ヤングケアラーの君へ

学校に行く前も 帰ってきてからも
当たり前にしてきた ばあちゃんのお世話

朝起きたら真っ先に ばあちゃんの顔を見に行く
いま目覚めたばかりだというのに
ニコッと笑って 
おはよう 今日も頼むね
その一言が たまらなく嬉しい

トイレに連れて行って オムツを外して
便座に腰掛けさせる
きれいに拭いてあげると
また笑顔で ありがとう
今日は 調子がいい様子
部屋でオムツを取り替えると 
スッキリしたと また笑顔

台所から母のご飯だよの声
ばあちゃんをいつもの席に座らせる
右があたって不自由なばあちゃんも
左手でご飯を運ぶ
またいい笑顔で 美味しいね
ゆっくり食べてね 
食事を切り上げ 身支度する

元気に行ってきます
母の声が 背中を押す
放課後 頼むわね
今日は仕事が遅くなる日
だから 授業が終わると直帰する
部活も ここしばらくは 出たり出なかったり
そのうち顧問から どうするって呼び出し喰らうだろう

ただいま
ばあちゃんのおかえりの声を聞き 顔を出す
ニコッと笑う 嬉しそう
着替えてすぐに トイレに直行
いつも すまないね
慣れた手つきで オムツを取り替える
ほんとにありがとう

日中は誰もいない家で
誰とも話すことなく テレビで時間をつぶす
学校の様子や友だちの話が大好きで 聞き上手
滑舌が悪くなっても 孫とのおしゃべりを楽しむ
母はばあちゃんとゆっくり話すことができない
仕事が忙しくて 朝の支度だけで精一杯
ただばあちゃんをお風呂に入れるのは 母の役割
そこできっとスキンシップをしてるのかな?

今夜は 私が夕食を作る
遅くなる日は 母は前もって食材を用意しておく
そこんところはいつも感心する
段取りをきちんとしなければ 落ち着かない性格らしい

ばあちゃんは倒れるまで 主婦してた
小さいときに 母は離婚して実家に戻った
だからばあちゃんは 子育てに家事に休みなく働いた
だから安心して 母子は家事から開放されていた
母は仕事をいつ辞めさせられるかわかんないって 頑張るしかなかった
私も自分のことは出来るようになったし
ばあちゃんの手をわずらわせることも少なくなって
少しでも楽をさせたいと思っていた矢先
事態は一転した
母と私で分担しながら お世話するバトンをもらった

いままでいっぱいいっぱい甘えた分を恩返し
ばあちゃんの笑顔は 世界一
いつまでもこうして暮らせるよって 安心させたい
その一心で 母とのチームワークはバッチリ決まる

不満とかストレスとかって 友だちに聞かれるけど
ばあちゃんとのこんな暮らしが当たり前だから 特にない
母がいるときには 友だちとも遊べるし大丈夫
勉強は 学校で集中することにしている
宿題は 臨機応変に対応します
いまはただ 一日一日ばあちゃんの笑顔が絶えぬよう
私も元気に明るく笑顔でいることが モットーです

突然ばあちゃんが
食い入るような目をして 
いつも迷惑かけて ごめんね
笑顔の裏にある お世話されることの辛さを吐露した
あんたがやりたい大事な時間を取ってしまって
そんなの気にしないで 遠慮なくなんでもいってよ
あんたはこれからどうするのか それが気がかりなんだ
なりたいことを 決してあきらめちゃいけないよ
それこそ心残りになるようなら 私のせいだ
なんだかしんみりしてきたから そんな心配ご無用!って
ばあちゃんのお世話で 何もできない孫だって思わないで
私にもやりたいこと なりたい夢はあるんだから
大丈夫! ばあちゃんが応援してくれたら きっと叶うから

きっぱりと ばあちゃんの不安を断ち切った   
そう だから夢は決して捨てない あきらめない
ばあちゃんに見せるためにも 頑張るしかない
それがばあちゃんを元気づける 大事な三人の夢だと知った
今夜母が戻ったら 夢を語り合うことにしよう
中3の私 母似の段取りの良さで受験勉強に取り組もう 
ヤングケアラーって呼ばれているけど 
これからのばあちゃんの介護や 三人の生活のこと
ちゃんと話していこう

しっかりと現実を見て前向きに考えている君って ステキな女の子だね
3人でそうしてコミュニケーションをとるって とても大事だね
それが おばあちゃんにもとてもいいことだと思うよ
それでね 地域包括支援センターに相談してみてはどうかな?
介護保険の在宅サービスを受けることで
おばあちゃんをお世話するお手伝いができると思う
君は 自分のことに時間が割(さ)けるでしょう
おばあちゃんも 君への負担を軽くすることで少し楽になるかも知れないね
お母さんにも 少しだけ楽をしてもらおうよ
お母さんや君が 怪我をしたりコロナに罹ったりしたらどうしょう?
そんなときに困らないように 誰かに相談しておくことも必要だよね
三人で仕合わせに暮らしていくための 大事なこと
そこんところを 三人で是非話し合ってほしいな

〔2021年5月18日書き下ろし。在宅ケアを支えるヤングケアラーの実態を丁寧に把握して、適切な介護支援を是非お願いしたい。老人福祉施設や福祉サービス事業所にも社会貢献活動(公益事業)としての取り組みの是非を検討していただきたい〕

付記
ヤングケアラー相談拡充 政府、初の支援策
大人の代わりに家族の介護やきょうだいの世話を担う子ども「ヤングケアラー」への支援策を17日、厚生労働省と文部科学省のプロジェクトチームがとりまとめた。SNSを使った相談の充実や、子どもの負担軽減に配慮した福祉サービスの提供などが柱だ。
政府がヤングケアラーの支援策をまとめるのは今回が初めて。重視したのが、支援の入り口となる相談体制の充実だ。地方自治体が支援団体と連携して行うSNS相談などについて、国が来年度以降の財政支援を検討し、子どもが相談しやすい体制をつくるとした。
担当する学校の教員と行政機関のつなぎ役となる「スクールソーシャルワーカー」(SSW)らの配置を支援し、困難を抱えた子どもや家庭を見つけて支援につなげていくことも盛り込んだ。
さらに、介護保険などの福祉サービスなどを提供する際は、ヤングケアラーを家族内の「介護力」とみなさずにサービス内容を決めるよう自治体や現場に周知することも明記した。福祉や介護などの現場では、ヤングケアラーに関する研修も進める。
厚労省が4月に公表した初めての全国調査では、公立中学の2年生の5・7%、公立高校2年(全日制)の4・1%と約20人に1人が家族の世話をしていることが明らかになった。こうしたヤングケアラーは学校のある平日に1日平均4時間を家族の世話にあてており、学校を含め、相談したことが「ない」との回答がヤングケアラーの3分の2程度にのぼった。(朝日新聞2021年5月18日)