夢なき政争

「こんちは、いましたか!」

「あがっておいで」

「さっそくあがらせていただきました」

「すいませんね、お休みの時にお呼びだてして申し訳ない」

「溜まっておいででしょう」

「お察しの通り。あなたしかおりませんからね」

「いやいや、そうおっしゃられると、ありがたい限りです」

「先月の安倍さんの辞任表明から、次の人を選ぶ一連の流れに、政治の末期と末路を思い知らされています。安倍さんの政治の検証なんぞきっとしないでしょうし、辞めた人は叩かないみたいな変な世間の空気も相まって、また派閥がのしてきて高齢の方々がここぞとばかりに雁首並べて、仕切りを入れる。怖い国になりました」

「やっとお辞めになったかと思ったら、もう出来レースに早変わりとは恐れ入りましたね。管さんで決まりでしょうね。本当に風見鶏のように、アベノミクス継承宣言に何の批判もなくなびいていくその図は、見事としか言いようがありません。雛壇に三人あがっての記者会見もお葬式みたいで、気持ち悪かったし、外された二階さんも滑稽でしたね」

「自分らの力を誇示する政局は、最高の舞台になる。ああして演出しちゅうところにドンの力を強烈にアピールして面目躍如たる場にしたところから、管さんの悲哀が始まったような気がしますね」

「叩き上げの田中角栄さんのような庶民派とは、全く違う感覚の人のように思えますが」

「官房長官のような黒子でいるのがお似合いだった人が、どう変わるのか関心はありますが、取り巻きがああしたパフォーマンスをしているだけに、前途多難でしょう」

「国民は、安倍さんに愛想を尽かして飽きてしまったから、誰でもいいと思う気持ちがいま充満しています。その道筋を四人の爺さんたちが付けてくれて、逆らえきれない下々の議員は、後で仕打ちを受けぬよう、吹いた風に乗っかるだけのこと。右でも左でもない風任せの 議員さん、その正体が丸見えですね」

「そんな中で、岸田さんが貧乏くじを引いてしまったというわけですか」

「あの人ってああして自己主張できるんだって、初めて思いましたね。禅譲だって言われ続けてて素直に従ってきたものの、安倍さんからも見事に袖にされた。自分の主張がない人のようにキャラクターが固まって、国民受けが最悪だったにもかかわらず、政治は国民の人気投票じゃないからと我慢をしてきて、いざそのときが来たら、足下をすっかり崩され陸の孤島に立っていたという、何とも言い難い。戦う前に敗将となってしまった」

「舞台は、すでに人事に移りましたね」

「菅政権の人事は、もう派閥の圧力が強くて、そのパワーバランスを取ることで憔悴するでしょうね。下手な人事をすれば、すぐに反旗を翻す手強い派閥集団ですからね」

「無派閥の管さん、だれがゴッドファーザーになるか、人事で見えてきますか?」

「彼の自由にさせないために、派閥のドンたちは裏で何をしでかすのか、素人には全く読めません。二階さんが幹事長になれば選挙を仕切れるので、金も人も思うがままで、かなり有利になります。ここを外せるだけの度胸はないでしょう。外した途端、はしご降ろしにかかりますからね。財務、麻生さんだけは、勘弁してほしい。膨大な赤字財政の立て直しを誰に委ねるのか。ここは管さんの手腕に注目したいですね。連動する経済の復興は、やはり梶山さんの続投でしょうか。朋輩に支えてもらいたい思いは強いでしょう。弱点は外交ですが、米大統領選挙の結果次第では、4年間の反動で世界は再編成・再構成が起こるでしょうから、万全な対応を求められる外交能力の高い人が必要になるでしょう」

「コロナ感染症の対策は、この総裁選のせいでなにかいま小康状態が続いていますが、厚生労働も重要ですね。なにせ経済と直結する労働こそ、暮らしの基盤ですからね」

「厚労省が、後手後手で批判されることが多かったのは、専門家がこぞって正解を出せなかったことと、政治判断の稚拙さが絡まっての結果ではなかったかと、いまはそう思えますね。ただ、面白い動きをするのではないかと期待されるのは都知事の小池さん。なにせ管さんとは犬猿の仲ですから、オリンピックもコロナ対策も経済復興も、どんなバトルをしでかすのか、こちらも目が離せません」

「それは楽しみですね。政治家はバトルしあってなんぼの世界。忖度ばかりで、野党も力不足でバトルどころか、はなっから相手にされず、軽くあしらわれて負け戦ばかりで、不甲斐ない」

