静寂な世界

ある総合病院の土曜の午後
正面玄関から入り 検温して手指を消毒した
受付は 会計の窓だけが開いていて 
警備員が所在なくしていた
会計と薬の受け渡しを知らせる電光掲示板は
仕事を終え消えていた
黙礼を交わし 待合の長い廊下を歩き始めた

診察カードの自動チェック機も
電源が切られて置かれていた
調剤室の窓口を過ぎ 
検査室・処置室と向き合う 内科の診療室の待合には
いまは誰一人ソファーに座る人もいない
薄暗い廊下をさらに歩いていく
静寂な世界がただ続くだけだった

土曜の午後のある病院の当たり前の風景
月曜の早朝から土曜の1時まで患者でごった返していた
いま待合の廊下は 混雑から解放されていた
帰り際 モップで床を拭く清掃員がひとり
黙々と仕事していた
挨拶を交わし 外に出た

ただそれだけのことだった
何か不思議な静寂さが懐かしかった

〔2021年5月1日書き下ろし。休みなく動くコロナ治療の最前線も、いつかこの静寂さが戻ってほしいと願わずにはいられなかった〕