なぜ危険極まりない東京に 行こうとしてるんだ
黒歴史に刻まれる悪魔の祭典を 見逃すわけにはいかないしょ
かなり報道機関も 規制や拘束がかかるっていうぜ
アホらしい ルールなんぞ守ってられるかい
そんなお行儀のいいやつなんぞ いるはずはない
日本人はお人好しだから コロリと騙(だま)される
何を取材するんだよ
コロナで死にかかっている〈都市風景〉ってやつかな
五輪の取材は?
公式発表やらで インタビューなんか簡単に手に入る
家でテレビ観戦している連中の うっとうしさとか
炎天下 外で仕事している連中の やるせなさとか
熱中症で倒れていく連中の 顛末だとか
コロナで苦しんでいる連中の 病棟戦記だとか
夜の酒場で盛り上げっている連中の 厭世感だとか
東京の街で 生き死にしている人間の懐に入って
残酷かつ奇妙な滑稽さと異常さを 世界に発信するのさ
待てよ それって少しおかしくないか?
日本中が五輪で苦しんでいる様子を取材したって
面白くもおかしくもない!
そのために東京まで行く必要があるのか
そこだよ そこなんだ!
「犠牲」という本当の意味を 誰が知らせるんだ
「責任」という本当の取らせ方を 誰が伝えるんだ
五輪に現(うつつ)を抜かして 私腹を肥やす連中を
一体誰が糾弾し 誰が裁くんだ
当たり前の暮らしが 五輪で犠牲にされても
家に閉じ籠もって 熱中症になっても
救急車で運ばれて たらい回しにされても
コロナで仕事をなくし 子どもにひもじい思いをさせても
一体何のために五輪をやるのかさえ あやふやにされても
五輪への恨み辛みを抱えて 抗うことなく辛抱強く我慢する
礼儀の国であるがゆえの約束で 邪悪(よこしま)な歴史を刻む
為政者たちは 常に歪曲した報道管制をしく
真実を隠蔽するのは 分かりきっている
そこに メスを入れなければ 暴かなければ なんぼのもんだ
ありのままを 見たままを 聞いたままを 感じたままを
ひとりの人間として ジャーナリストとして「記録する」
ルールを 破るんじゃない
そもそものルールが 間違っていることを証明する
そのためにも 街に出ていく
その覚悟がなければ 黒歴史の立会人にはなれない
東京の狂気に満ちた祭典の顛末を 報道するのがオレの仕事だ
火中の栗を拾わなければ 真実は逃げていく
五輪中止を訴えきれなかった せめてもの償いかもしれない
そうか 強制出国にならぬよう気をつけろよ
心配ない 楽勝!
大勢で規制を破るから 警備のしようがない
いろんな国の 記者連中がとっ捕まるから
警察には通訳が足りなくて 即刻根を上げる
五輪で通訳は手一杯だから お咎めなしで放免される
日本の警戒体制なんぞ戦場とは雲泥の差 いいとこ限界だね
まずは東京から送るスクープ 楽しみにしてくれ
「潜入東京五輪 管(すが)下統制で隠蔽された真実」
〔2021年6月6日書き下ろし。プレーブック(規則集)の順守など誰が信じますか。特にジャーナリストには、無理です。どんな特ダネが報道されるのか、不埒な想像をする〕
付記
五輪開催は「安全なTOKYO2020オリンピック・パラリンピック」と表記したのみだった。
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は3日の参院厚生労働委員会で、東京五輪・パラリンピックについて「こういうパンデミック(世界的大流行)でやるのが普通ではない。やるなら強い覚悟でやってもらう必要がある」と話し、徹底した感染対策を求めた。近く専門家の考えを示すことも明らかにするなど、開催ありきの政府や五輪関係者にくぎを刺す発言が相次いでいる。
尾身氏は、五輪開催時は全国から会場への観客の移動、パブリックビューイングなどでの応援といった要因から新たな人の流れが生まれると分析。「スタジアムの中だけのことを考えても感染対策ができない」と指摘した。「ジャーナリスト、スポンサーのプレーブック(規則集)の順守は選手より懸念がある」と、来日する大会関係者らの行動制限にも不安を漏らした。…(東京新聞2021年6月3日)