「老爺心お節介情報」第27号
〇7月に入り、各県でのCSW研修などが開始され始めましたし、各地での地域福祉実践セミナー開催の情報も届くようになってきました。
〇皆さんの地域での新型コロナウイルスの感染状況や新型コロナウイルスのワクチン接種の進捗状況は如何でしょうか。
〇私は、インターネットをそれなりに使えますが、それが使えるからと言って、ワクチン接種の予約をインターネットで取ることに“抵抗感”があり、“IT弱者の高齢者”の方の“思い”を少しでも分かろうと考え、電話のみで予約しようと試みてきました。結果は、当初7月15日と8月5日と言われましたが、後に少し早まり、結果的にワクチン接種は第1回目が7月5日、2回目が7月26日になりました。妻からは責められましたが、インターネットは使わずに予約を行いました(インターネット予約のサイトは開いては見ましたが。電話が架からず、大変な状況でした)。
〇これからの社会、生活上でITを使えない高齢者や障害者はますます“不利”になっていきます。それを社会福祉関係はどう考え、どう対応しようとしているのでしょうか。
〇 今回の「老爺心お節介情報」は以下の通りです。
Ⅰ 「障害者権利条約 日本の初回審査とパラレルレポート」(『新ノ-マライゼーション』2021年6月号、公益財団日本障害者リハビリテーション協会発行)
日本は障害者の権利条約を批准しましたが、その実施状況を審査する初回審査が予定されました。実際には、新型コロナウイルスの件で、その審査は延期されました。この初回審査に向けて、政府の報告書とは別に、国内の民間の団体が意見を述べることが規定されており、それが「パラレルレポート」と呼ばれているものです。
『新ノ-マライゼーション』2021年6月号では、「日本の初回審査とパラレルレポート」(長瀬修)、「JDF総括所見用パラレルレポートについて」(佐藤聡)
「障害者権利条約についての日本弁護士連合会の活動――あらゆる差別や人権侵害からの救済とパラレルレポートの作成―」(野村茂樹)の3つの論稿が収録されています。
この論稿の中で、「地域共生社会」の具現化、地域福祉実践において重要な項目をいくつか取り上げます。
① 国連の権利員会からの質問で、「自立した生活及び地域社会への包容」について、「未だ施設にいる障害者、施設から退所した障害者と彼らの現状について、とりわけ性別、年齢、居住地、支援提供の有無によって分類した数値」に関する情報を政府に求めています。――「地域福祉計画」策定時に、地域で一人暮らししている障害者の人数、その障害種別を全国の地方自治体が把握していないことは以前の「老爺心お節介情報」で指摘した通り。
② 日本では成年後見制度で良かれとおもっている関係者が多いが、障害者権利条約では、このような代理決定は認められておらず、“後見制度下にある人達を対象に、支援付き意思決定支援への転換”の指摘。
③ 政府から独立した「権利条約の実施及び監視に関する機関」の設置―――日本にはない。
※1992年に、私がイギリスの在外研究で訪ねたたロンドンのある区では、区長直結のポストがあり、その人は障害を有していた人で、その区のあらゆる政策、事業、条例に関し、障害者に不利益になっていないかをチェエクする機能、役割、権限を担っていたことに驚いたことがあった。
④ 手話言語の認定に関すること。
※ 私も含めて、地域福祉関係者はどれだけ障害者分野が大きく変わり、かつ従来の“障害者福祉”では対応できない課題があることを理解したうえで、地域福祉実践や地域福祉計画づくりを考えているであろうかーー自省的省察。
Ⅱ シルバー産業新聞連載記事第6回
「国際生活機能分類(ICF)と自立生活支援」
社会福祉分野は人力によるサービス提供が、人にやさしいサービスであるという呪縛に長らく囚われてきている。その結果、サービス従事者の腰痛等を引き起こし、介護現場はきつい労働現場というイメージを作り、“3K職場”と言われるようになってしまった。
他方、社会福祉分野は、身体機能の診断とその対応策について1980年に世界保健機関(WHO)が制定した国際障害分類(ICIDH)による失われた機能を補完するという医学モデルに囚われ、その人々の生活環境を改善して、生活の質(QOL)を高め、その人の自己実現を豊かに図るという社会生活モデルからの発想、視点は弱かったと言わざるを得ない。
