秋の彼岸法要

コロナ禍で老人施設の法要も様変わりした
新年の法要からONLINEが活用された
施設内の各階のホールにある大型のテレビに流れる
その様子を利用者家族にSNSで流した
信心深い母の姿を見つけた娘から感動と感謝の言葉が添えられた
師はコロナ禍での法要のあり方に不安もあったが喜びを禁じ得なかった

お盆は法人の廟でONLINEで行った
1979年共同墓苑「友愛の廟」を市民墓地の一角に建立した
そもそもは入所者の老女の苦悩を僧侶である37歳の師が聴き取った
「後妻に入った私は、先妻と一緒の墓に入るわけにはいかない」
廟ができその老女は心安らかにして旅立った
施設で亡くなった人ばかりかその親や子
法人とはゆかりのない引き取り手のない人もここに眠る
『因縁諸生法 縁欠不正』(いんねんしょしょうほう えんけつふしょう)
(この世に在る全ての生きとし生きるものは、因縁によって存在する。縁がなければ決して存在することはない}
縁がなければここで縁を結ぶのが役目と屈託なく笑う

秋の彼岸法要がONLINEで始まった
82歳の師は仏間にしつらえた祭壇の前で経を唱える
数人の利用者しか入れない規制された部屋の外には
20人近い利用者と職員が取り囲む
各階では十数名の利用者が画面に手を合わせ
まわってきた香炉にしめやかに焼香を済ます
南無阿弥陀仏と20分の読経を終え説法に入る

最近声が出ないと言い訳をすることが多くなったが
親鸞聖人の「人は煩悩具足の凡夫である」ところから入る
50余年もの間語り続けてきた法話をいつもの節回しで展開される
画面には大写しで目の前の利用者に語りかける楽しそうな表情を捉える
昭和38年老人福祉法が制定された当時からいまの長寿まで
数字を挙げてさりげなく比べる数字に強い一面を垣間見せる
入所者の百歳以上の五人の名を紹介しながら長寿の秘訣を披露する
時に笑いを取りながら久しぶりに20分の法話を終える

心安らぐ法話だった
師の話し方には人の心に添う優しさと包容力をいつも感じる
ONLINEで視聴した人にもそのおもいは伝わっていたであろう
部屋に戻った師に参列者の様子と感謝を伝えた
謙遜しながらも安堵した表情が嬉しかった

ONLINEでの物足りなさを感じながらも
もうしばらく辛抱してください
来年の新年の法要はいつものようにホールでいたしましょう
そんなおもいを強くした秋の彼岸法要の一コマだった
南無阿弥陀仏と唱え合掌する老人たちの姿が美しかった

〔2021年9月25日書き下ろし。昨日施設でONLINEで行った師の彼岸法要を綴る〕