さよならも言えずに

来世の約束も 出来ぬままに
不思議な縁(えにし)に結ばれた
あなたは 一人旅立った

望みは小さなものなれども
ささやかに忍ぶ暮らしも
あなたとならば 仕合わせだった

野分けに冷たき風の吹きしころ
不意にコロナが襲い来る
あなたになぜと いたたまらなかった

我が身も心も投げ出せぬ
会うことすら叶わぬ病床で
あなたは 生死をさまよった

野に枯れる花なれしも
地には深き根を下ろす
あなたは 生還すると信じていた

救命のたゆまぬ努力費やすも
いのちの灯 小さくなりて
あなたは 静かに目を落とす

臨終に立ち会うこともできず
手を握ることさえ 拒まれた
あなたと さよならをかわせなかった

荼毘(だび)にふされた あなたを抱いて
二人の小さな仕合わせに感謝する
ありがとう あなた
さよなら あなた

〔2020年12月7日書き下ろし。コロナの死者数が増えている、さよならの言えない別れに辛さに家族もそして医療者も臍をかむ〕

付記
国内感染、1週間で1万5000人増 死者は233人増 新型コロナ
国内で確認された新型コロナウイルス感染者は7日午前10時現在、クルーズ船の乗船者らを含め16万3658人に上り、前週より1万5379人増えた。
死者は233人増で累計2372人。死者数の増加が顕著だ。1週間で確認された死者は11月2~8日が48人で、その後の2週は約20人ずつ増え、同9~15日が71人、同16~22日が93人。同23~29日は前週比45人増の138人だった。12月6日までの1週間では、1日当たりの死者が40人を超えた日が2日あり、11月29日までの1週間の死者より100人近く増えた。1週間で確認された新規感染者数は11月9~15日に1万人を超え、その後の2週は1万4000人台で推移していた。(時事通信2020年12月7日)