コロナ禍で 多くの人が 苦しみと悲しみ
そして憤りを抱きながら 生きてきたことだろう
大晦日もなく正月もなく 日々コロナと闘う
エッセンシャルワーカーの方々へ 感謝と敬意を払いたい
闘病生活を強いられている方々へ 一日も早い回復を祈りたい
不幸にも亡くなった方々には 心より冥福を祈りたい
経済的不安を抱えながら年を越す方々へ もう少しの辛抱だと
伝えることが出来るなら どんなにかいいだろう
不安が明ける夜を じっと待つしかいまはない
厳しい年越しの日に 希望の光を感じたい
スーパーには正月の食材が 大量に並べられていた
北海道は 正月のおせち料理よりも
大晦日の晩に 一番のご馳走をいただく
慣習は いまも食卓を賑わす
母は忙しく立ち振る舞った
父は子どもらを銭湯に連れて行く
戻ってくると丸いちゃぶ台一杯に
料理上手の母の手料理が並べられていた
満面の笑みを浮かべながら
四人の子らは ご馳走をよそいでもらう
年に一度の贅沢な食事に 舌鼓を打つ
必ず子ども一人ひとりにつけるのは 鯛のお頭つきの焼き魚
大阪生まれの母の こだわりの一品だった
絶品は銀杏を入れた茶碗蒸し
弟は鶏肉のアレルギーで 母と同様肉なし
仕合わせな時間は あっという間に過ぎてゆく
8畳間に二つの布団を敷いて 子どもらが寝る支度
母は台所で片付けに忙しい
その音を聞きながら 眠りにつく
傍らで 父は独酌で飲み続ける
枕元には 正月の晴れ着もどきが置かれていた
貧しかった
余計に大晦日のご馳走は いまも鮮明に残る
新年を迎える旧年のケジメの大晦日
家族の1年間の無病息災を感謝した 神仏への祝いの膳
そこに仕合わせな時間が
確かにあったことだけは 揺るぎない事実だった
ものが豊かになり 季節感も消滅し
いつでも美味しいものを たらふく食べられる飽食の時代
大晦日の晩餐に満たされる 豊穣な〈時の喜び〉は知るよしもない
不幸な時代に生まれたことを知らず 心貧しく正月を迎える
大晦日 冬型の気圧配置が強まり 強烈な寒波が列島を襲う
コロナとと共に自然の脅威が 傲(おご)った人間たちを叩き続ける
〔2020年12月30日書き下ろし。大晦日の一家団欒の記憶の中に、心が満ち足りてくる時間があった〕