1990年の社会福祉関係八法改正や戦後の社会福祉行政の基礎構造を改革したといわれている2000年の社会福祉法への改称・改正により、今日の社会福祉における「自立」の考え方は、今までの連載でも指摘してきたように、憲法13条に基づく国民の幸福追求権を前提に福祉サービスを必要とする人の人間性の尊重及び個人の尊厳を踏まえた地域での自立生活支援へと転換された。
従来の社会福祉における「自立」観に大きな影響を与えていたのは、1980年に世界保健機関(WHO)が定めた国際障害分類(ICIDH)であった。それは、身体的機能障害に着目し、それを固定的にとらえ、身体的機能障害があるとそれがその人の能力不全につながり、ひいては社会生活上の不利を産み出すという考え方であり、かつその3つの機能の相関性が強いと考えられた。そこでは、身体的機能障害を医学的に診断することが前提になる。しかも、それらの診断は本来あるべき身体機能が欠損しているというどちらかといえばマイナス的側面に着目した診断と言えた。
ICIDHが2001年にICF(国際生活機能分類)に改訂された。ICFは、その人の身体的機能障害の診断もさることながら、その人の能力不全や社会生活上の不利になる要因として、その人の生活環境にも大きな要因があると考え、生活環境を改善することによりそれらの能力不全や社会生活上の不利を改善できると環境因子の重要性を指摘した。それは言葉を替えて言えば、身体的障害に着目することよりも、生活機能上の障害に着目する考え方であった。ICFという新しい考え方は、ICIDHが医学モデルと呼ばれたのに比して、社会生活モデルと呼ばれている。
その考え方は、何も身体的機能障害を有する人にのみ求められる対策ではなく、一人暮らし高齢者も生活のしづらさという生活上の機能障害を抱えるという意味合いで、支援・対策が必要となる。このように考えると今後は“障害”概念それ自体の見直しが必要になってくる。
総務省は、2021年10月に実施する「社会生活基本調査」の項目に、“心身の状態により日常生活に支障があるかどうか”を質問する項目を加えた。この“生活のしづらさ”を事実上加えたことは、従来のICIDHでなく、ICFの視点に基づいた“生活機能の障害”を問うもので重要な変更である。
病院での疾病治療や身体機能回復訓練としての狭義的な意味合いでの“リハビリテーション”、あるいは入所型社会福祉施設での生活を支援するという場合には、ある意味ICIDHの考え方で対応できたかもしれないが、今日のように地域での自立生活支援が主流になってきている時代においては、より生活環境を重要な要因として考えるICFが重要となる。今、進められているITや福祉機器の活用により、ケアの考え方も一変し、一種の“介護革命”ともいえる時代状況になってきている。
ところで、生活環境を整備しても、要は生活者である住民自身が自らの生活を改善、向上させようという意欲や意志がなければ生活は改善されないし、向上もしない。残念ながら、ICFは、“統計上の分類のための指標”という面があるので、当然のことながら個人因子である個人の意欲、意志、希望などは対象になっていないし、それらに影響を与えている個人の生活歴、生活体験なども指標に組み込まれていない。
また、生活者である住民の置かれている立場、社会環境ということについても考えられていない。つまり、その人が生活上「出来ること」と立場上「せざるを得ないこと」との違い、また、そのことに対して「する意欲があるかどうか」については整理しきれていない。地域での自立生活支援においては、立場上あるいは生活環境上「せざるを得ない」立場の人が生活上それができていないことが問題になるわけで、地域自立生活支援では、単純に身体的にできるかどうかというレベルだけでは対応できない課題を考えてサービス提供の在り方や生活環境を改善する必要がある。
地域での自立生活支援を促進するために、ICFの視点を踏まえた生活環境を変えるICTや福祉機器の役割は大きい。かつての肉体労働とは異なる、ICTを活用した労働の機会が増大している。また、ICTを活用しての意思表明やコミュニケーションが可能となり、自ら感じたことを自己表出させることも可能になる。さらには、座位保持装置や立位保持装置の活用、服薬管理を支援するロボット、脊椎損傷の方の食事介護ロボット等も自立生活支援に大きな役割を担える。
このように考えてくると、これからの福祉サービスにおけるアセスメントではどうICTや福祉機器を活用するかが問われることになり、介護支援専門員や障害者相談支援員の業務におけるICFの視点を踏まえたICTや福祉機器の活用が重要な、かつ大きな課題である。
(2021年7月3日記)