眼光紙背に徹す

専門の書物は もう読めない
学生相手の教材研究
一つの字句 一つの事柄
分かりやすく 講義をするのに苦労した
消化不良で授業に臨み 恥をかく

専門の書物は 飾り物
課題研究 気取ってみても
一つの字句 一つの事柄
つまずき転んで 中途で挫折
難解な解釈避けて 放棄する

専門の書物は 代打役 
求めるよりも 求められるがままに
一つの字句 一つの事柄
テーマに合わせて 用語を重ねる 
かくて専門は もどきに変わる

専門の書物は お蔵入り
ストックされた見識も 怪しくなり
一つの字句 一つの事柄
テーマに合わず 自動消去
かっての専門は 専門外に鞍替えする

眼光紙背に徹す
そうありたいと 願いし日も確かにあった
そうしたいと 向き合う喜びの日もあった
歳を重ねて その力の貧弱さを知る

不意を突くように
書き出した文章が 
深意を語れと命じる
眼光紙背に徹せよと
書き手に求める
またまた こうして難渋する

その思考回路から逃れられず
いつまでも あがき続ける

※眼光紙背に徹す(がんこうしはいにてっす):書物を読んでただ字句の解釈にとどまらず、その深意を読み取る。

〔2020年11月17日書き下ろし。読み書きするということ。表現することの難儀をいつも抱えながら、恥ずかしながら言葉と遊ぶ。蔵書は目の肥やしか、見栄か〕