6日は21年目の父の命日だった
父は新日本製鐵の高炉マンだった
鉄鉱石を高炉(溶解炉)で製鉄にする仕事だ
高炉から吐き出される真っ赤に溶け出した鉄
噴火した火山の真っ赤な溶岩の流れとよく似てる
高く火花が上がる現場は猛烈に熱い
吹き出す汗に一仕事終えると岩塩をかじった
火傷が絶えない現場は怪我や事故が疎まれた
人の手が鉄を高炉から掻き出す
働き方や事故の防止そして業務の改善
そのことが直接良質の製鉄の生産量に直結する
現場はアイディアの宝庫だった
遺品に提案に対する何枚もの小さな賞状があった
金一封は仲間との飲み代に化けたことだろう
誇ることもなく厳しい三交代勤務をこなしていた
鉄は機械・自動車・情報通信機器など
日本の様々な産業の基盤となっている
鉄を取り出す最初の工程の現場に立つ人がいる
安全操業と鉄を取り出す業務の改善に力を尽くす
父の労働者としての意気地は仕事への責務だった
そこは人でしか為しえない鉄との語らいの現場だった
若い者をよく家に連れて来た
一つ間違えば大きな怪我につながる
危険な現場はチームワークがすべてだ
仕事を生半可に覚えてはならない
徹底的に鍛える父に若い者はついていく
現場の指導は信頼にたる技術と人柄しかない
父はおやじと慕われながら次の世代を育てる
目標と目的を明確に示しチームを束ねる
その上ではじめて生産性の向上が可視化されていく
父とそんな会話をした一日だった
〔2021年10月7日書き下ろし。長女が夜遅くお参りにきた。次女はまだ仕事をしている時間、土曜にやって来る。孫が来てさぞかし嬉しかったろう〕