男は 褒めてほしかった
ただそれだけだった
それ以上何も求めない
男は 褒められたかった
ただ それがうれしかった
それ以上の喜びはなかった
男は いつも褒めらた
なにをしても 褒められた
それ以上に 褒めてもらいたかった
男は手柄を 独り占めにしたかった
コロナ危機対策200兆円
「空前絶後」「世界最大」
何のための予算なのか
ザルのような中身は 詳しく知らなかった
規模だけただぶち上げて 喝采(かっさい)を浴びたかった
自己自讃の 誇張された言葉の数々
すでに 性根が見え見えだから
誰もこころは 動かされなかった
男は 欧米からすごく褒めてほしかった
男の欧米への対抗意識は 劣等感からだった
G7には 行きたくて行きたくてしかたなかった
ビジョンなく取り組んだ 結果オーライの「日本モデル」を誇りたかった
お友だちから よくやったねと褒めてもらいたかった
外交の評判を取ったのは
「まあまあ」の 中途半端な煮えきらない態度だった
どの国の指導者にも いい顔して憎まれなかった
隣国で悪く言われると 機嫌を損ないつきあいを切った
アジアの国には 金を惜しげもなくばらまいた
外遊は 施しを与えてくることだった
自前じゃないのに 気分がよかった
男は 褒めてほしかった
でも 褒められる材料が もうなくなっていることに
気づいていなかった
男は ことのほか世情に疎く鈍感だった
これからは 褒められることもないだろう
ただ たったひとつだけ残っていた
それは 潔くその座から降りることだった
〔2020年5月31日書き下ろし。アベノコンプレックスがこの国を危うくしている。逃げ恥は彼にはない〕