雪隠詰め

男は 美食家だった
口に合うものしか 寄せ付けなかった
一度腹を壊してからというもの
毒味役を置いて 最善の守りを固めた
これは食べさせられぬ 
それは食べてはならぬ
彼らは忠実に 役目を果す
だから 快適な暮らしを 7年もの間続けられた

そんな者たちが いつか三密(密室・密集・密接)化した
雪隠の如く 汚臭が充満してきた
その場にいる者たちは その匂いにマヒして
時には ジャスミン香にも似て 酔った
雪隠で饅頭を食べる者も 後を絶たなかった
金と出世の勘定を 心置きなくできた
この世のものとは思えぬ 至福の味を知ったのだった 
雪隠虫も所贔屓(ところびいき)
男たちには 最上の居場所となった
この汚臭は 所構わず7年かけて 全国に拡散した 
誰もが 空気のように当たり前に吸っていた

コロナ禍が 突然巨大化し襲ってきた
軽く見て油断してたら 
相当ヤバイ事態に直面し 心底慌てた 
嘯(うそぶ)いてきた政(まつりごと)を 
だます甘露を降らせる手立てはないものかと
男たちは 雪隠で考えた
臭いものには 蓋をするのが一番
金のばらまきが得策だと 男たちはニタリとした
民の口に戸は立てられぬと 誰かが言った
口封じのマスクを スピード感をもって配ることにした

コロナは 終息の気配すらなく 
やること全て後手後手で
嫌気と不安と恐怖を 感じて生き暮らす
三密を避け 手洗いマスクの励行は 
普段から衛生管理の意識が高いゆえに 習慣化された
マスクを外して 腐敗臭に 鼻をつまんだ
マスクでは防ぎきれない この悪臭の元を突き止めた
コロナ禍で苦しんでいる最中に
男たちが仕掛けた 御身安泰を約束させる 腐った法案だった
「#検察庁法改正案に抗議します」に680万件 声をあげた
公務員の定年延長と 抱き合わせたこの法案
森迷走法相を外してまでも 
予算委員会を 強引に乗り切るしかなかった
優先順位が コロナ対策より先とは信じがたい
国会で論議すべき貴重な時間が割かれることへの
正しい憤怒なのだ
 
男たちは 雪隠の火事(やけくそ)で
反対の声を 無視することに決めた
雪隠詰めに陥り 逃げ場はなかった
雪隠で饅頭を食べた者たちは
ただ従うほかなく 性根も腐って悪臭を放った

目詰まりではなく 糞詰まりの状態を自ら招いた
だからいま便秘薬が 男たちの常備薬となっていた

※甘露(かんろ):中国で,仁政が敷かれ,天下が太平になると,天が瑞祥 (ずいしょう)として降らせるという甘い露。

〔2020年5月12日書き下ろし。臭いものに蓋をする政治の世界が見事に出現している。検察庁法改正はその象徴である〕