけではない
やさしくいさめたい
あんぽんたん
コロナ禍で
ものの道理は知っている
どうしなければならないのかも知っている
それでもどうにもならない衝動が
抑えられない感情が
街へ海へと駆り立てて うごめき繰り出す
あんぽんたん
そう言われても どっちゅうことはない
切羽詰まった逃げ道を
いきり立った怒りのはけ口を
これからどうなるのかわからない不安を
もし罹ったらどうしようという恐怖も
避けられず 逆らえない コロナ禍で
生きることへのやりきれなさを
素直に吐き出しぶっつける
あんぽんたん
街に海に 逃げ場を求めて徘徊する
発散しないと 身体が腐ってくるような
発散しないと 心のダメージ広がるような
追い詰められて いてもたってもいられない
自虐な行動に 走る 走る
制御不能な 暴走行為
恐怖からの 逃走と迷走
あんぽんたん
身の危険を 敏感にキャッチして
身の置き所が どこにもないことを知りながら
身勝手な行動だと 叱られ叩かれようが
せめて仲間とつるんで その恐怖から逃れたい
いつか罹って動けなるかも知れない
そのときはそのときとあきらめようか
変に粋がり強がって 弱気を隠す臆病もん
あんぽんたん
ひとりぼっちでいるのは 哀しい
ひとりぼっちでこもるのは 苦しい
あんぽんたん
集まることは 恐怖心からの解放
群れ合うことは 絶望への思考停止
きょうもどこかで あてのない逃げ場を探して
囲い込まれた世界で 右往左往を繰り返す
その先に 立ち向かう希望が見えてくるまで
陰鬱な空気にあらがい 悲運と闘い続けるのだ
※はつおん(撥音):国語の音節の一。語中または語末にあって一音節をなす鼻音。[m] [n] [ŋ] [ñ] などの音。「ランプ」「遊んだ」「りんご」「パン」などのように仮名では「ん・ン」で表記する。はねるおん。
※あんぽんたん(安本丹):愚か者。あほう。ばか。多く,人をののしっていう語。
〔2020年4月23日書き下ろし。若者たちはこの尋常でない世界を敏感に察知して、その恐怖心からの逃避のために無謀な行動を起こすのだろうか。その衝動をどう抑えるのか。非難ばかりでは難しい〕