「自民党の総裁選の裏で、野党が結束し直して党首選びの最中ですが、話題性にこれだけ薄いのは、全く期待感がないからでしょうね。お茶の出がらしは誰も飲みたくない。そんな風に感じさせていること自体、当の本人たちには分かっていない。もっと多くの議員が立候補するかと思いきや、たった二人では政論も乏しく、まあ好きにしてって冷め切っています」

「ほんとにそうですね。先日ワイドショーを見ていたら、コメンテーターが盛んに、私たちはとか国民はとか、頭に付けてさもさもらしく語っているのを聞いて、なんだかわけもなく腹が立ちました」

「それはきっとあなた方に代弁してとは頼んでもいないのに、私たちはって一体誰のことを言ってるのということですね。本来ああいう立場で自分の論を展開するのに、私たちではなく、あくまでも私という一人称で論ずるべきなんですよ。そう語るのは、皆さんの思いを代弁していますという思い上がりでしょうか。あるいは媚を売るような方々のそんな態度に、きっと我慢がならなかったのでしょう。好きに話すは自由ですから、聞いている方が判断すべきです。ただ私たちはとか、国民はとか、決めつけたような言い回しは止めてほしいですね。私は私でいいんです。私たちでどっかで責任放棄している。これは議員の方々も同様ですね」

「国民がって、言った先から言葉が朽ちるって感じですね」

「仰るとおりです。だから議員の言葉に信頼を置けない。今回のようにやっていることも、石破落とし見え見えの姑息な選挙方法。党員選挙じゃ勝てないと二階さんは素早く判断。さらに国会議員の票を集めるのに、派閥のパワーバランスを利用するという、見事な策略。タヌキですね」

「公明党さんも、派閥もどきでは?」

「管さんはそこも抜け目はない。問題ありません。管さんもかなりのタヌキでしょう。でなければ無派閥でここまでのし上れない。問題ありません、すでに説明されていますって、いけしゃあしゃあと記者の質問に答えるときのあの口調、これからも続けるでしょうね」

「記者も記者で突っ込みが足りない。東京新聞の望月さんのような記者は出てこない。みんな子飼いのペットのように従順で、発表されたことだけ流すオウム返しの得意な方ばかり。反骨のジャーナリストって、いまいるんでしょうか?」

「そこですね。私はどこに判断のものさしをもっているのかを、毎度確かめていかないと、自分で考えることもおぼつかなくなってしまいます。問題はメディアが同調圧力に屈してしまうという事態です。偏った情報が世の中にまかり通ることを、一番恐れています」

「そのためにも、自分の判断を右寄りでも左寄りでもない前を向いて考えることが大事なんですね」

「上手いことを仰いますね。その通りです。どうも考え方が右だとか左だとかで政治を語るだけでは、テレビに出てくる顔見世興行のコメンテーターばかりが増えるだけのことですからね。私らはもっと前を向いて建設的なことを考えていきましょう。政治に夢をみたいですね」

「政治に夢を、ですね。だからこそ、自分の意見を持つことが大事になるんですね。こうして大家さんとお話することで、自分の考えが見えてきます。だから大家さんから声がかかると二つ返事で伺うのも、いまの自分の立ち位置を確かめることができるからと、そう思いますね」

「私もあなたと話していると、押しつけになるのではと思いながらも、つい楽しくて本音で語ってしまいます。こんな語り場こそほんとは必要なのに、地域からもなくなっていることが、一番問題なのでしょう。雄弁に語る方があっても、何やら批評家めいて誰かの受け売りだとすぐにバレてしまいます。政治と地域づくりや役所や住民のまちづくり、そんな自由な語り場がなくなったから、余計に政治の劣化、地域づくりの形骸化が起こっているんでしょう。地域に核になる人が育たないことが問題です。あなたのような人が一人でも育ってくれると、もっと地域も元気が出ると思うのですが」

「いやいや、買いかぶりです。でもこうして大家さんとお付き合いしていただくためにも、まちづくりにもしっかり身を置きたいと思います。民生委員の仕事も大事なお役目なんですね。それじゃ管政権が決まった折にでも、またお邪魔します。今日もありがとうございました。」

「あいわかりました。こちらこそ楽しみにしております。ところで、内閣が発足したら、すぐに衆議院解散ってなこともあり得ますよ」

「えっ、それもありですか!」

「利にさとい者たちは、なんでもありです」

〔2020年9月10日書き下ろし。波乱万丈の政治の世界。明日はまだ未定。だから目を離せない。離しちゃいけない。〕