リスク・コミュニケーションの変質

福祉施設は 置いてきぼりを食った
クラスターが発生する可能性は 最も高かった
施設へウイルスが持ち込まれると
瞬く間に拡がり 多くの犠牲者を出していった

感染症は疾病だから 感染症研究者や医療関係者を招聘
2月14日 専門家会議が設けられた
科学的知見の乏しい閣僚と官僚は
医療崩壊危機を回避するため PCR検査を制限した
専門家会議の見解を都合よく切り取り 国民に告げてゆく
さらに とんでもない事態を招いた
文科省所管の大学病院を排除したのだ
PCR検査も治療も可能 かつ優秀な人材と医療器材を誇る大学病院が外された
大学病院を地域での感染対策拠点として 機能させるべきだった
専門家会議で スルーされたのはなぜなのか?
厚労省がイニシアチブをとったばかりに 文科省は全国休校対策に終始した
縦割り行政の弊害は リスク・コミュニケーションを阻んだ
その場しのぎの馬鹿げた失政を 繰り返す要因となってゆく
メディアは 総出で不安を煽る
世間は 差別と排斥で監視する

そもそも 危険を感知する想像力が 致命的に欠けていた
7年前「インフルエンザ等対策特別措置法」に基づいて
安倍政権は「行動計画」と「ガイドライン」を決めていた
平時からの医療体制の整備は 医療保険費抑制のために退行した
整備を怠ったことが この期に及んで明らかにされただけだった
全てなおざりにしてきた政治のツケを いま国民が払っている
10万円や感染症対応休業支援金・給付金で口封じとは 笑止千万
後世に 莫大な借金返済のリスクを負わせるだけのことだった
7年かけて感染対策していれば リスクの軽減は目に見えていただろう
対策の予算規模が過去最大で 世界的にも最大規模だと誇ったどや顔
なにをか言わん 
大失政を冒しながら 嘯(うそぶ)く男の開き直りがただただ見苦しかった  

福祉施設への防疫対策は おざなりにされていった
クラスターが起これば 施設内で隔離状態となり
さらなる感染を引き起こしていった
2月のダイアモンド・プリンセス号の教訓は まるで成功経験のようであった
リスク・ゼロではありえない福祉施設は 
3密・ソーシャルディスタンシングとは 真逆の仕事
リスク・コミュニケーションさえとらず
ただ感染防止に努めるだけを要求された
6月専門家会議は リスク・コミュニケーションの政府主導を提言した
それを最後に廃止され「感染症対策分科会」にお色直しされた
18人の委員の中には 福祉関係者は誰一人いない
福祉施設の実態を直接訴え審議する場すら 与えられなかった

分科会で 福祉関係者は蚊帳の外に置かれた
ここに リスク・コミュニケーションは 希薄化された
分科会で 政権の意向に沿った科学的根拠も疑わしい提言がまかり通る
ここで リスク・コミュニケーションは 変質化してゆく
国民生活の混乱と困窮は さらなる第2次流行を引き受けるしかない
ここから リスク・コミュニケーションは 死語化する

※リスク・コミュニケーション (Risk Communication) :社会的リスクに関する正確な情報を、行政、専門家、企業、市民などの利害関係にある関係主体間で共有し、相互に意思疎通を図る合意形成のひとつ。

※専門家会議の見解:2月24日に「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解」のこと。対策の目標を「感染拡大のスピード抑制」と「重症者の発生と志望者数を減らすこと」に絞った。ここで厚労省が先に国民に示した「相談・受診の目安」は、保健所でのPCR検査の抑制のためであったが、「条件」のようにすり替え正当化する役目を会議は果たすことになる。5月8日見直しを図るが、加藤信厚厚労大臣は混乱の原因は「目安が現場で一つの基準のように受け取られ、われわれからみれば誤解です」と責任を現場に押しつけたのである。

〔2020年7月23日書き下ろし。福祉施設のリスクを丸ごと抱えながら奮闘する。リスク・コミュニケーションの重要性をおろそかにする政権が、懲りずにオリンピック開催をぶつ〕