いままでというバイアス

濁流に飲まれし命 ただただ無念
天災と諦めきれぬ思い ただただ無情
被災地の無惨な爪跡 ただただ憮然(ぶぜん)

天気予報の確率を 誰が咎(とが)めよう
命の存亡に関わる 気候の急激な変動
ハイレベルのコンピューターを駆使しても
読み切れない事態が 現実そのもの
毎年繰り返される
五十年に一度 百年に一度の枕詞は 何の意味もない

毎年 降水と被害記録は更新中
毎年 被災地を変更中
毎年 予測不能は継続中

頼れるのは 現代科学の粋を集めたコンピュータシステム
その分析能力と 人間の叡智で導き出す気象予報
たとえ外れても 気象庁への信頼は 揺らぐことなど心配無用
ただ 切羽詰まった警報発令前に 
迅速に動くしか 防ぐ手立てはない

〈いままで〉こんなに水が出たことはない
経験知が 避難を躊躇させる
経験知が 安心のバイアスをかける
経験知の 根強い思い込みを棄てよう
最悪の想像をして 動くしか命は守れない
最悪の想像をして 逃げる支度をしておこう
最悪の事態を逃れたら それに越したことはない

〈いままで〉に縛られず 最悪の事態を想定した
直感に従う勇気も いま必要かもしれない

※バイアス(bias):考え方や意見の偏り。偏向。

〔2020年7月8日書き下ろし。想定外の水害、避難誘導のタイミングが今回も問われている。〈いままで〉というバイアスを解き放したい。台風シーズンはまだである〕